愛を込めて私は歌い続ける『ヴォイス・オブ・ラブ』レビュー
世界的な歌姫セリーヌ・ディオン。テレビドラマや映画の主題歌にも起用され、日本でも高い知名度と人気を誇る彼女の半生をもとに、愛に溢れた音楽映画が誕生した。
1960年代のカナダ、ケベック州に暮らす音楽好きな一家の14人目の末っ子として誕生したアリーヌ(ヴァレリー・ルメルシエ)。幼い頃から人前で歌う機会が多かったアリーヌは、その類いまれな歌唱力で注目を集めるようになる。歌手を目指すアリーヌのために、母と兄は地元の著名な音楽プロデューサー、ギィ=クロード(シルヴァン・マルセル)にアリーヌのデモテープを送る。そしてギィ=クロードに見出だされたアリーヌは12歳で歌手デビューを果たし、またたく間にトップ歌手の階段を上ってゆく。しかし、いつしかアリーヌの中で、自分を世に送り出してくれたギイ=クロードへの尊敬は愛情へと変わっていき、ギイ=クロードもまたアリーヌを深く愛するようになってゆく。
スターの伝記映画でよく描かれる、家族との不和、富と名誉を得たことによる人間関係の破綻、恋愛や酒に溺れ自らを破滅に導く…といったことが全くこの映画には出てこない。
それほどアリーヌ=セリーヌ・ディオンの人生は愛と幸福に彩られてきたのだろう。逞しい母と優しい父、明るく陽気な13人の兄と姉たちのもとでのびやかに育った少女は、26歳年上の大人の男性ギイ=クロードを真っ直ぐに愛する。家族の反対に遭いながらも、二人は公私に亘るパートナーとして輝かしいキャリアを共に歩み始めるのだ。
セリーヌ・ディオンと彼女の夫の愛情深い結婚生活はニュースに取り上げられることも多かったため、記憶している人も多いことだろう。本作はフランスの人気女優ヴァレリー・ルメルシエが監督・脚本、そしてさらには主演も務め、セリーヌの半生をモチーフに映画化した。何といってもセリーヌ・ディオンの名曲の数々が劇中に登場し、華やかなステージも忠実に再現されているのが見所だ。楽曲は今回フランスの若手歌手ヴィクトリア・シオが素晴らしい歌声でカバーしている。スーパースターである一方、恋愛や結婚、出産と一人の女性としてもひたむきに人生を重ねていく姿もユーモアたっぷりに温かい眼差しで描かれている。
世界的歌手としてのプレッシャー、世間からの絶え間ない注目、愛する人たちとの別れなどさまざまな困難も家族、夫との強い絆があったからこそ乗り越えられた。彼女の歌声の根底にある強さと愛、それが今なおセリーヌ・ディオンが愛される理由なのだろう。スーパースターとして一人の女性として輝き続けるセリーヌ・ディオンの物語は今冬必見の一作だ。
文 小林サク
『ヴォイス・オブ・ラブ』
©Rectangle Productions/Gaumont/TF1 Films Production/De l’huile/Pcf Aline Le Film Inc./Belga
©photos jean-marie-leroy
12月24日(金) ヒューマントラストシネ有楽町、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷 先行公開
12月31日(金) 全国ロードショー