ゆるゆる家族ドキュメンタリー『沈没家族 劇場版』レビュー



本作の監督である加納土が、武蔵大学在学中に卒業制作として発表したドキュメンタリー映画『沈没家族』。PFFアワード2017で審査員特別賞、京都国際学生映画祭2017においては観客賞と実写部門グランプリを受賞。その後、新たに編集の手を加えることによって『沈没家族 劇場版』が完成した。

1995年、シングルマザーの加納穂子は1歳だった土を他人と共に育てることを決意。共同保育人募集のビラを撒き始めたのである。約10人が集まり、東京・東中野のアパートで共同保育が始まった。約1年半後には5LDKの沈没ハウスと名付けられた一戸建てアパートに引っ越し、加納親子は複数組の母子と数人の若者と共に新たな生活を始めることに。

『沈没家族 劇場版』は、大人になった監督が曖昧な記憶しか残っていない沈没ハウスでの生活や、共同保育に関わった人たちへの関心の高まりによって作られたドキュメンタリー映画。母である穂子、幼少期の監督の保育人だった人たち、沈没ハウスで一緒に暮らした人たち、そして父である山くんに当時を振り返ってもらうという構成になっている。

筆者である私は保育人ではなかったが、この頃に沈没ハウスに何回か遊びに行ったことがある。さまざまな思い出が蘇り、懐かしく映画を観ることができた。

予備知識なくこの映画を観れば、沈没家族とは新しい家族のあり方を模索した人たちという印象を受けるかもしれない。だが、私が振り返る限り、そのような壮大な試みではなく、社会生活に適応せずにゆるく生きている人たちが集まり、変わった試みを楽しんでいたように思う。

沈没ハウスで一緒に暮らした2歳年上の女性と再会するシーンでは、ふたり揃って「悪くない」と共同保育を振り返る。ゆるい大人たちに囲まれた生活は成功したのだ。

この映画の所々に約20年前の写真や映像が映し出される。加納親子が大勢の人たちから愛されていたのは間違いない。多くの人が集まり、さまざまな記録を残してくれたのだから。2003年に住み慣れた沈没ハウスを離れて、八丈島へ引っ越す日の場面を捉えた映像は少し切なく印象的だった。

いろいろな大人たちと接して暮らし、健やかに成長した加納土監督。生まれたときから、この作品を作る運命だったのだろう。

文 シン上田

『沈没家族 劇場版』
制作:おじゃりやれフイルム 配給:ノンデライコ
(C)おじゃりやれフイルム
2019年4月6日よりポレポレ東中野ほか全国順次公開

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