きっと今日から日記が書きたくなる『すれ違いのダイアリーズ』×第8回したまちコメディ映画祭in台東


surechgai_06 会ったこともない君の日記を読むうちに、僕は君に恋をした。

昨年の第27回東京国際映画祭 (2014)「CROSSCUT ASIA」部門では、「先生の日記」のタイトルで上映され、今年度アカデミー外国語映画賞・タイ代表として選出されている『すれ違いのダイアリーズ』。来年の公開に先駆け、ニティワット・タラトーン監督が来日してトークショーが行われました。(2015年9月21日 第8回したまちコメディ映画祭in台東 東京国立博物館 平成館)

surechgai_08 Q:初めに、ご挨拶をお願い致します。
ニティワット監督:ありがとうございます!日本の観客のみなさんとお会いすることが出来て嬉しいです。
-実は、日本に結構来られているのですよね??
ニティワット監督:日本が好きなので、何度も来たことがあります。今回が10回目くらいで、今年3回目です (笑)。
-日本のピッ!(Suica プリペイド型電子マネー)っていうあれが、お気に入りだそうですが??
ニティワット監督:とても便利で好きです (笑)。

Q:そんな監督にお聞きしたいです。監督が生まれた頃には、タイ国内で10本くらいしか映画が作られていない状況だったそうですが、現在は年間どのくらい作られているのですか??
ニティワット監督:私が大学生だった頃は、1年間に10本くらいしか作られてなかったのですが、今だと平均して50本~60本くらいは作っていると思います。
-それはデジタル機材が増えたことが、影響しているのですか??
ニティワット監督:もちろん機材やテクニックの面で、映画作りに参入しやすくなったところもあります。ですがやはり、映画ビジネスそのものが拡大しまして、たくさんの人が映画を作ってみたくなっていることも大きいのではないかと思います。

Q:日本映画はタイでみれるものなのですか??
surechgai_09 ニティワット監督:当然みることが出来ます。メインストリームでない映画でも、日本のものに限らず、海外の映画もミニシアターの映画館でみることが出来ます。それにテレビドラマやアニメもみることが出来るので、私自身も日本のアニメをみて育っています。
-ぜひ、その中で好きな作品を1本教えていただきたいのですが
ニティワット監督:漫画でいうと、あだち充さんの作品が一番好きです。私は、あだち充ファンクラブなんです (笑)。
-映画みてたら、わかりますよね??(笑)
ニティワット監督:アニメーション映画だと、『ホーホケキョ となりの山田くん (1999)』が凄く好きなんです!

Q:作品のことをお伺いしたいのですが、水上の学校といったアイディアはどこから来たものなのでしょうか??
ニティワット監督:これは元々実話から来ていまして、舞台はダム湖なんです。タイの北部にあるラムプーン県っていうところに、実際ダム湖の中に学校がありまして、そこにいらっしゃるたった一人の先生の話からインスピレーションを受けています。ここの学校は全学年で生徒が4人か5人しかいなくて、そのダム湖で漁をして生計を立てている人たちの子どもたちなんです。もし先生がそこに行かなければ、そこの子どもたちは全く勉強をする機会がないということに、とてもいいインスピレーションをもらいました。
-タイの中でも、少し珍しい題材を選ばれたということですか??
surechgai_03 ニティワット監督:そうですね。タイの中でもこういった学校は、ここひとつくらいしかないです。ダム湖で生活をしている子どもたちは、街中にある学校に行くだけでも数時間掛かってしまうので、そこに行って勉強することは、実質不可能なんです。なので、教育上の必要性から生まれたような学校です。

