葉月は“戦場ぬ止み”月 『戦場ぬ止み』鑑賞記


葉月は“戦場ぬ止み”月
――『戦場ぬ止み』鑑賞記――

『戦場ぬ止み』は、“いくさばぬとぅどぅみ”と発音する。
『戦場ぬ止み』は、ドキュメンタリー映画である。2014年から翌2015年の辺野古に、大浦湾に、沖縄に何が起こっていたかを、民衆一人ひとりに寄り添い克明に刻み込んだ、魂の群像劇なのだ。

2015年8月1日(土)、名古屋シネマテーク(名古屋市 千種区)では『戦場ぬ止み』が初日を迎えた。三上智恵監督(『標的の村』(2013年/91分))が舞台挨拶に立つと、常設の座席だけでなく座椅子席・補助席も埋め尽くされた観客席から大きな拍手が沸き起こった。IMG_20150803_123654

「取りあえず、ヒロジさんのことを皆さん気になってると思います。入院してますが、本当にお元気です。メールを送るとその日のうちに返してくれますし、病床でもインターネットはやるし、(琉球)新報・(沖縄)タイムスは隅々まで読むし、と言うような生活をされています。ヒロジさんにはどうしても観てほしくて、病院に夜這いを掛けてでも見せると言ってたんです(笑)。お医者さんに聞いたら「会議室で観てもいい」と言われたので、辺野古のゲート前の中心人物に連絡を取って、機材を持ち込んで、病院に迷惑を掛けない程度と言うことで20数人が集まって観ることが出来ました。ヒロジさんは最初から、泣くわ、笑うわ、手を叩くわ(笑)……周りも、指笛も出すわ、私語はするわ(場内笑)。ヒロジさんは、「三上さんがこれを「夜這いしてでも見せる」と言って僕は焦ったけれど、そこまでして観てほしいと言った気持ちが、観て分かった。これを観たら、全国の人が来てくれるだろう。だから、辺野古はもう大丈夫」って、言ってました。どのシーンが一番いいか聞いたら「やっぱり「したいひゃー(=でかした)!」って言うシーンが良かった」って言ってましたが、後からメールで「本当に一番嬉しかったのは、「一人がもしも逮捕された時には、現場を止めてでもその一人を助けに行く。それが無ければ、誰も運動は出来ない」って言うことを残してくれたことだ」と言ってました」

“ヒロジさん”とは、辺野古の海を埋め立てて造られようとしているアメリカ軍の新基地に反対する運動の先頭に立つ人物である。『戦場ぬ止み』の中でも、拡声器を片手にいつも宜野湾市 辺野古の米海兵隊基地・キャンプシュワブのゲート前で叫んでいた。

「ヒロジさんが入院することは、琉球新報、沖縄タイムスの一面トップに大きく出たんです。西日本版ですが、朝日新聞と毎日新聞にも出たんですよ……平和運動のリーダーの入院が全国紙に載るなんて、考えられないですよね(笑)。最後に挨拶をしにヒロジさんがゲート前に行った日、顔馴染みの沖縄県警名護署の署員さんが駆け寄ってきて、肩を抱いて「知らなかったよ……一刻も早く治して、一刻も早く還ってきて!」って(場内爆笑)!3週間くらい前、午前中2時間くらいゲート前にヒロジさん姿を現したんですよ。プラカードを掲げて、ゲートの前を一周しました……両脇を支えるような感じで。でも、マイクを持ったら目茶目茶元気でした。そうしたら、また名護署の人が寄ってきて、「大丈夫なんですか!?いつ還れるんですか!?」って聞いてて(場内笑)……これは私、撮影しました。続編があったら、絶対このシーンは出そうと思ってます(笑)」

ヒロジさん達が大きな声を挙げゲート前に座り込むも、工事車両は次々とキャンプシュワブに入っていく。民衆の抵抗を排除するのは、“うちなー”――沖縄県警の署員である。

「文子さんを10年くらい前、最初にテレビに引っ張り出してしまったのも、私でした。物凄くカメラが嫌いで、今もカメラを持って色んな人が来ると、「あんたたちに話するために、ここに居るんじゃないんだよ!」って怒鳴って追い返しちゃうようなシーンもたくさん見てきました。私も何度も踏み込みすぎて、おばあに怒られて……でも「ごめんね、ごめんね」って言って、私がまた擦り寄っていくので、おばあは「あんたは「来るな、来るな」って言っても来るから、不思議だね」って、可愛がってもらってます。小室 等さん、有名なバイオリニストの向島ゆり子さんに『おばあのテーマ』を創っていただいて、凄く私は嬉しくて、おばあに見せたかったんですね。無料上映会の一番前を空けて、おばあを呼びました。でも、私が気付けばよかったんですけど……前半の戦争の話は、彼女が一番思い出したくない物を資料映像を使って再現してる訳ですから、そこで完全に具合が悪くなってしまって……「二度とこう言うのは、自分には見せないでくれ」って言われて、凄く反省しました。でも、一方で、おばあは「タイトルが凄く上等だ」と言っていました。山形のドキュメンタリー映画祭(山形国際ドキュメンタリー映画祭2015)で、インターナショナル・コンペに選ばれたんですね。「これって、凄いんだよ!」って言ったら、おばあは「当たり前さあ!この映画は、世界中に行く映画なんだから」って……半分観てないのに(場内爆笑)」

