名古屋の映画館は、世界一ィィィイイイイ『劇場版 シネマ狂想曲 ~名古屋映画館革命~』鑑賞記



新幹線に乗降する人々で常に混雑している名古屋駅の太閤通口は待ち合わせのメッカで、既に撤去されてしまった目印が名前だけ残り、今も「壁画前」と呼ばれている。太閤通口を出て百合の噴水のスクランブル交差点を渡り、そのまま西に歩くと左手にアートビルという黄色と水色のビルが見えてくる。
アートビルの北壁1階部分には、映画のポスターがずらりと並び、設置されたモニターは映画の予告編を繰り返し映している。そのまま角を左に曲がり西側の外壁に目を向けたなら、大書きされた文字や映画監督の似顔絵、所狭しと張られた告知POPに驚くことであろう。往年の映画館に掲げられていた、手描きの大看板を想い起こす人も多いかもしれない。
名古屋市中村区椿町アートビルの1階、シネマスコーレは、スクリーン数1・座席数51のミニシアターである。創始者である若松孝二監督が、上映機会に恵まれない映画を公開するために造ったシネマスコーレは、今もその精神を継ぎ続けている。
監督自ら持ち込む作品は後を絶たず、上映に際しても、仰天の舞台挨拶、奇抜なオリジナル・フード、驚愕の企画で映画を全力サポートする姿勢は、観客のみならず多くの制作陣を魅了してやまない。
2012年10月17日に若松孝二監督が逝去した後も、シネマスコーレは「インディーズ映画の聖地」と呼ばれ、2018年2月には開館35周年を迎える。

シネマスコーレが、インディーズの聖地で、否、シネマスコーレで在り続ける原動力に想いを馳せる時、絶対に忘れる訳にはいかない一人の映画バカがいる。
坪井篤史シネマスコーレ副支配人、その人である。
【アメージングでカルトな映画祭(アメカル映画祭)】の仕掛け人としても有名な坪井は、VHS版の映画ソフトを7,000本以上も収集する「VHS狂人」としても名を馳せている。VHSテープが山と積まれた(誇大表現でなく!)所蔵部屋(通称「アメカル部屋」)は、上映時にシネマスコーレを訪問する映画人にとってもオアシスとなっているのだ。
(写真は、坪井副支配人を囲む女優・中原翔子(左)広澤草(右))

そんな坪井副支配人が「名古屋映画館革命」へと邁進する姿に半年間300時間を掛けて密着したドキュメンタリーが、『シネマ狂想曲 ~名古屋映画館革命~』である。坪井が名古屋を映画において最も熱量のある地域にするという野望達成に向け東奔西走する姿は、2017年2月1日名古屋テレビ放送(メ~テレ)でオンエアされ、大反響を呼んだ。
『劇場版 シネマ狂想曲 ~名古屋映画館革命~』はTV版『シネマ狂想曲』を再編集したもので、未放送映像が大幅に追加された。そして、新たにナレーションを務めたのは、坪井も大好きな映画監督であり大好きな俳優と言う竹中直人だ。

シネマスコーレでは、2017年4月29日(土 祝)より『劇場版 シネマ狂想曲 ~名古屋映画館革命~』を公開している。
劇場版の公開に際して「中の人」坪井篤史が手を拱いているはずもなく、初日には本編にも出演している『超・悪人』(2011年/88分)、『コワすぎ!』シリーズ(2012年~)、『ボクソール★ライドショー』(2016年/25分)、『貞子vs伽椰子』(2016年/99分)の白石晃士監督、女優・久保山智夏が駆け付けた。

久保山智夏 『シネマ狂想曲』なんですけど、大変狂った映像でございます。かなり凄い内容になってますので、笑っていただいて結構です(場内笑)。手拍子していただいても結構ですし、応援する気持ちで温かく観ていただけたらと思います。

上映前に登壇した久保山は、満席の客席を大いに沸かせた。彼女は『劇場版 シネマ狂想曲 ~名古屋映画館革命~』公開に当たり、なんとスタッフとしてシネマスコーレに常駐しているのだ。5月2日までだそうで、期間内にシネマスコーレを訪ねた観客は、女優からチケットを手渡されるサービスに面食らうことになるはずだ。
上映後の舞台挨拶に立ったのは、久保山智夏と白石晃士監督、『シネマ狂想曲 ~名古屋映画館革命~』樋口智彦監督、【超次元トビダシステム】で口裂け女を務めた南條琴美、【超次元絶叫システム】の演者まぷさん(貞子役)、うらる(伽椰子役)、そしてもちろん、坪井篤史副支配人という、総勢7名もの大所帯であった。

樋口智彦監督 ゴールデンウィーク初日にこんな映画を選んでくださり、本当にありがとうございます(場内拍手)!
坪井篤史 半年間300時間も(カメラを)回していただきまして、本当に狂ったものが出来上がったと思います。自分で観て衝撃だったのが、僕が映画を観てる時の顔……ヤバいですね(場内大笑)
樋口監督 あれは、劇場版の醍醐味ですね。
白石晃士 あの場面は、どういう気持ちの表情なんですか(笑)?
坪井 ちょうど観てた映画が、色々ありえないシーンで……ちょっと、「まだやるんだな」と(笑)