Q:電気も水道も電話もないという状況で、本来の現代を描くと、電話ひとつをとっても、人と人の繋がりを描きにくくなってしまうと思います。けれども、舞台を山奥にしたことで、アイディアが生まれた気がするのですが、その辺はいかがでしょうか??
ニティワット監督:今の時代は、何をするにも凄く速度が上がっていて、例えば今、あなたの顔がみたいと思ったらすぐみれて、誰かと喋りたいと思ったら、すぐ喋れるようになっていて、想いを募らせるということがなくなっていると思います。例えば、携帯の電波も入らないような環境にいると、話したい人と話すことが出来ない。そういった時、その人が出来ることは、相手に対して想いを募らせることだけなんですね。それはとてもロマンティックな瞬間なんじゃないかと思うのです。原題は「キックンミッタヤ」ってタイ語のタイトルで、「キックン」が想いを募らせる、「ミッタヤ」はタイではよく学校の名前に付くのです。だから想いを募らせる学校というのが、元々のタイトルなのです。
-ダブルミーニングになっているのですね。
surechgai_05 ニティワット監督:そうです。ダブルミーニングになっていて、タイの学校は「ミッタヤ」って付くのが非常に多いので、そういった部分と、もうひとつ映画に対して込めた疑問があります。人はお互いに、顔をみたことのない人と恋に落ちることが出来るかっていうところに繋がってきます。私の考えは、人は恋に落ちる時に、お互いの顔をみて恋に落ちるのではなく、お互いの考え方に恋をするのだと思います。顔をみたことのない相手に恋をすることが実際に可能なのか、そこがこの映画の中で投げかけている疑問です。
-今は、外見を偏重するようなところがあるので、とても意味深いことだと思います。
ニティワット監督:当然容姿も、お互いを惹きつける材料にはなるのですが、お互いに会話を重ねても考えていることが違ってしまえば、最終的には上手くいかなくなってしまうと思うのです。

Q:文明が進みすぎて、ふたりが中々出会えないことが描きにくくなっていると思います。利便性みたいなものと引き換えに、何か失っているものがある気がするのですが、その中で、日記というアイディアにたどり着いた経緯を教えてください。
ニティワット監督:どちらかといえばこの映画は、古い時代のロマンチズムを用いている部分があります。結局、日記もfacebookもそんなに変わらないと思います。どちらも思ったことを思った時に書いていくもので、違いがあるとすると、日記は自分に読ませるために書いているもの。facebookは誰かに読んでもらうために書いているものです。その一方で日記は、今の時代、あまり親しみがないので、むしろそこが魅力になるのではないかと思ったのです。
-日記のアイディア自体は、学校のように、何か実際にあったヒントが元になっているのですか??
surechgai_07 ニティワット監督:テーマがふたつありまして、ひとつが先生パート、もうひとつがラブロマンスのパートです。先生パートは、実際の北部にある学校のお話から持ってきていて、もうひとつのラブロマンスのパートも、実話から借りてきていているのです。プロデューサーのお友達が、実際に職場を移った時、自分が座った引き出しの中に、以前働いていた女性の日記をみつけたのです。その日記を読んで、その日記が非常に気に入って、最終的にはその女性と連絡を取って結婚されたのです。なのでみなさん、今日から日記書いてください。そして、それをどこかに忘れて来ましょう (笑)。

Q:監督の『フェーンチャン~ぼくの恋人 (2003)』という作品では、当時の大学の仲間6人で監督・脚本をされています。今回の『すれ違いのダイアリーズ』もクレジットをみると、脚本に4人の名前が入っています。アイディアがふたつあるとしても、それをどのようにして、4人の脚本家で映画の形にしてきたのか教えてください。
ニティワット監督:まず、脚本家のクレジットが4人というお話ですが、3人が男性、1人が女性です。元々男性チーム3人で話し合いをベースに書いていたのです。色々なアイディアを出し合って、議論して、お互いに協力して書き上げたものを、私が直してという方式で書いていたのですが、非常に重要なキャラクターのエーン先生が女性なのです。その部分のリアリティをどう持ってくるかとなった時に、これまで一緒に仕事をしたことがある女性の脚本家さんをもうひとり連れてきて、その方に色々みてもらって、会話の部分などを書いていただいたのです。たくさんの人数で一緒に働くということは、それ自体がリサーチの形になっています。自分たちの経験や趣向、アイディアをどんどん共有していくとてもいい場になっています。
-その全ての意見を、監督が最終的に統括して、ひとつの物語をまとめられたのですか??
ニティワット監督:今の4人の話でいえば、私自身は船のキャプテンみたいなものなのです。チームで働いている段階において、最終的には自分で決めなければなりません。
-日本の黒澤明監督も、同じようなやり方をされているのです。
ニティワット監督:あぁ、いいですね (笑)。

