『MOOSIC LAB 2013 名古屋』より-『おとぎ話みたい』鑑賞記


おとぎ話みたいな 伝説・伝説みたいな おとぎ話
--『MOOSIC LAB 2013 名古屋』より『おとぎ話みたい』鑑賞記--

2013年7月12日、名古屋にあるミニシアター・シネマスコーレのレイトショウは立ち観が出る盛況振りであった。

シネマスコーレでは連日20時より、SPOTTED PRODUCTIONSが渾身の力を込めて放つ名物企画、“映画×音楽の実験室”『MOOSIC LAB 2013』が開催されていた。

6月29日より2週間に亘った『MOOSIC LAB 2013名古屋』も、この夜が最終日。多彩な舞台挨拶が壇上を飾ることでも好評な『MOOSIC LAB』だが、最後を飾るゲストは正にスペシャルであった。

SPOTTED PRODUCTIONS代表・直井卓俊プロデューサー、そしてそして…処女の孤踏とロックバンド“おとぎ話”の音楽がスパークする傑作『おとぎ話みたい』主演、趣里さんである。MCを務めるシネマスコーレスタッフ・坪井篤史氏の名調子も、この夜はとびきり軽やかであった。

坪井「趣里さんは名古屋は初めてだそうで、今日は来ていただいて、本当にありがとうございます。初めての名古屋がシネマスコーレって、ヤバいですね…色々心配です」moosic

直井「いきなり趣里さんの名古屋の最初の記憶がここで良かったのか、問題(笑)実は『おとぎ話みたい』は山戸(結希)監督が愛知県出身なんで、刈谷の方で撮影してるんですけど、その時は趣里さん来れなかったんだよね?」

趣里「はい… ちょっと仕事で。そうなんですよね…卒業式のシーンに出れなくて、凄く申し訳ない気持ちで…なので、名古屋は初めてです。さっき着いて、味噌カツを食べてきたんです(笑)美味しかったです!」

坪井「定番ですねー。最初があんかけパスタとかじゃなくて良かった!(笑)それではまずは、山戸監督との出会いについて教えていただけますか?」

趣里「私が出させてもらった『東京無印女子物語』と言う映画の公開記念イベントで、山戸さんの『あの娘が海辺で踊ってる』が併映されていたんですよね…それで初めて御一緒しまして。山戸監督とは同い年なんですよ。それで色んな話をしたんです。「今度なにかやりましょうね」みたいな話も」

直井「僕が山戸監督 と出会ったのも、その日なんですよ。昨年のMOOSIC LABのグランプリストでもある今泉力哉監督に「直井さんは観た方がいい。『MOOSIC LAB』に向いてる気がする」って言われて。だから、そこで趣里さんを舞台で観てるんです(笑)」

坪井「みなさん、その時なんですね」

直井「その上映後に初めて山戸監督と話したんですけど…何か緊張して、その時は僕がぶわーっと喋ったのかな。それで何か盤面にみっちり文字と僕の似顔絵が書いてある『HerRes』のDVDを渡されて(笑)」

趣里「私も貰いました…私の似顔絵が書いてあるDVD(笑)」

直井「自分がリスペクトしてる人たちに対しては、必ずそう言うのを配ってるみたいですね(笑)それで、山戸監督がMOOSIC LABに通ってくれて、今年やってみるか?って聞くと、「やりたい!」って言ってくれて…「やるなら“おとぎ話”で決まってる」って、真っ先に。その時から、ずっと「趣里さんで」って言ってたんですよ。だから、当て書きなんですよね。趣里さん出てくれなかったら、どうなったんだろうっていう(笑)」

趣里「でも、あの凄まじい内容を当て書きって…と、思いません?(笑)いや…凄く演じてて楽しかったんですけど…最初に当て書きって聞いて台本読んだ時、「私ってこういう子なんだ」って、自分で気付いた、みたいな(笑)」

直井「まあ、当て書きって言っても…趣里さんがああ言う子だって言うより、山戸さん自身を投影できて、やりたいことを具現化してくれる女優さんが趣里さんしかいない!ってことだったと思うんですよね(笑)何より、すごく踊れるということが、最初から重要だったみたいなんで」

坪井「撮影現場はどんな感じだったんですか ?」

趣里「多分、結構その時その時感じたことを表現したい山戸監督なので…現場で演出が変わったり、台詞も増えたりとかしてて…。そんな時は「趣里さんっ、あのっ!…こう言ったら絶対かっこいいんでっ!趣里さんが言ったら、絶対かっこいいんでっ!お願いしますっっ!」(←山戸監督の物真似)って言われて、その量がハンパじゃなかったりするんですよ(笑)」

直井「ちなみに…今の、山戸に凄く似てますね(笑)」

趣里「ですよね?似てるんですよ。極めまして(笑)でも、そんな風に言われたら、やるしかないって思って。そんなパワーが凄くて」

直井「エキストラさんに指示を出す時も凄くて…確かどこかの現場で「死なば諸共!」とか言ってたような…。「楽器になったつもりで揺れてください!恥ずかしがらないで!死ぬことはないんで!」とか(笑)」

坪井「“おとぎ話”ですね、まさに(笑)本当そう言うのがどんどん映っていく訳ですね。趣里さんがアドリブでやったりした所はありますか?」

趣里「台詞…言葉は無いんですけど…クライマックスシーンは初日に撮ったんですよ。あの時は振り付けの方もいなかったので、山戸さんの「あのっ!こんな感じでっ!」みたいなやつで…」

直井「擬音の多い(笑)」

趣里「そうです(笑)「“しゅあ~”っ…“しゅっ!”っていう感じで!」みたいな。アドリブと言うか、擬音を元に創らせて頂いたみたいな(笑)だからこそ新鮮で、その場だけの瞬発力が出せたかなと思います」

残念ながらこの辺りからトークがネタバレ全開になってしまうので、再現は控えるとする。
とにかく撮影の、山戸結希監督作品の、『おとぎ話みたい』の、現場の熱量を存分に感じる素敵な舞台挨拶であった。

そんな“熱量”は、山戸監督の演出、趣里さんの演技、おとぎ話の楽曲、どれが欠けても成立しない凄まじく繊細なバランスで産み出された化学反応であることを痛感せずにはいられない。そして、そんな化学反応は『MOOSIC LAB』と言う企画があればこその奇跡のスパークであることが実に興味深い。

直井「ただ、山戸監督自身は今の『おとぎ話みたい』にまだ満足してないみたいで…もう一度手を加えてます。そんな“再編集版”もいつか名古屋にも持ってきたいと思うんで、どうぞ宜しくお願いします!」

『MOOSIC LAB』…『おとぎ話』…止まない進化から、映画ファンはまだまだ目を離させてはもらえない。

そして、山戸結希…趣里…感じるだけでは足りない、考えても届かない…五感を研ぎ澄ませての鑑賞を余儀なくされる新たな才能に、否応無く惹き寄せられてしまうのだ。目も、耳も、肌も。

2013.7.12 @シネマスコーレ   取材:高橋アツシ

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