白石 ちょっと物申したいことがあるんですけど……「映画館革命」って、さも坪井さんが考えた感じでいってますけど、あれ俺が言い出したことですからね(場内大笑)
坪井 あれは、言葉の綾みたいなものですよ……そもそも、樋口くんがタイトルにするのが悪いんじゃないですか(場内笑)
白石 あと、巧妙に【超次元トビダシステム】や【超次元絶叫システム】も坪井さんが考えたみたいに編集されてましたが……俺ですからね(笑)
坪井 この物語の陰のフィクサーは白石さんだと、僕は思ってますよ
白石 その辺りまで描いてもらえれば良かったんですけどね。なんか、支配人の木全(純治)さんとかは、テレビ版から更にフィーチャーされてましたけど(笑)
坪井 中国語が喋れるという、支配人に限っては新事実が出ましたからね(笑)
樋口監督 メ~テレの過去映像から見つかった、木全さんの秘蔵映像だったんです。

坪井 VHSについても描かれてますが、例の収蔵部屋の映像を「画になるから」ってメ~テレさんの情報番組でも流しすぎて、スコーレに掛かってくる電話が映画の問い合わせじゃなくて「ビデオを預かってくれるんですか?」って(場内笑)……お婆ちゃんからの「家族が私の大事なものを捨てようとしている」って悩みから聞く訳ですよ。こないだ新聞に載った時も、ポリ袋を持ったお婆ちゃんが来て「何だろう?」と思ったら、「これを貴方に差し上げます」って(場内大笑)
白石 すっかりVHSの駆け込み寺になってるんですね(笑)?
坪井 2月1日の放映で「7,000本」って言ってるんですけど、そういう出来事を含めて8,000本になっちゃったんです(場内笑)。そんな訳で、色々ありがとうございました。
樋口監督 いえいえ、そんな……
坪井 おかげ様で、家族が1,000人増えました(笑)

坪井 白石さんに考えていただいて、僕らも色々やらせていただいた【超次元絶叫システム】ですけれども……
白石 (笑)
坪井 白石さんと話してるシーンで「今日だけのシステムで……」とか言ってましたけど、あの時点では何も決まってなかったですからね(笑)。ちゃんと決まったのって、1時間くらい前でしたよね。
白石 そうですね。
坪井 樋口くんには何も伝えないままイベントに突入するという……後半、泣きそうな顔してましたもんね(笑)。何も教えられないし、僕に「カメラ付きたいんですけど」って言われても、「申し訳ないけど、やめてくれ……忙しいから!」って……すると、樋口くんが独りでポツンと(場内笑)。もう一人可哀相だったのは、報道から来てくれたカメラマンさんが何の説明もされないままでっかいカメラを構えてて、どうすれば良いのかと思いましたね。樋口くんが「とにかく何かが出たら、追ってください」って(笑)
樋口監督 カメラマン何も知らなかったおかげで、楽しみすぎてずっとカメラマンの笑い声が入っていたという(場内笑)
坪井 【絶叫システム】も、あそこまでやるとは白石さんも考えてなかったんですよね?
白石 東京でも「叫び声OK」みたいなのはやったんですけど、名古屋に来て考えてるうちに、色々あった方が面白いかなぁ、と思って。皆さんに本当に細かい指示を……ファミレスで『貞 伽椰』の映像を観せながら(場内笑)……
坪井 めっちゃ細かったですよね(笑)
白石 (笑)。でも、3分の2くらいはやってくれましたよね
坪井 サラッと「俊雄=坪井」ってなってましたよね……ああ、パンイチになるのか、と(場内大笑)
白石 いや、坪井さんノリノリだったじゃないですか(笑)!「上(半身)くらいは、良いですか?」って聞いたら、「いや、俊雄でしょ?パンイチですよ!」って(場内大笑)!「でも、まぁメイクはいいですよね?」なんて言ってたら……
坪井 南條さんが……
南條琴美 はい、私が手で(場内笑)
坪井 あの写真が拡散して、娘の友達のお母さんがウチの奥さんに「旦那さんって、凄い仕事してるね」って(場内大笑)。それから樋口くんのところにウチの奥さんから「あのシーン、短めに出来るよね?」って電話が(笑)。でも、テレビの放送をまた違うお母さんが観て、「ああいう職場なのね」って(場内笑)
白石 まあ、間違いじゃないですもんね(笑)?

坪井 超次元から来た皆さんは、映画を観て如何でしたか?
南條 観終わって、よく分からない涙が出ました(場内笑)。今はじめて観たんですけど、情熱が凄く伝わってきました。これからも、楽しみにしています。
うらる 坪井さんがエネルギーある人だってことは分かってたつもりだったんですけど、観て、良い意味で狂ってるなと思って(場内大笑)……凄い人だなって、改めて思いました。そして、是非また名古屋に来ないとって、思いました。
まぷさん 坪井さんには、本当に圧倒されました(場内笑)。私はあまり映画を観ない人なんですけど、声が枯れるまで喋ってる坪井さんにお会いすると、「これは、観なきゃ!」って思います。そんな坪井さんに引き会わせてくれたのが白石監督なので、良い経験だと今日しみじみ思いました。

『劇場版 シネマ狂想曲 ~名古屋映画館革命~』上映中、シネマスコーレでは多彩なゲストが登壇する豪華企画が連日企画されている。
『シネマ狂想曲』の「リアル」を、「続き」を、実際に見られるまたとない機会を、どうぞ御観逃しなく。
何より、実物の坪井副支配人に会いに行ってほしい。

さて、弊サイト【シネマカラーズ】には「なぜ名古屋支部があるの?」との質問を、よく頂く。
理由は単純――名古屋には、世界一の劇場が二つも三つも在るからである。

取材・文 高橋アツシ

シネマスコーレ公式サイト

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