Q:主演のおふたりの話をお聞きしたいのですが、とても人気のあるふたりということで、ご紹介をお願いします。
surechgai_04 ニティワット監督:まずソーン先生役のスクリット・ウィセートケーオさんは、タイではビーさんという愛称で呼ばれています。彼はタイでスーパースターなのです!元々歌手として活動されていた方で、オーディション番組で勝ち上がってきて、凄く有名になった方です。これまでたくさんのドラマや舞台に出られていますが、ビーさん本人をフューチャーした映画は本作が初めてです。何よりソーン先生の役柄と、ビーさん本人の性格が非常に似ています。ビーさんも北部の出身で、これといった特技がない子どもだったのが、訓練を積み、やる気と熱心さで、スターダムを駆け上がっていった方なのです。そういったところや、とても楽しい性格も非常にマッチして、ビーさんと近いものがあると思いました。
その一方で、エーン先生役のチャーマーン・ブンヤサックさんは、プローイさんという愛称です。彼女もスーパースターで20年くらい活動されている女優さんで、主にドラマなどに出てます。プローイさん自身が、非常に自分をしっかりと持っている性格なので、そこがエーン先生のキャラクターとマッチしているんじゃないと思いました。また、エーン先生と同じようにとてもやる気がある方です。プローイさんは、元々全く泳げなかったのですが、この映画の中には泳ぐシーンがたくさん出てきます。撮影の時に泳ぎの練習をして、撮影が進むにつれてどんどん泳げるようになっていきました。彼女自身、この映画のおかげで泳げるようになったといっていました。
-彼女は浅野忠信さんと『地球で最後のふたり (2003)』という映画で共演されています。

Q:昨年の東京国際映画祭で拝見させていただき、タイ映画ってこんなに面白いんだっていう、これまでの先入観を吹き飛ばすような大変素晴らしい作品でした。残念ながら日本では、アジア映画の情報がほとんど入って来ないのですが、監督の近況や次回作の構想について教えてください。
ニティワット監督:まず何よりタイ映画をみてくだってありがとうございます!とてもたくさんの観客のみなさまに来ていただいてとても嬉しいです。この映画が終わってから、新しい映画の脚本に取り掛かっているところですが、恐らくもうしばらく時間が掛かりそうです。ただ長編映画と長編映画の間は、大体コマーシャルの制作にも携わっているのですが、そういった期間に自分のテクニックや技術を磨いています。
surechgai_02 -ちなみにこの『すれ違いのダイアリーズ』は、2015年今年度アカデミー外国語映画賞・タイ代表作品になっていまして、日本としては『百円の恋 (2014)』のライバルにあたります。どちらもダメなところから這い上がっいくというところは、お友達的な映画かなと思っているので、共に戦っていきましょう!

Q:監督の一番お気に入りのシーンはどこですか??
ニティワット監督:難しい質問ですね(笑)。やぱりひとついえるのは、カメラがググッと学校の周りを回っていって、映っている登場人物が変わっていくシーンです。同じ場所で違う時間にふたりの人間が時間を共有している、とてもロマンティックなシーンだと思います。制作者としては、色々なシーンがその画を得るために涙を流すほどの苦労をしているので、そういう痛みでの好きな部分があるんだと思います。それぞれ撮るだけでもう泣いちゃいます (笑)。もうひとつ、ふたりが水の中で泳いでいるシーンです。プローイさんは子どもの頃、溺れたことがあるそうです。お父さんに助けてもらったのですが、それがトラウマになって、ずっと水に入るのが怖かったそうです。けれど、この映画のために克服して、自ら泳げるようになって、あのシーンまでたどり着いたというのは、監督として非常に感動的でした。

取材:佐藤ありす

【STORY】
surechgai_01 田舎の小さな小学校に赴任した青年教師と前任者の女性教師が、日記を通じて交流する姿を描いたタイ映画。都会から遠く離れ、山々に囲まれた小学校に赴任し たソーンは、職員室で前任者の女性教師エーンが残した日記を見つけ、読むうちに面識もないエーンを身近に感じるようになる。1年後、ソーンと入れ違いで再 びエーンが赴任してくる。ソーンは同じように日記を残しており、今度はエーンがソーンの日記を読み始める。

すれ違いのダイアリーズ
(英語題 The Teacher’s Diary、原題 KidTueng Wittaya)
監督:ニティワット・タラトーン
出演:スクリット・ウィセートケーオ、チャーマーン・ブンヤサック
©2014 GMM Tai Hub Co., Ltd.
2016年上半期、シネスイッチ銀座を皮切りに全国順次公開!

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