WOMEN×MOVIE、GROVALを翔ける『あいち国際女性映画祭』ショートフィルム・コンペティション
WOMEN×MOVIE、GROVALを翔ける ――『あいち国際女性映画祭』ショートフィルム・コンペティション――
2014年9月3日~7日ウィルあいち(名古屋市 東区)及び弥富市総合社会教育センター(愛知県 弥富市)に於いて、『あいち国際女性映画祭(略称:AIWFF)』2014が開催された。AIWFFは1996年から始まった古参の映画祭だが、世界各国の女性監督による作品・女性に注目した作品を集めた映画祭は、現在国内唯一となった。
2012年より始まった『AIWFFショートフィルム・コンペティション』は映画祭の趣旨どおり女性監督の作品に限られ、本年2014年は5カ国91本の短編(30分以内)作品の応募があったと言う。9月6日(土)はノミネート作品を一挙に上映し、グランプリ1本・準グランプリ2本の発表まで行うとあって、ウィルあいち3階大会議室の椅子は多くの映画ファンで埋まった。左より、湯浅典子監督、伊丹咲季(『ナイアガラ』主演)、岡本典子監督、朱 彦潼監督、佐藤美代監督、SO-JEON SHIN監督、堀部俊仁(AIWFF2014運営委員)、佐藤祈美栄(公益財団法人あいち男女共同参画財団 理事長)、野上照代(AIWFF2014運営委員)、木全純治(AIWFF2014ディレクター)
『AIWFF2014 ショートフィルム・コンペティション』ノミネート作は、以下の10本である。
『タイトル』・(作品概要)・【解説】、そして当日登壇した製作関係者の発言を、上映順に記すことにする。
『ナイアガラ』(日本/27分/監督:早川千絵)
【幼い頃に両親を亡くし養護施設で育ったヤマメ。18歳になった彼女が初めて知った祖父母の存在、そして、風変わりな介護士・田西。施設を出たヤマメは、街に出る】
早川監督のメッセージ(朗読:伊丹咲季)「当初この物語の主人公は男の子を想定していたのですが、通っていた映画学校で同じクラスに在籍していた伊丹咲季さんに惚れ込み、どうしても彼女を主役に映像を撮りたいと思い立って、女の子を主役にしたストーリーを練り直しました。幸運なことに『ナイアガラ』は、カンヌ映画祭やソウル女性映画祭をはじめ国内外の映画祭で上映する機会に恵まれました。昨年の夏、映画作りはほぼ初めてと言う学校の仲間たちと一緒に手探りで撮影した作品ですが、多くの方に観ていただくことで徐々に佳い作品として成長していったような気がします」
伊丹咲季(ヤマメ役)「私の中では“演じてる”って感じじゃなくて、“書いてある通りにやった”感じです…済みません、上手いこと言えなくて…」
佐藤久美イベントディレクター(司会進行)「伊丹さんのヤマメ、とても自然な感じでしたからね」
『アカベンチャー』(日本/6分/監督:岡本典子)
【ママとパパは、お腹の中にいるちびちゃん(赤ちゃん)を想像する。ママとパパに会うために広大なお腹の中を奔走するちびちゃんの冒険を描いた、アニメーション活劇】
岡本監督「この作品は、新米ママとパパがお腹の中にいる赤ちゃんを想像しながら話が進んでいくと言う作品なんですが、難しい言葉や表現はありません。観たまま、分かりやすく、楽しく、視聴していただけたらなと思って、作りました。『アカベンチャー』は大学院の1年の時に制作した作品で、当時6分と言う長いアニメーション作品は初挑戦でした。周りからは「教育アニメだね」「NHKのアニメっぽいね」と言われたんですけど、“分かりやすく”をモットーに作った結果かなと思います」
『Strangers』(韓国/25分/監督:SO-JEONG SHIN)
【中国籍朝鮮族のチョンミは、息子の手術代を稼ぐため偽装結婚し韓国で働いている。チョンミは息子と同じ年齢の少年と顔見知りになり、次第に心を通わせていく二人だったが――】
SHIN監督「この映画は、韓国でよく見る朝鮮系中国人の物語です。タイトルは『Strangers』、つまり“異邦人”です。主人公は異邦人として多くの試練に遭いますが、その中で希望を失わず生きていく姿を描きたくて、この映画を作りました。この映画で札幌国際短編映画祭に出たことがあるんですが、この度名古屋にも来る事が出来て本当に嬉しく思っております」
