『戦場でワルツを』のアリ・フォルマン監督最新作・『コングレス未来学会議』来日トークショー


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前作『戦場でワルツを』で、数々の映画祭にノミネート・受賞され、次回作が期待されるアリ・フォルマン監督。東京アニメアワードフェスティバル2015の先行上映に合わせて来日し、アニメーション作家の山村浩二氏とのトークショーが行われました。(2015年3月22日 東京アニメアワードフェスティバル2015(TAAF) TOHOシネマズ日本橋 )

山村:「昨年の(TAAF)映画祭で、長編の審査をさせていただいた時に、『コングレス未来学会議』を初めて観まして、大変な驚きと喜びで!監督がもし来日されたら、質問攻めにしようと審査員(たち)で言っておりました(笑)。今日初めてご覧になった方は、頭の中に、???(クエスチョンマーク)があると思うんですけど、ただ、そういう解釈についてのお話は、あまりしても仕方ないかなって気もします。
初めに、4年もの歳月をかけて、とても苦労してアニメーションを作られたって聞いておりますが、制作のプロセスをぜひお伺いしたいと思います!」

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フォルマン監督:「スタニスワフ・レムの『惑星ソラリス』が原作で、この(原作の)権利を購入したのは、私が『戦場でワルツを』の制作をした直後だったんです。当時はどういった映画にしようか、まだ決めかねていて、唯一、ハイブリッドで、ライブアクション(実写)とアニメーションの複合体の映画になるだろうということだけは分かっていました。
原作はメタファーで、ポーランドの共産主義政権における社会を描いていますが、舞台を南米に移して、ドラッグ(薬物)による独裁の様相が描かれた作品です。私自身は、共産主義社会というものを経験したことがなかったので、どうしようかと思っていたある年に、カンヌ(国際)映画祭に行ったんです。カンヌには、巨大な映画のマーケットがありまして、(そこで)売り買いをするんですが、そこにひとりのお婆さんが座っていました。私のエージェントが、この人を知っているかと聞くので、「いや(知らない)」と言ったら、実は70年代に活躍した、とても有名なビッグスターだったアメリカの女優さんだったんです。
私は(そのことに)大変ショックを受けました。映画のメッカ(聖地)でもある、カンヌ映画祭(の会場)にもかかわらず、30年前に女神だった女優が、現代では何者でもない、ただの人に成り下がってしまっているのです。その時私は、彼女はどんな想いだったろうかと考え、誰も彼女を認識出来ない、過去の人になってしまっている女優の物語を描きたいと思いました。ハリウッドという世界で年老いていく女優が、一番魅力のある姿でスキャンされてデータ化されていくという、断り切れないようなオファーをもらう、そういう話を映画化したいと思ったんです」

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山村:「正に、原作とフォルマン監督のオリジナルの発想の部分をお聞かせいただきました。これだけ実験的で、サイケデリックな面白いフィルムなんですけども、実際に作り上げていくのは、なかなか容易ではないと思います。最初はどのようなスタートの切り方をされたんですか??」

フォルマン監督:「『戦場でワルツを』は頭の中に出来上がっていたので、4日間で(脚本を)書き上げたんですね。日曜日に山小屋へ籠りに行って、金曜日にはすっかり完成していたくらいで、通常は(書くのが)早い方なんです。しかし、『コングレス未来学会議』の場合は、毎日8ヶ月間、苦しみ抜いて書き上げました。SFの世界は、どういう風に世界観が構築されるか、必ずルールを作らなければならなくて、例えば、ピル(薬)を飲むと、誰に姿が見えて、誰に見えないのかといった、何百ものルールを、自分で編み出さなければならないので、そのことにとても時間が掛かりました。
当初、主役にはケイト・ブランシェットをキャスティングしていたんです。それで彼女に合わせた、アニメーション部分のキャラクター作りを初めていたんですけども、ある時偶然、ロサンゼルスでロビン・ライトとばったり会うことが出来ました。その時に、この人だ!と思ったんです。この映画のオープニングショットは、ロビン・ライトが顔を真正面に見据えていて、その顔は美しくもあり、何か物悲しい、壊れやすいものが、イメージ出来たんです。彼女を一目見たときに、正に一目惚れという風にいえると思うんですが、そこで決めました。そこから、企画が始まりました。

