ひとつの優しさが、いつか世界を変えていく『グッド・ライ ~いちばん優しい嘘~』レビュー


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アメリカ・カンザスシティーの職業紹介所で働くキャリー(リース・ウイザースプーン)。2001年、彼女はアメリカへ移住するスーダン難民の若者の就職支援をすることになる。空港でキャリーが出会ったのは、不安そうに佇む三人の青年、マメール(アーノルド・オーチェン)、ジェレマイア(ゲール・ドゥエイニー)とポール(エマニュエル・ジャル)の兄弟だった。

車に乗れば即座に酔い、マクドナルドも知らず、アパートへの入り方も分からない三人に調子が狂いっぱなしのキャリー。彼女が独身・子供無しなことに仰天し、「良い夫が見つかりますように」と三人に言われ、ムッとしつつもなぜか彼らが気にかかる。

「チーフ」好青年のマメール、信心深いジェレマイア、ちょっぴりお調子者のポール。「ロストボーイズ」と呼ばれる難民の彼らは、壮絶な少年時代を過ごしてきた。1983年に勃発した内戦はスーダンを北部と南部に分断、多くの人が命を落とした。南部のマメールの村も北軍に襲撃され両親は殺害されてしまう。兄と姉、数人の友人と共に生き残ったマメールは村の長老の教えを頼りに、歩いてエチオピア、そしてケニアを目指す。

彼らは千キロ以上の道のりを飢えと渇き、猛獣や北軍の兵士と出くわす恐怖と戦いながら歩き続け、道中でジェレマイアとポール兄弟と友達になる。ある日マメールが兵士に見つかるが、兄のテオが身代わりとなり連れ去られてしまう。心身共に極限状態の中、マメールたちはようやくケニアのカクマ難民キャンプに辿り着く。それから13年、キャンプで成長した彼らは、スーダンがアメリカと結んだ難民移住計画によりアメリカへの切符を手にしたのだ。
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再びアメリカー。マメールとジェレマイアはスーパーで、ポールは部品工場で働き始めるが、彼らにはアメリカ生活の全てがカルチャーショックだ!
部屋にある不思議な機械から警告音が鳴り怯えていると、キャリーがやってきて「何故《デンワ》に出ないの!?」と言う。デンワってなんだ?
三人とも魅了されたものは、奇跡の食べ物《ピザ》だ。職場で聞いた《ジョーク》は面白くて面白くて、一晩中だって大笑いする。順調にアメリカに馴染んでいくかに見えた彼らだが、どうしても馴染めないこともある。

仕事の面接で愛想笑いするのは、相手を騙してるみたいで嫌だ。
スーパーの賞味期限切れの食材を捨てるのはもったいない、捨てるぐらいなら何故貧しい人に分け与えないんだ?対応するキャリーは、その都度ハッとさせられる。マメールたちがアメリカに暮らしてなお失わない純粋さ、思いやり、スーダン人としての誇りに、キャリーは次第に心を動かされる。援助を「してあげる」のではなく、キャリーもロストボーイズからポジティブな影響を受け、仕事、人間関係に対する姿勢が次第に変化していく――。
この作品に描かれるのは、相互に影響を及ぼし合う、あくまで対等な人間関係だ。全く違う背景をもつ二組が戸惑いながらもお互いを受け入れ、変化していく様がとびきりのユーモアと優しさをもって描かれていく。

物語の後半、かつて兵士に連れ去られた兄、テオを探す手がかりとなる出来事が起こる。
あの日から罪悪感と共に生きてきたマメールは、果たしてテオと再会することは出来るのか、そして「グッド・ライ(良い嘘)」が示す意味とは何なのか――?

内戦で孤児となったロストボーイズの数は数万人にも登るが、驚くべきことにジェレマイア役のゲール・ドゥエイニーと、ポール役のエマニュエル・ジャルはスーダンに生まれ少年兵として徴兵された過去を持つ、現実のロストボーイズなのだ。作品に真実を映し出したいと、世界中のスーダン人コミュニティを回り、オーディションを行ったフィリップ・ファラルドー監督の想いは見事に実を結んだ。

内戦の悲劇を改めて伝えるだけでなく、異なる文化をもつ人々が尊重し合うこと、それが平和のスタートラインなのだと本作は教えてくれる。
きっと温かい涙が溢れ出す――。今、この時だからこそ世界が観るべき作品だ。

文・小林麻子

『グッド・ライ ~いちばん優しい嘘~』
キャスト:リース・ウィザースプーン アーノルド・オーチェン ゲール・ドゥエイニー エマニュエル・ジャル コリー・ストール
監督:フィリップ・ファラルドー 原題:THE GOOD LIE
©2014 BlackLabel Media,LLC.All RightsReserved.  配給:キノフィルムズ
公式サイト http://www.goodlie.jp/
2015年4月17日(金)よりロードショー

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