『京太のおつかい』(日本/20分/監督:大川五月)
【防災ずきんがトレードマークの少年・京太が繰り広げるハートウォーミングな物語。自分と同じく一風変わった少女・詩織と会った京太。意気投合する京太と詩織だが、二人には大きな違いがあった】
『ネクタイと壁』(フランス/29分/監督:山本亜希)
【父が結ぶネクタイと、息子が壁に描いた絵、それが親子を繋ぐ絆であった。父は壁の絵を消そうとし、息子は父のネクタイを結ぼうとする。擦れ違ってきた二つの人生は、交差するのか?】
『Through the Windows』(日本/3分/監督:佐藤美代)
【女性の見つめるひとつの窓から複数の窓への移ろいが、様々なシーンを回想する。自由自在にメタモルフォーゼする窓の世界を、絵具、粘土、切り絵などで制作したアニメーション】
佐藤監督「私は学部生まで名古屋の大学に通っておりまして、現在は横浜の大学院でアニメーションの勉強をしています。『Through the Windows』は、大学院に入ってからの作品です。ある時期から窓と言う物に非常に心惹かれておりまして、窓をテーマにアニメーションを作りたいと思うようになりました。色々と調べていたところ、本の中で“窓の拡張”と言うキーワードがあったのが心の中で引っかかりました。近代化する世界のことを言っているんだと思うんです…“窓”をメタファーとして。現代に生きる人間にも“窓の拡張”がメタファーとしてあるのではないかと思って、制作しました」
『The way back』(韓国/23分/監督:Halla Kim)
【男は長い間、年老いた叔父の世話をしながら生活している。孤独な叔父に同情はするが、面倒を見続けることに困難を感じ始めた男が取った一計とは……?】
『コップの中の子牛』(日本/11分/監督:朱 彦潼)
【80年代の中国江南地方を舞台にした、父と娘の小さな物語を描くアニメーション。生きていく上でふと吐いてしまう小さな嘘の、可笑しさ、優しさ、切なさ……愛おしさ】
朱監督「この作品は、東京芸術大学大学院の卒業制作です。私は4年前、中国から日本へアニメーションの勉強のために留学しました。この作品は、小さい時の父との思い出を形にしたいと思って作りました。父は作品の中のように、嘘をたくさん私に吐いて、それが凄く記憶の中に残っていて。今考えると、私を育てた父はなかなか苦労しているなと思います」
『Rollerblade』(韓国/20分/監督:SEUNG MI LIM)
【再開発地区に住む少女は、買ってもらえないローラーブレードを、立ち退きを拒否する廃品屋の老人が持っているのを見る。少女は弟と友人を巻き込み、ある行動に出る】
『あの、ヒマワリを探しに』(日本/25分/監督:湯浅典子)
【仕事に明け暮れ週末も職場の飲み会で夜を明かした村上は、居酒屋の名物・高校別の寄せ書き帳に母校のノートを見付ける。心を奪われる書き込みを見た彼が目覚めた場所、そこは――】
湯浅監督「14年ほど東京の制作会社に勤めておりまして、テレビドラマの演出とプロデュースをずっとやって参りました。この作品は、会社を辞めてフリーランスになり、脚本から携わって作った作品の一作目です。歳を重ねて仕事をしてきて、それでもまだ青春の“欠片”とか“種”と言うものは、どの日常にもあるんじゃないかと言うのが、この作品のテーマであり一番やりたかったことです。今後もそう言うことを秘めたものが作っていけたらと思っております」
杉浦文紀(村上役)「僕も監督と同世代で、同じ年代での葛藤とかを現場でもスムーズにやりとり出来たと思…ってたの、俺だけですかね(笑)?」
湯浅「そんなことないです(笑)」
大川裕明(用務員役)「ヒマワリの種がなかなか美味しくて、あと草刈るのが意外に大変でした(笑)。湯浅さんと知り合えて、本当に嬉しいです」
