母なる湖は 小さな地球『Mother Lake マザーレイク』鑑賞記



滋賀県でオールロケを行ったことでも話題となった『Mother Lake』の舞台挨拶が行われ、瀬木直貴監督が登壇した。(2017年6月24日 名演小劇場)

『カラアゲ★USA』(2014年)『ルート42』(2012年)など所謂“ご当地映画”の枠を超えた地元の魅力を活写することで定評のある瀬木監督により、少年の、家族の成長と、大いなる自然の母性を描いた物語に仕上がった。
昨年滋賀県、京都府での先行公開を成功させたヒット作を観ようと、梅雨の晴れ間の土曜の午後、大勢の映画ファンが集まった。

『Mother Lake』ストーリー:
2036年7月、藤居亮介(内田朝陽)は故郷に帰ってきた。写真家の彼が琵琶湖の舟上で構えるカメラのレンズの先には、まるで涅槃像のような沖島が湖面に浮かんでいる。亮介は20年前、小学5年の夏に思いを馳せる――。
2016年、亮介(福家悠)は親友・賢人(松田峻佑)、賢人の親戚・咲(田中咲彩)と一緒に、夏休みの自由研究を取り組んでいた時、琵琶湖の有人島・沖島で謎の巨大生物を目撃する。伝説のUMA「ビワッシー」かと色めきたつ三人だったが、仕事中の父・潤(別所哲也)を偶然見かけた亮介は、途端に苛立ちをあらわにする。
数年前に著名な写真家である母を病気で亡くしてから、亮介、父、そして叔母・園(鶴田真由)ら家族の悲しみは深く、互いにすれ違いやわだかまりを抱えつづけているのだった――。

瀬木直貴監督 『Mother Lake』は、まさに母なる湖そのものである、日本一大きい琵琶湖を舞台にしております。タイトルの割りに、この映画の中には「Mother」が出てきてないんですよ。それは、皆さんにとってのマザーって何かと問いかけたいという意図もあって、この映画を形作っていきました。この映画を撮る切っ掛けは、地域で一緒になって作る私の映画創りをずっと見てきたBOSS戸田(「茶谷有二郎」役で出演)が、「我が故郷でも映画を撮ってほしい」と言ったからです。映画を意識して滋賀県に行ったのが、3年くらい前になります。
滋賀県は子供の頃や学生時代も良く行っていた場所なんですけど、なかなか捉え所がない県でした。北にも東にも西にも開けていて、歴史上も人が往来して、色んなメンタリティが集まってる場所なんですよね。その中で出会ったのが、「龍神信仰」でした。琵琶湖の北の方に龍神様を祀っている社が多くて、竹生島が特に有名です。龍神様は、信仰上は天と地を司る……間を結ぶ、「雨」なんです。これは日本だけでなく、中国でも東南アジアでも同様で、水の神様なんです。この映画は龍神様を通じて、水の大切さを伝えられればと思っています。滋賀県は、大きい湖がありまして、その四方を山に囲まれている地域です。山に降った雨が、川を流れ、海(湖)に至る。それがまた水蒸気として、雲になる……琵琶湖を中心とするエリアが小さな地球のような、そんな印象を受けました。

瀬木監督 もう一つ、モチーフにしたのは、ネス湖の「ネッシー」の話です。皆さんご存知の有名な写真がありますが、「あれは玩具でした」って爆弾発言で世界中のネッシー信者や少年たちの心が砕け散ったりしたんですけれど、それもちょっとモチーフにしました。ネッシーはそんな一大スキャンダルもありながら、実はハリウッドもイギリス映画界も映画化していない……そんなことも気が付きまして、盛り込んでみました。
滋賀県の琵琶湖を周辺とするエリアは、実はどこに目を着けても家が写るし、人が入るんですね。風光明媚な、ワイルドな美しい風景は世界中たくさんあるんですけれども、内陸部の風景っていうのはそんな粗削りな、ワイルドな美しさではなくて、どこを向いても人の生活の営みが感じられるような風景が、湖や河川の周りにはあるんですよね。そんな人の営みの美しさに懐かしく想いを馳せてもらえたら、そういう映画になれたらと思っております。
撮影したのは2年前でして、去年滋賀県では、全映画館8館で公開しまして……近江神宮(大津市)で撮影された『ちはやふる』と同じくらいの興行収入になりました(場内笑)。地元の皆さんに愛していただいてる映画かと思っています。

舞台挨拶が終わった後も、瀬木監督は記念撮影に質問にと大勢の観客に取り囲まれたのだが、幸運にもインタビューの機会に恵まれた。

Q. 「ビワッシー」の造型が、凄く個性的でした。
瀬木監督 そうなんです。ナショナル・ジオグラフィック誌の特集を参考に新しい学説をモチーフとしています。それと同時に、あの辺りの地層が勝山断層まで繋がっているとすると、琵琶湖に何らかの古代生物が生き残っていたとすれば、いわゆる首長竜ではなく、白亜紀後期の水棲適応したスピノサウルス以外あり得ないだろうと考えたんです。CGで作ってるんですけど、骨格のリアリティもかなり追及してます。あと、色も……T(ティラノサウルス)-REXなんかも凄く極彩色だったという説がありますが。特に水の中なので、ヌメッとした質感をどう描こうかと、予算の無い中でもCGで色味とかのリアリティはちゃんと出そうと思いました。

Q. 琵琶湖の龍神信仰が出てきたんですけど、「4年に一度」っていうのは実際にある話なんですか?
瀬木監督 あれはフィクションです(笑)
Q. 舞台となる2016年と2036年というのは、この「4年に一度」に合わせたんですか?
瀬木監督 そうです、合わせました。それと、地元(滋賀県)での公開が2016年の夏でしたので。
Q. オリンピックイヤーにも合ってますが?
瀬木監督 それは、偶然です(笑)

『Mother Lake』は全国上映がスタートしており、現在は名演小劇場だけでなく、滋賀県(イオンシネマ草津)で上映されている。今後は神奈川、大阪、広島、大分、熊本、静岡と、順次拡大公開が決まっている。
人々の成長を慈しみ、神秘と伝統を湛えつづける“母なる湖”を、是非とも劇場の大スクリーンで感じてほしい。

取材・文:高橋アツシ

『Mother Lake マザーレイク』
配給:ソウルボート
©2016映画「マザーレイク」製作委員会

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