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その後アメリカで、ライブアクションの部分の撮影に入ったんですが、(この映画で)もっとも簡単な制作でした。次に大変だったのは、非常に制作が困難なアニメーションの部分です。そもそも、ヨーロッパの映画を作るための資金集めの方法は、資金を得た国や街で、お金を落とさなければいけない、ひも付きの助成制度になっているんです。ブリュッセルからお金を貰ったら、ブリュッセルにお金を落とさなければならない。その結果、60分のアニメーション部分を制作するのに、9ヶ国で制作を進めなきゃいけなかった訳です。
たくさんのスタジオで制作をすると、それぞれ仕事の仕方や、テクニックにもばらつきがあるので、技術だけではなく、アーティスティックな問題も課題として出てきたんです。例えば、ロビンの愛人役のディランは、イスラエルやドイツでは決してエレガントではなく、とてもタフで男っぽいキャラクターとして作られていました。一方で、ベルギーやルクセンブルクのような、どちらかというと女性性が強い国では、ディランが女性的なキャラクターとして出来上がってきました。
シーンによって、同じキャラクターが違うタイプで描かれてしまっているばらつきを、8ヶ月掛けて、一貫したキャラクターにまとめるという、とてもに大きな苦労がありました。これが、たくさんある苦労の中で一番のものでした。ひとつのショットが完成するまでに、4つの大陸に跨らなければならず、ずっと旅をしていて、ようやく完成して手元に戻ってきたと思ったら、既に8ヶ月も経っていて、しかも間違っているっていう事態で、もう一度それを修正しなければならなかったのです」

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山村:「かなり多くの国で、アニメーターたちが協力して作っているということです。で、一見すると、コンピュータグラフィックスを使っているように思われますが、全て手書きでアニメーションが作られています。先程、演出の仕方を見せていただいたんですけども、最初にライブアクションで、その役者の雰囲気やセリフの感じを撮った上で、それをロトスコープ(実写映像を元にアニメーションを作成するアニメやVFXの制作技法)する訳ではなくて、アニメーターにその映像を見せて、紙の上で演じ直させるということです。この方式は『戦場でワルツを』の時から続けられているアニメーションの演出方法なのでしょうか??」

フォルマン監督:「アニメーターの(作画)ために、誰も見ないような場面を俳優に演じさせるということなのですが、ハリウッドではとてもビックな俳優も、演技をすることを大変喜んでくれました。(アニメーションは)全て、ライブアクションの映像を基にしています。そこからデザイン作業が入って、最後にとても長いアニメーションを作るというプロセスに入るんです。アニメーターは、頭の中で(ゼロから)発明するのではなく、基になるライブアクションの映像から、俳優の顔と動きを書いているのです」

山村:「単純にトレースをしている訳ではなくて、ここにデザイン的なクリエーションが、かなり入るんですよね??」

フォルマン監督:「私と仕事したアニメーターたちに、「ロトスコープだったんだよね」なんていったら、彼らはうんざりして、自殺してしまうでしょう(笑)」

山村:「本当に、手書きにこだわられていて、フライシャー兄弟を感じられた方も多いと思いますけど、アニメーションのスタイルやデザインは、監督からどれくらいアニメーターに伝えているんですか??」

フォルマン監督:「このテーマと脚本からすると、20年後のアニメーション界がどのようなものになるか分からないので、(答えを)過去に求めました。つまりは、『ポパイ』や『ベティ・ブープ』、初代の『スーパーマン』の絵をやっていた、フライシャー兄弟です。同じ時期に、とてもクリーンで、完成度の高いラインを作っていたディズニーに対して、フライシャー兄弟は、もっと荒々しくてワイルドで、不良のような、アニメーション作りをしていたんじゃないかと思います。ディズニーが優等生であるならば、フライシャー兄弟は不良だったと思います。個人的には、特に70年代の日本(実写)映画が好きなのと、後は、今敏監督です。『東京ゴッドファーザーズ』『パプリカ』など、幻覚的な、幻想といった描き方です」

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山村:「『コングレス未来学会議』を見て気付いたんですが、何が現実で、現実じゃないか、そういったところに、監督の興味は凄くあるのではないかと感じたんですけれども」

フォルマン監督:「誰もがパラレルワールドに生きていると、私は思っています。リアルな世界が真実の世界だといえることもあり、その一方では、私たちの頭が導いてくれる、パラレルワールドというのがあると思うんです。そういうふたつの世界を、私たちは生きながら暮らしていると思うんです。
良い映画は、ふたつの世界を組み合わせて、合体させてくれるものじゃないかと思います。例えば、映画館で一時間半くらい座っている中で、リアルな世界と夢の世界がひとつに交わる、この時間の流れ方は、映画でしかあり得ないようなことだと思います。意識と無意識の、こういった矛盾したことを体験させてくれるのが、優れた映画であり、私自身が全ての映画作りで使命としていることです」

