伝説のロック・フォト​グラファー、アントン・コービンの魅力を語る!


『アントン・コービン 伝説のロック・フォトグラファーの光と影』の公開を記念して、アントン・コービンをリスペクトする写真家・安珠と、ミュージシャン・サエキけんぞうがトークショーを行った。(2013年4月6日 渋谷・シアター・イメージフォーラム)

安珠(写真家)
映画のテーマになっている光と影、人がひとつのことの表現に突き進むということで言うと、すごく素直に生きているんだなと思いました。アントンの撮影の仕方は、メタリカも劇中で言っていましたが、こう撮って欲しいと思うように撮ってくれると。みんながアントンに撮られたいと思うのは、アントンはめちゃくちゃ男で、男の美学で写真を撮っているからだと思います。男の美学って、彼の場合は宗教的なこともあるのでしょうが、生きている!生きているってことは頑張っている!死がある中でどうやって自らを生かすかということだと。

「ミュージシャンが全身全霊を掛けて曲を作るなかで、疎かにできない」とアントンは発言をしていましたが、まさにその通りで、生に対して自分が精一杯頑張っているところを切り取りたいと思っているので、だから男性が共感するというか、こんな俺を撮ってくれていると思うんですよね。彼は映画も撮っていて、ハリウッドに進出した2作品目は、(登場人物が)男が好きな男であり、女性も男性が求めるている可愛くてキュートな女性になっていますよね。

アントンは完璧主義者で、例えば(『ラスト・ターゲット』の時に)ジョージ・クルーニーに、「そうじゃないんだよ。人と人の間に窓があるから数ミリ動いて」と言ったんですよ。数ミリですよ?私も撮影の時に、ちょっと違うと5ミリの世界で細かく言うんです。それは、自分の中に絵ができあがっていて、それを再現したいと。写真の中では完成されているけれど、それで完璧だと思うと先が無いので、俺はまだまだこんなもんじゃないし、もちろん被写体も止まっているわけじゃないと先をみている。だから、ひとつのミュージシャン、例えばU2、メタリカにしてもずっと撮り続けているのだと思います。

人は、自分生まれた場所で、ある程度自分の表現が決まると思うんですね。そういう意味では、彼はうまく自分を生かしていて、自分しかできない作品を撮っているなと思いましたね。

サエキけんぞう(ミュージシャン)
ロックをやっていると、どんなビジュアルがいいのか考えるのですが、その指標になります。映画を観て驚いたのは、U2は普段全くオヤジで、信じられないぐらいオーラがない(笑)。

僕が感銘を受けたのは、死の匂いに関して、芸術がどのように関係しているのかですね。今の日本のロックや文化が薄くて甘いのは、死についてきっちりと直面していないからだと思いました。U2などが世界で何千万枚もCDが売れるのは、ビジュアルが連動しているのがとても大きいと思います。アントンの透徹した死の哲学、これは生い立ちにすごく関係していて、牧師の家に生まれ、小さい頃から墓地を見て育ち…と死に直面しながら生きてきた。そのことが、彼の作品を生んだといことを直接的ではなく、ビジュアル的にこの映画が伝えていると。

では、日本にそういうのが無かったのかというとそうでもなくて、例えば、昨年の大晦日多くの方に感銘を与えた美輪明宏さんの歌ですね。美輪さんの存在感や表現は、歌そのものが、死であり、戦争について歌っているということもありますが、死と隣り合ったものだと思いますね。今のJ-POPには、もちろん良いところもあるし、ヨーロッパ的なゴシックなものが全てではないけれど、弱くなっているなと思います。

【ストーリー】
ミュージシャンはアントン・コービンの写真に写る自分を目指す…

ジョイ・ディヴィジョン、U2、デペッシュ・モードといった個性的なアーティストのイメージ作りに大きな役割を果たし、20世紀後半、ポップとアートの定義付けに 多大なる影響を及ぼした伝説のフォトグラファー、アントン・コービン。ザ・ローリング・ストーンズやメタリカのような完成したアーティストを、若い世代に向けて再発信することにも多大な貢献を果たした。 また近年では、コールドプレイのPV制作や2011年にグラミー賞最優秀アルバム賞を受賞したアーケード・ファイアの公式写真を撮り下ろすなど、多くのミュージシャンから愛されている。

本作の監督は、アントンと同じオランダ出身の女性クラーチェ・クイラインズ。4年もの歳月をかけ彼に密着し、U2、アーケード・ファイア、ルーリード、メタリカ、そしてジョージ・クルーニーといったアーティストの素顔が垣間見える、アントンならではの親密な撮影現場をとらえている。その一方で、華やかな世界にいながら見え隠れする彼の“孤独”に迫り、本人と家族のインタビューから、その“哀しみ”の裏側にある真実を明らかにする。

『アントン・コービン 伝説のロック・フォトグラファーの光と影』
公式サイトhttp://www.antoncorbijn-movie.jp/
ベルリン映画祭正式出品作品 配給:シンカ 2012年/英語、オランダ/84min
シアター・イメージフォーラムにて公開中!

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