津田寛治「監督がどうやったのか謎」『僕の帰る場所』初日舞台挨拶
日本・ミャンマー合作映画『僕の帰る場所』の初日舞台挨拶が行われ、キャストのカウン・ミャッ・トゥ、ケイン・ミャッ・トゥ、テッ・ミャッ・ナイン、來河侑希、黒宮ニイナ、津田寛治、藤元明緒監督、プロデューサーの渡邉一孝が登壇した。(2018年10月6日 ポレポレ東中野)
本作は日本に暮らすミャンマー人一家をドキュメンタリータッチで追いかけた家族の物語。ストーリーは実話にもとづいており、主演家族4人のうち3人、ケイン・カウン・テッは実際の母子・兄弟である。父親役のアイセも含め全員俳優の経験はなく、役柄と共通するバックグラウンドを持つ一般の人々だ。
安全な生活を求めて日本に移住した一家だったが、難民申請が認められないまま数年が過ぎ、ついに父親が収容施設に連れて行かれてしまう。その後、一時的に拘束はとかれるも、母親は日本での生活に疲れはて、子ども2人を連れてミャンマーへ帰国。すると今度は日本育ちで日本語しか話せない子どもたちが文化の壁に直面する。父、母、幼い子どもたち、それぞれの苦悩や葛藤を通して、普遍的な家族の絆が描き出されていく。
『第30回東京国際映画祭』で上映され「アジアの未来」部門にてグランプリと監督賞に相当する二冠に輝き、その後14ヶ国20以上の映画祭で選定されるなど、高い評価を得ている作品だ。
脚本を書きメガホンをとった藤元監督は、本作が長編デビュー作。企画に携わることになったきっかけは“ミャンマーで映画を撮れる監督”の募集をネットで見つけたこと。当時はミャンマーの場所も知らなかったが、監督志望だったため、チャンスだと思ったという。
「そこから始まって、ミャンマーへ行くようになり、だんだん深い縁ができた。今では、もう1つの大切な国です」と藤元監督は話す。現在はミャンマー人女性と結婚し、ミャンマー・ヤンゴンに生活の拠点を置いている。この日までに5年の月日がかかった本作については「初日を迎えられて本当に感無量です。撮影してから3年くらい経ちますが、観るたびに新しい発見があって。10年、100年とずっと観られ続けてほしいなって思いました」と想いを込めて語った。
これが映画初出演であるケイン、カウン、テッ母子は、艶やかな民族衣装に身を包み、「こんなにたくさんの人に来ていただけて。ありがとうございます」と、はにかむような笑顔で観客に感謝の意を伝えた。
劇中、仕事先の店長というちょい役で数十秒だけ登場するのは、北野武監督作をはじめ数々の話題作に出演してきたベテラン俳優の津田。参加の経緯を尋ねられると「普通に事務所に台本が送られてきて、読んでみておもしろいなと思って、普通に参加しました」としれっと答え、笑いを誘った。さらに「この手際の悪さは自主映画だなと思った」と暴露し、会場は爆笑。
しかし撮影から3、4年後、完成したとの知らせを受けて作品を観てみると、本当にいい映画で度肝を抜かれたという。「僕は難民問題やミャンマーのことはよくわからないのですが、その僕が観て心が震えたのはなぜかというと、お芝居なんです。家族4人のお芝居が素晴らしくて。芝居をやっている感じじゃなく、まるでドキュメントを撮っているような……たまたまカウン君のいい表情が撮れた、たまたまテッ君のいい表情が撮れたっていう風に見えて、その奇跡の連続なんです」と噛みしめるように語った。
ところが「そんな奇跡を起こした藤元監督は何が特別だったと思いますか?」と聞かれると、「それが謎なんです」と首をひねる。「現場でちゃんと演出された記憶があんまりない。本当に、店の大将と仲良くなってしゃべってた記憶しかない。あれだけのお芝居を引き出したっていうのは、監督どうやったんだろう?って謎ですね」
そう話す津田に藤元監督は「津田さんが厨房にいて、ホールのエキストラは当初1人でした。でも撮影の都合でもう2人くらい増やしたんです。そしたら津田さんに『俺の店なのになんで勝手に増やすの?』って言われて。映画の中を生きるというのはこういうことだなって、その意識がグサッときました」と撮影秘話を告白。津田は「そんなこと言った?そんな面倒くさい俳優だった?」と大慌て。客席からはまたも笑いが起きた。
藤元監督は家族4人への演出について「お父さん役の方だけが本当の家族じゃないんです。知らないおじさんが来た中で、どうやってお父さんを愛してるとか、お父さんがいなくて寂しいとか思うような関係を作るか。そのため撮影現場よりも撮影に入る前、1ヶ月くらいリハーサルを通して、家族の関係性づくりをしました」と説明。
最後にプロデューサーを務めた渡邉が「この映画は誰に頼まれて作ったわけではありません。僕たちが勝手に作った映画です。協賛と借金だけで作った映画であり、自主配給で1件1件映画館を口説いて広めている映画でもあります」と打ち明け、もし気に入ってくれたら口コミで広めてほしいと呼びかけて、拍手のなか舞台挨拶を締めくくった。
取材 澤田絵里
『僕の帰る場所』
(C) E.x.N K.K. 配給:株式会社E.x.N
ポレポレ東中野ほか全国公開中