山村:「『コングレス未来学会議』はそういった導き方で、本当に巧みに、我々に幻覚の世界を感じさせながら、でもどこかで現実との接点を常に考えさせるような、とても脳を刺激される、最後までみてしまう映画だと思います。
映画の中で“ミラマウント・ナガサキ”という、多分、日本の製薬会社と合併したという設定ですかね??なぜナガサキなのか、また“ボブス”という(スティーブ・)ジョブズをパロディにしたような、カリスマ社長の演説のシーンがありますが、着物のような服を着てて、ちょっと日本的な雰囲気もありますが、その辺は具体的なアイディアがあったんでしょうか??」

フォルマン監督:「今回、東京に来るのが3回目なんですけども、まず私が日本の本当に大ファンであることをお伝えしなければなりません。薬品会社を日本にして脚本を書いた時には、まさか日本の経済が落ち目になるとは思わないで書いたんです(笑)。今は、悲しい時や失恋をしたら、薬で治せるっていう時代に入って来ていますよね??そこに対するひとつのメッセージで、薬品と娯楽産業を組み合わせたんです。
アメリカの大きなメーカーは、世界を食い物にしていきながらも一方で、とてもにニューエイジなふりをしていると思うんです。ピース(平和)やメディテーション(瞑想)、スローな生き方を言葉ではいっているけれど、実際は中国で下働きをしている労働者から搾取して、iPhoneを作ったりしているんです。そして、社会貢献を全然しないというような、いってみれば、スティーブ・ジョブズのジョークです。忘れてはならないのは、スティーブ・ジョブズはあんな風にアイコンなっているけれども、もの凄く儲けた人です。そのことを、肝に銘じなきゃいけないと思っていますし、着物はそこに対するあてつけかもしれません」

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最後に一言。

フォルマン監督:「日本人の考え方をみてみると、世界の他の国とは大分違う部分もあると思いますし、SFファンも多いと聞いているので、こんな変わった映画も気に入ってもらえるんじゃないかと思います。
私が、今取り掛かっている新しい作品が、『アンネ(・フランク )の日記』です。これを子ども向けのアニメーションに展開していく企画をやっています。出来れば日本でも一部を制作したいと思っているので、『コングレス未来学会議』が日本で成功して上手くいくことを願っています」

山村:「私も去年、『コングレス未来学会議』に出会って、監督にも来日いただき、そして、映画祭の後に日本での配給が決まったということで!
最初、日本の配給(会社)はどこも手を挙げていなかったというのを聞いて、とてもびっくりしたんですが、ぜひこのユニークな映画を、日本でも多くの方にみていただきたいなと思います」

取材:佐藤ありす

【STORY】

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世界がどんなに変わっても、揺るがない愛
2014年、ハリウッドは、俳優の絶頂期の容姿をスキャンし、そのデジタルデータを自由に使い映画をつくるというビジネスを発明した。すでにキアヌ・リーブスらが契約書にサインしたという。40歳を過ぎたロビン・ライトにも声がかかった。はじめは笑い飛ばした彼女だったが、旬を過ぎて女優の仕事が激減し、シングルマザーとして難病をかかえる息子を養わなければならない現実があった。悩んだすえ、巨額のギャラと引き換えに20年間の契約で自身のデータを売り渡した。スクリーンでは若いままのロビンのデータが、出演を拒んできたアクション映画のヒロインを演じ続けた――そして20年後、文明はさらなる進歩を加速させていた。ロビンはある決意を胸に、驚愕のパラダイスと化したハリウッドに再び乗り込む。

『コングレス未来学会議』
監督・脚本:アリ・フォルマン
出演:ロビン・ライト ハーヴェイ・カイテル ジョン・ハム、ポール・ジアマッティ
字幕監修:柳下毅一郎
配給・宣伝:東風+gnome
(c)2013 Bridgit Folman Film Gang, Pandora Film, Entre Chien et Loup, Paul Thiltges Distributions, Opus Film, ARP
2015年6月、新宿 シネマカリテほか全国順次公開!
http://www.thecongress-movie.jp/

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