【今年(くとぅし)しむ月(ぢち)や 戦場(いくさば)ぬ止(とぅどぅ)み 沖縄(うちなー)ぬ思(うむ)い 世界(しけ)に語ら】
これはキャンプシュワブのゲート前フェンスに掲げられた琉歌で、文子おばあが「上等だ」と言った作品タイトルは、この一節に由来する。『戦場ぬ止み』とは、“闘いに終止符を打つ”との願いが込められた島言葉(しまくとぅば)である。

「『戦場ぬ止み』は、菅原文太さんがスクリーンに登場した最後の映画に偶々なってしまって……。本当に文太さんの言葉が良くって、最初はあのシーンだけで18分あったんですけど(笑)。知事選の結果を奥さんととても喜ばれて、その何日か後に天国へ逝ってしまわれたんですけど……そんな意味でも、貴重な時期でした」

先ほどの琉歌にあった“しむ月”とは、霜月すなわち11月のこと。“今年しむ月”は、2014年11月――沖縄県知事選挙の投票日を意味し、大衆の反対運動はこの日を大いなる希望の日と位置づけていた。
カメラは、そんな“運命の日”の様子も克明に活写する。

「今、沖縄で造られている辺野古の基地と言うのは、何も普天間が危ないから代わりに海に造ってあげるって言う話では全然ないです。これから日本とアメリカの軍隊が出撃していく場所を、今造ろうとしているんですね。日本人だけが、そう思ってないんだと思います。日本人は、基地は“訓練をする場所”“抑止力の為に置いておく場所”としか習ってこなかったんだと思いますが、基地と言うのは“戦争をする為に出ていく場所”だし、“標的になる場所”なんですね。沖縄にいると、朝鮮戦争もそうですけど、ベトナム戦争の時にどれだけ標的になることの恐怖と一緒に反戦運動をやっていたかって言うのが、本土とはちょっと違うんですよね。イラクのファルージャで10万人とか19万人を殺してきたアメリカの海兵隊員は沖縄から出ていっていますし、彼らの肩章には“OKINAWA”って書いてあるらしいです。あれだけの人間を殺して、劣化ウラン弾の影響で未だに人間の形をして産まれない子供たちがたくさんいると言うことに、どれだけ沖縄が加担しているか……日本人が税金で加担しているか。今度、集団的自衛権が法律的にも通ってしまえば、堂々と自衛隊とアメリカの軍隊が大浦湾から出ていくことになります。その時には、大浦湾は恨まれますし、標的になりますし、その時に攻撃されるのは沖縄だけではないはずなんです」

今、沖縄で行われているデモは、内地の人間による“お仕着せ”の運動ではないのか?そんな疑問も、作中の人物によって提示される。沖縄の人々が何に怒り、嘆き、声を挙げているのか――三上監督の視点は、本土の人間が見て見ぬ振りを続けてきた“うちなーんちゅ”の心根に、鋭くも優しく寄り添う。

「沖縄では辺野古の問題と、まだまだ全然知られてないんですが、宮古と八重山に自衛隊の地対艦ミサイルの基地が置かれることになりました。地元でも全然反対出来ていないし、翁長(雄志・沖縄県知事)さんも自衛隊はとても認めていると言う立場なので、島ぐるみで反対してくれる見通しがないんです。辺野古の取材も続けますけど、この宮古・八重山のことも伝えていかなきゃいけないと思っているところです」

今まさに必要な“島ぐるみ”とは、“日本列島ぐるみ”で動くことなのではないか。都合の悪いことに目を瞑り続けていた日本人は、今こそ刮目する時ではないのか。
今までニュース映像がどこか“他人事”に見えていたのは、“やまとぅんちゅ”により編集された映像を観ていたからなのかも知れない――『戦場ぬ止み』を観て、そう思った。

「『戦場ぬ止み』のパンフレットには、【辺野古座り込みマップ】と言うのがあります。「沖縄に行っても、辺野古に行くのは……からかい半分で行ったら、申し訳ない」なんて思っている方は、からかい半分でも物見遊山でも、30分でも1時間でも、その気持ちになって座ってみようかな、その後のことはどうするか考えれば良いし……って形で行くのも全然OKです。少しだけでも“ゆんたくー(=おしゃべり)”して、ちょうどデモやってたら一周参加してみるとか……そんな時、マップがあると便利かと思います。後、作品の中で唄われていた“座り込みの歌(『座り込めここへ』)”、ネットで検索しても中々出てこないので……ギター・コード譜付きで載ってます(場内笑)。今、国会(前のデモ)でも唄われているので、これマスターしてから行くと楽しめます(場内笑)」

“観て、考える”ことがドキュメンタリー作品の生命線だとするなら、『戦場ぬ止み』は“観て、考え、動く”ことを促す稀有な映画である。
『戦場ぬ止み』に何を“観て”、どう“考え”、如何に“動く”のか――まさに8月は、“戦場ぬ止み”葉月である。

取材 高橋アツシ

『戦場ぬ止み』公式サイト
名古屋シネマテーク公式サイト

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