“おだやかな”振りを2年も続けようとしている。-『おだやかな日常』


“おだやかな”振りを2年も続けようとしている。  --『おだやかな日常』鑑賞記--

『おだやかな日常』を観た。
『ふゆの獣』で女たちの修羅場を描き、『さまよう獣』で愚者の饗(狂)宴を描いた内田伸輝監督の作品である。2/23は東海地区公開初日、上映館である名古屋シネマテークのシートは大勢の映画ファンで埋まった。主演でプロデューサーの杉野希妃さんが舞台挨拶に登壇。

「私自身は(俳優業とプロデュースを)“使い分けてる”って言う感覚がそんなになくって…現場で女優に集中する時は集中して出資者の方がいらっしゃったらご挨拶をして、やってる内容は違うかも知れないですけど映画を作っていると言う方向性は一緒なので」
杉野さんはそう言って微笑んだ、おだやかに。

「(内田伸輝)監督とは2011年のオランダのロッテルダム国際映画祭で初めてお会いしたんですが、同じ年の6月に監督から「こういう作品を作りたいと思っている」とお話がありました。あらすじを読ませていただき、東京でこのテーマのフィクションを撮ることに物凄い共感してしまいまして…すぐ「ぜひ一緒にやりましょう」と返事をしました。初めの段階で『穏やかな日常』ってタイトルは付けられてたんですよ(漢字表記)。そのタイトルにも私はズキンと来たんです」

そんな言葉通り、『おだやかな日常』は、タイトルとは裏腹な顔を見せる作品である。否、作品に写し取られた場面は確かに“おだやかな日常”だが、穏やかに観させてくれない空気を全編に湛えている映画なのである。手持ちに拘ったカメラワークが、更にそれを煽る。フレームだけでなくフォーカスまでも動きを止めない画面には、常に不穏な雰囲気に満ち満ちている。そう、まるで登場人物の心情を映すかのように。

「放射能に怯える二人の女性が主人公のお話でかなりシリアスなんですが、何かしら登場人物の誰かに自分を投影させながら観る事のできる作品です。それによって、ある意味“癒される”映画になってると思います。話自体は震災後だからこそ作られた作品ではあるんですが、どこの国のどの時代にも起こり得る普遍的な作品になっていると思うので、是非とも劇場へお越しいただけると嬉しいです」
“未鑑賞の方へのメッセージを”との筆者のお願いに、杉野さんはこう応えてくださった。

「幼稚園で私と他のママさん達との対立のシーンがあるんですけど、監督が『本当の喧嘩を見ているみたいで凄く興奮した』と仰ってまして…私も人間のナマの感情があそこに凝縮されてるような気がして…観所なんじゃないかなと思います」
更に“お薦めのシーンを教えてください…但し、ネタバレせずに”との無茶ブリにも、苦笑しながら応えてくれた。件の場面は、杉野さんと共演者の渡辺真起子さん・山田真歩さん・西山真来さんの感情が“化学爆発”を見せる屈指の名場面である。もう一人の主人公・篠原友希子さんと夫役・山本剛史さんの熱演共々、是非ぜひご覧あれ。

名古屋シネマテークでの公開は、3/8(金)まで。お観逃しなきよう!
また、更に嬉しい情報が。4/20(土)より、大須のシアターカフェにて杉野希妃作品の特集上映があると言う。「すべての作品、『他では世界中のどこ探してもこんな作品はないよ!!』って言うくらいヘンな作品なので、是非観に来てください」と、杉野さん自身が言っていたくらいなので、こちらも期待大である。

名古屋シネマテーク公式HP http://cineaste.jp/
シアターカフェ公式HP http://www.theatercafe.jp/

取材・文:高橋アツシ

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