狭間を凌駕するアニメーション・境界を疾走する短編映画--『寫眞館』・『陽なたのアオシグレ』鑑賞記--
狭間を凌駕するアニメーション・境界を疾走する短編映画
--『寫眞館』・『陽なたのアオシグレ』鑑賞記--
街を見下ろす小高い丘に建つ“日の丸寫眞館”へ、人々は様々な思いを抱いて階段を上る。 写真館の主人は、今日も被写体と向き合う。最高の時間…時代・瞬間…を、切り取るために。
なかむらたかし(『パルムの樹』『ファンタジックチルドレン』監督・『AKIRA』作画監督)監督最新作『寫眞館』は、ファンタジーとリアリティの狭間でレトロとモダンが絶妙に観客をくすぐる傑作である。 17分の時間旅行が織り成す満足感は、観た者でなければ想像だに出来ないであろう。
絵と妄想が大好きな小学生・陽向(ヒナタ)。だけど一番好きなのは、クラスメートの時雨(シグレ)ちゃん。少年が走り出す時、ただの妄想だった想いは加速し、疾走し、滑空する。
監督作『フミコの告白』『rain town』がYouTube上で驚異の再生回数を叩き出した石田祐康監督の商業デビュー作『陽なたのアオシグレ』は、切なさと爽やかさがスクリーンを所狭しと翔け巡る快作である。 18分の成長物語が紡ぎ出す爽快感は、体験した者ですら伝えることが難しいであろう。
なかむらたかし監督『寫眞館』、 石田祐康監督『陽なたのアオシグレ』。
この宝石のような珠玉の掌編が、2本立てで全国ロードショウ公開されているのをご存知だろうか?
そして、2作品合わせて上映時間35分と言う短編映画が、大好評を得ていることをご存知だろうか?
ともすれば敬遠されてしまいそうな短編アニメーション作品が、なぜ劇場公開されるのか、なぜ好評なのか…是非とも御自身の眼でお確かめ頂きたく思う。必ずやお気に召すはずなので、この小さいが愛すべき傑作を周りの大切な人たちに伝えて頂きたく思う。そして、知って頂きたく思う…“短いからこそ”得られる感動があると言うことを。
「企画段階のイメージボードで、鳥とシグレを描いたんです。それを何とか物語として組み込めないかと思い、こう言う形になりました」
試写会の壇上、『陽なたのアオシグレ』の石田祐康監督は言った。石田監督がこうまで拘った鳥は、劇中で大変大きな役割を担っている。ヒナタの妄想を彩る存在であり、それだけでなく現実でも二人を繋ぐ。『陽なたのアオシグレ』に於いて、鳥は重要なバイプレイヤーなのだ。少年の想いが妄想と現実との境界を突き抜けた時、鳥たちはヒナタの背中を押し、現実世界にも影響を与える。スクリーンの中と外とのボーダーをも消し去る名シーンのオンパレードなので、瞬きを忘れて括目して欲しい。
瞬きを忘れて欲しいのは、『寫眞館』もご同様。
登場人物たちのちょっとした動きや目で追い切れないほどの小物の数々に、目が離せなくなること請け合いである。そして、明治・大正・昭和と一括りに“レトロ”とは片付けられない時代性溢れる背景の細やかな描き分けを、どうか存分にご堪能あれ。 最後まで集中して観られるのも短編映画ならではと、きっと思って頂けるはずである。
『寫眞館』・『陽なたのアオシグレ』… 全く毛色の違う作品同士が、切磋し合い琢磨し合う…感動を倍加し合う…そんな稀有な体験を、是非ともお観逃し無く。 公式HPの公開情報をチェックされるといいだろう。 東京ではトリウッドで公開中。京都は1/18から元・立誠小学校 特設シアターで、名古屋は2/8からシネマスコーレで、封切となる。
蛇足だが、公式パンフレットをお手に取るのをくれぐれもお忘れなく。
素晴らしく出来の良い、素敵なパンフレットなので。
『寫眞館』 監督 なかむらたかし
『陽なたのアオシグレ』 監督 石田祐康
(C)studio colorido
公式サイト:http://www.shashinkan-aoshigure.com/
東京 トリウッド1/4~、京都 元・立誠小学校 特設シアター1/18~、
名古屋 シネマスコーレ2/8~
文・高橋アツシ