ノミネート10作品の上映が終わると、特別招待作品として平柳敦子監督作品『Oh,Lucy!』(日本・シンガポール・アメリカ/21分)、『もう一回』(日本・シンガポール/15分)2本が上映された。その間に審査員の協議が進み、上映が終わると間もなく授賞式となった。
野上照代運営委員から発表された各賞は、以下の通り。
準グランプリ
『ネクタイと壁』(監督:山本亜希)、『Through the Windows』(監督:佐藤美代)
グランプリ
『Strangers』(監督:SO-JEONG SHIN)
佐藤監督「他の方が受賞されると思っていたので、本当にびっくりです。地元の映画祭に参加できたことですら嬉しいのに、賞を頂けて本当に光栄です。ありがとうございます。これからも頑張ります」
SHIN監督「札幌国際短編映画祭でも賞を獲って、これが2回目の来日なんですけどこんな素晴らしい賞を頂いて、本当に嬉しく思っております。カムサハムニダ、(日本語で)ありがとうございます」
受賞監督の喜びの声に、殆ど席を立たず残っていた観客から大きな拍手が贈られた。
堀部俊仁運営委員「今年のショートフィルムは素晴らしい作品ばかりで、甲乙付けがたいものがありました。去年より、またその前の年より、段々質が上がってきたと思います。来年は“観客賞”と言うのも付け加えて、観客の皆様にもショートフィルムの審査をしていただきたいと思っております。今回、本当に監督の皆さんは頑張っていただいたと思います」
木全純治ディレクター「今回のテーマは、世代交代とグローバル化だと思います。誰でも映画が作れるようになり、どの国でも短編も長編も作れる時代がやってきました。中でも韓国映画が3本ノミネートされていますが、これは19本の中から選ばれたもので、本数だけでなく御覧の通り力のある作品が揃いました。グローバル化に関して言えば日本でも、特別招待作品の平柳監督はシンガポール在住です。準グランプリに選ばれた『ネクタイと壁』の山本監督は、フランス在住です。日本人もどんどん世界へ出ていく中で作品を作るようになった…これも新しい動きだと思います。準グランプリを獲った『Through the Windows』をはじめアニメーションの3作品は、東京芸術大学出身または御卒業の方です。アニメーションの第一人者である山村(浩二)先生がいらっしゃるんですけれども、力を感じるとともに、東京芸術大学だけに任せておいていいのかと言う残念な面も感じます。今回、審査員は7名と言う非常に多くの方と協議をいたしました。シン・スジョン監督の『Strangers』は、今韓国が抱える移民の問題も含め非常にグローバルな視点を、短編と言う短い時間の中でしっかり捉えていると言うことで最終的にグランプリとなりました。『ネクタイと壁』の山本監督は現在41才で、フランスで3本、日本で2本の作品を作っておられます。彼女はもうプロに限りなく近い監督でして、スポンサーがあればいつでも長編を撮れると思っています。『Through the Windows』は、非常に絵の質が高く、たった3分ですけど構成が実に良く出来ています。佐藤監督は、まだ25才です。将来の活躍も含め、あいち国際女性映画祭から世界を目指すアニメーターになって欲しいと言う私たちの願いを込め、準グランプリにさせていただきました。実は『ナイヤガラ』も『あの、ヒマワリを探しに』も『コップの中の子牛』も、それぞれ推される方がいらっしゃいました。来年“観客賞”が新しく加わると思います。このあいち国際女性映画祭から世界に活躍する女性監督が生まれればと思いますので、益々の御支援よろしくお願いします」
両審査員の講評が示す通り、AIWFFショートフィルムは3回目を迎え、実に高レベルな、実に多彩なコンペティションになった。ノミネート10作品はどれも傑作揃いなので、監督の御名前と作品タイトルは記憶されると良い。今後も全国の映画祭や特集上映で必ず上映されるはずなので、作品の力に驚かれると良い。
そして、現在を時めく女性監督の力量に、度肝を抜かれると良い。
取材 高橋アツシ
『あいち国際女性映画祭』公式サイト:http://www.aiwff.com/