初日に観るべき物語~『オチキ』観賞記
チャンスの神様には、前髪しか生えていないと言います。
通り過ぎてから手を伸ばしても、後ろ髪がないので捉まえることができないのだとか。
・・・くだらない・・・
ミニシアターに通う者にとって、そんな話はイロハのイですって。
ミニシアターの上映スケジュールは、シネコンに馴れた映画ファンから見れば信じられないほどタイトです。映画館によっては、一日一回上映で公開期間一週間が基本。期待作であれば、二週間。一ヶ月以上のロングラン上映など、余程の傑作!!(もしくは、余程の事情があるか)基本の公開期間が一週間なんて、どんな企画上映?なんて思う向きもあるでしょうが・・・
ミニシアターに於ける企画上映なんて、下手すれば一回こっきりの公開だったりするのですよ。
そんなワケで、観たい作品の公開期間中に週末は一度しかやってこないことが多いのです。
しかも、ミニシアターで掛かる映画はソフト化されない可能性が高かったり・・・。
見逃したら最後、二度と巡り会えない。大袈裟ではなく、そんな作品がミニシアターを日々通り過ぎて往きます。気付いてから手を伸ばしては到底間に合わないほど足が速い神サマを捉まえるには、常にアンテナを張ってないといけません。
ミニシアターの神サマは、積極的に情報を集めるものにこそ微笑む・・・そう言うものなのでしょう。
ミニシアターとは、一期一会の悲喜交々に溢れる場所なのデス。
そんな“韋駄天”が集うミニシアターだからこそ、更に加速を余儀なくされる作品に出会うことがあります。
観逃し厳禁なのは勿論のこと、初日の観賞を推奨したい映画。
つまりは、二度三度とリピート観賞したくなるような快作に出会うことが。
先日観賞した『オチキ』は、まさにそんな作品です。
高い確率で二度観したい衝動に駆られると思うので、観るなら公開初日の初回上映をお薦めします。
予備知識は一切無しで、初観で衝撃を受け、リピート観賞で作品世界に浸る。
そんな観賞法が、この映画には相応しいと思います。
以下、観賞を迷われている方の為に、雑感記をしたためます。
極力ネタバレにはならぬよう留意しながら。
観賞予定がある方は、それ以上の情報は入れないで観に行かれるが吉です。
よって、以下の駄文も目を通して頂く必要はありません(笑)
大丈夫、あなたの直感は確かです。『オチキ』は面白いですよ!
物語の主人公は大きく二人。
一人は、人気上昇中のストリートミュージシャン サクラ(演:木乃江祐希さん)。
もう一人は、芸能プロのスカウトマン 成瀬(演:関寛之さん)。
“妊娠”と言う共通項をきっかけに、二人は人生の陥穽期、即ち“オチキ(堕ち期)”へと嵌っていきます。
先ずは、演者の熱量の高さにご注目を!
主演お二人の熱演は言わずもがなですが、バイプレイヤー達の輝きにも目を奪われることになるでしょう。特に、安保優一さん、及川莉乃さん、澁川智代さん、の演技に心を奪われました。
スクリーン狭しと繰り広げられる“愚者の宴”を、どうぞ存分に御堪能あれ!
監督・脚本は、『ユリ子のアロマ』『ソーローなんてくだらない』の、吉田浩太監督。
映画に掛けられた“吉田マジック”を最大限楽しむためにも、各場面に鏤められた“違和感”を心の何処かに引っ掛けておいてください。ネタバレに直結しますので、あまり具体的には申せませんが。
窓の外の景色や、ちょっとした会話や、登場人物の持つ小物・・・色々と。
何がどう“マジック”なのか気付かされた時、膝を打つ爽快感が変わってきますので!
そしてそして・・・
この映画の最大の凄味は、マジックが解けないことです。
魔法が解けたと思い込んでいた観客は、自分が立っている場所が迷宮であることに気付かされます。
“吉田マジック”は、めくるめく“吉田ラビリンス”の入口にすぎないのです!
もしもあなたが、ミニシアターに行ったことがないのなら、本当に幸運です。
記念すべきミニシアター観賞の第一号にぴったりの映画が、全国を巡っています。
『オチキ』あなたの、ミニシアター・デビュー作にしてみませんか?
・・・もちろん、公開初日に!
文・高橋アツシ
【ストーリー】
人には良い時「モテキ」もあれば、悪い時「オチキ」もある。
人気上昇中のミュージシャン・サクラは、気の緩みから妊娠が発覚してしまう。しかし実は複数人との交際をしていたサクラは誰が妊娠相手なのか分からない…。一方、芸能スカウトマン・成瀬は、所属タレント・はな子を妊娠させてしまう。所属タレントを妊娠させてしまう失態により、事態はドンドン最悪に…。妊娠をきっかけに「オチキ」に入る男女。「オチキ」と気づかない二人は、ただひたすらもがき続けていく…。
『オチキ』
監督・脚本 吉田浩太(『ソーローなんてくだらない』『ユリ子のアロマ』)
出演:木乃江祐希 関寛之 安保優一 池田薫 及川莉乃 太田正一 工藤啓太 佐藤宜全 澁川智代 清野菜名 鈴木一成 吉田憲明 製作・配給:ENBUゼミナール、宣伝・配給協力:SPOTTED PRODUCTIONS
公式HP http://enbuzemi.co.jp/drop_special/
今後の上映スケジュール(予定)
2012年12月29日(土) 大阪第七藝術劇場、2013年1月3日(木) 大阪第七藝術劇場
2013年1月23日(水)テアトル新宿