バスに向って撃て!--『BANK』鑑賞記--
バスに向って撃て!--『BANK』鑑賞記--
愛知県の老舗ミニシアター・名古屋シネマテークには、年末の風物詩がある。その名も、「自主製作映画フェスティバル」。 劇場がセレクトした自主製作作品で幾つかのプログラムが組まれ、夜には無審査(!)プログラム「何でも持って来い!」と言う上映会が開かれる。今年で第27回となる名物企画である。名古屋シネマテークと言う映画館がどんな作品を選ぶのかも興味の一つなのだが、そんな番組の中に異彩を放つ一本を見つけた。
村橋明郎監督作品『BANK』である。
『BANK』は、ジャンルで言うとシチュエーションコメディ。元々は演劇作品だったそうで、全編84分がなんとワンカットで撮影された映画なのだ。閉店間際の銀行に、三人組が押し入ってくる。顔は覆面で隠し、手には銃が握られている…銀行強盗だ。警官隊に包囲され逃げ場を失った三人は、銀行員と客を人質に立てこもるのだが…。
「この映画は84分ワンカットと言うことで、9日間の稽古をしまして、3回本番を回しまして、その中の一つを監督が使ったと言う様な映画になってます。監督がよく仰言るんですけど、クオリティ等に関してはもっともっと演りたいことがあるけれど、限られた中で精一杯やろうと言う事で、皆が一丸となって創った作品です」
主演の西尾浩行さんが舞台挨拶に立つと、客席が僅かにではあるがどよめいた。西尾さんは、劇中のオドオドした役柄とは正反対の偉丈夫だった。
「『BANK』の中では、妄想癖のある新人銀行員を演じさせていただきました。私は村橋監督と知り合うことができてから、ずっと村橋監督の映画にいつか出たいなと思っていたので、この作品に出演することが出来て本当に念願叶ってと言う感じだったんです。それが、更にこうして…私、愛知県出身なんですけれど…こうして地元の名古屋で上映されることが決まって、2013年最後、年末にこうして地元の映画館で舞台挨拶できてることが本当に幸せだなと思っています」
坂井紀里子さんは、笑顔を輝かせた。
「稽古の1ヶ月前に台本が渡されまして…読んでいくうちに、『こんなに思い悩んでいたら、食事も喉を通らないだろうな』と考えながら毎日毎日読んでると、本当に食事が喉を通らなくなっちゃって…そう言うことから、名立たる俳優さんが言う“役作り”なんて大袈裟なものじゃないんですけれど、自然とそう言う風に入っていけました。また、ワンカットだったので、とにかく緊張感が持続できると言うところで、自分の中で役を落とし込むことが出来たんじゃないかと思っています」
そう言って笑う西尾さん演じる銀行強盗が、84分の劇中で如何に変わっていくか、是非注目してほしい。
「割りと世間知らずの“お嬢様”って設定が来ることが多くて…丁度、それが役者をやっていく上で凄くコンプレックスに思っていた時期でもあったんです。オーディションの段階で、『自分でどの役を演りたいかは言っても良いよ』と言われてたんですけれども…『この役が演りたい』と言うよりも、『これ、あたしのことかな?』と言う風に思うくらい結構感情はすんなり入ってくると言う感じでした。その時は凄くそれがコンプレックスだったけれども、撮影の時から今1年半以上経った今思えば…逆にもう、いつまでも演じれるような役ではなかったんだと思うので…本当にあの時の自分が居なきゃ、出来なかった役なのかなと思っていますね」
強く頷いて見せた坂井さんもまた、劇中で“変わる”一人である。そして更に、劇中で変わるのは登場人物の心情だけではない。思考であり、思想、信条…そんな変化がもたらす、更なる変化…立場、行動…。…そして…。
「僕の好きな言葉にですね『口コミ』という言葉がありまして…本当に色んな所で色んな映画が上映されてますけれども、本当に観てくださった皆さんから『こんな映画があるよ!』と広がっていけば嬉しいなと思っています。ありがとうございました」
さっきまでスクリーンの向こう側で膝を抱えていた西尾さんは、おどけつつも強く訴えた。
目くるめく変化の連続が織り成す、“変遷の万華鏡”…『BANK』は、そんな映画である。
物語が如何に回転を止めるのか、どうか貴方の眼で覗き込んでほしい。
取材 高橋アツシ 2013.12.22@名古屋シネマテーク
映画『BANK』公式(Facebook): https://ja-jp.facebook.com/bank.84min.movie