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嘲笑う風車・血塗れの鎮魂歌 --『パズル』鑑賞記--

『パズル』を観た。
『牛乳王子』でシネフィルの度肝を抜き、『先生を流産させる会』で映画界を震撼させた内藤瑛亮監督の商業デビュー作である。ティーン層を中心に絶大な人気を博す山田悠介『パズル』が原作なのだが、俊才・内藤監督の手に掛かると斯くも異形なるスプラッター・ホラー作品が出来あがる。

「所謂“デス・ゲームもの”なんですけど、凄くたくさん創られているパターンと同じようになったら嫌だな、と。どう言った点で独自性を出せるかと考えた時に、デス・ゲームって何でそんな面倒臭いことをするのかって言う疑問があったんですね。もし殺したい人が居ればさっさと殺せばいいのに、そんな回りくどいゲームをするのは何故なのか…そう言う人物こそ、一番興味深いと思ったんです」

2014年3月16日、109シネマズ名古屋・3番スクリーンの壇上、内藤監督はスポットライトに照らされていた。鑑賞回が監督の舞台挨拶付きとは、僥倖と言う他ない。

海辺の街。周囲と打ち解けられず毎日を過ごす高校生・湯浅茂央(野村周平)の同級生・中村梓(夏帆)が、学校の屋上から身を投げた。それをきっかけに、彼の、学校の、街の、日常は一変する。
徳明館高校理事長・高井(大和田獏)の愛娘が手掛けたキャラクター“ひまわり子”の仮面を着けた集団が、教師・安田(佐々木心音)を人質に学校を占拠。その後、時を同じくして失踪した生徒が命を落とす事態に発展。全ての事件に共通する“パズル”。一命を取り留めた中村は、湯浅から受け取った“欠片”を手に重大な選択を迫られる。

どこか、おかしい。当事者を息子に持つ刑事・三留(高橋和也)も、生徒たちの母親たち(八木さおり・正木佐和)も。何もかも、おかしい。街も、学校も。親も、子も。世界も、自分も。

「結果的に、(原作を)9割くらい変えてしまったんですけど(笑)」

上記あらすじで気付かれただろうが、原作ファンは盛大に面食らう覚悟で観るといい。映画『パズル』と小説『パズル』は、似て非なる作品である。“内藤イリュージョン”は、商業映画でも炸裂するのだ。

「山田さんの小説って独特で、そのまんま実写で生身の人間が演るとちょっと成立しないな、と。肉付けをどうしたらいいか考えて、こう言った方向性になりました」

主人公・湯浅の指が、吹き出物を潰す。ペットを撫でる。太陽を翳す。まるで、生と死との距離を測るかのように。だが、発電用風車が陽光を遮る。世界と自分との乖離を嘲笑うかのように。

「意識的ではないんですけど、脚本はどうしても自分の内側からしか出てこないんだなあ、と。走り方で湯浅のキャラクタを表したくて…きっと凄くヘンな走り方をする奴だと思って。野村さんに走ってもらったんですけど、なんか違う…「そうじゃないんだ!」って僕、野村さんの元へ走っていったんですね。そしたら野村さんが「あ、そうやって走ればいいんですね!」って走ったのが、あれ(OKカット)なんです。僕はちょっとショックだったんですけど(笑)でも、作品を創ると言うのは、何かしら自分が恥ずかしい部分を出すことになるのかなと思いました。野村さんは性格的に悪戯っ子で…真面目に役を作るって言うより、一緒に楽しんでいったと言う感じですかね。スタッフ全員ドン引きしてた場面でも、僕と野村さんだけは、一般の人が引くくらいのことを楽しんでやるんだから、俺たちが怯んじゃダメだ!って、決して心が折れないように笑っていました(笑)」

そして、特筆すべきは夏帆の熱演……怪演である。puzzlesub

「ご一緒した『悪霊病棟』って言うドラマが夏帆さん初めてのホラー出演で「一度スプラッター映画に出て血糊を浴びてみたい」って仰ってたんで、じゃあ思う存分浴びてもらおうと(笑)彼女は常に“その映画の世界の住人”じゃ無いような、何か居辛そうにしてるなって言うのを感じていたんですが、『悪霊病棟』を演出してる時その理由が解ったんです。監督がOKを出しても、ずっとしっくり来ないような顔をしてるんですね。聞いたら、どの現場でもそうなんだと。だから、居辛そうな印象を僕が受けたのかと思いました。今回の作品は正に“世界に居辛さを感じてる女の子”と言う設定だったので、現場では彼女が演じててスッキリする前にOKを出したりとか、編集の時点でOKテイクじゃなくて途中の段階のものを採用したりもしました」

ヒロイン・中村は、血飛沫を浴びる。自分自身の、憎むべき仇の、倒すべき敵の、鮮血を。血塗れの舞踏は、居辛い世界への、生き辛い自分への、凄絶なレクイエムである。新たなるホラー・クイーン誕生を目の当たりにした者は、戦慄を禁じ得ない。

「中学・高校はかなり暗かったですね…毎日、「みんな死ねばいいのに」とか思ってました。でも…こう言う映画を通して、俺みたいな中高生なり中高生時代を過ごした人が共感したり、そう言う人種も居るんだと解ってもらえればなと(笑)凄い暗い学生生活を愛知で過ごした訳なんですけど、それが原動力となってようやく物を産み出せて作品に出来ているので…皆さんのおかげです(笑)」

愛知県出身の内藤監督にとって、この日は“凱旋舞台挨拶”であった。そんな壇上でこの発言……しかも満面の笑みで言い放ってしまうのだから、一筋縄では行かない。だからこそ、私たちはこんなにも内藤瑛亮監督作品に惹かれて已まないのだろう。“トリック・スター”の仮面の下は、窺い知ることは出来ないのだ。

映画『パズル』……ほんの些細な感想が致命的なネタバレと化す気がするし、どれほど考察を重ねたところで本質に掠りもしないような気がする。手にした欠片がパズルのマスター・ピースなのかどうか、自らの手で嵌めてみなければ解りはしない。実に皮肉なことに、それは私たちが這い蹲(つくば)って沼田打(のたう)ち回る、現実世界と同じである。

文・高橋アツシ

『パズル』
キャスト:夏帆、野村周平、高橋和也、大和田獏、八木さおり、佐々木心音、田中隆三、渡辺凱、冨田佳輔、佐伯亮、馬場ふみか、吉満涼太 原作:山田悠介『パズル』KADOKAWA/角川書店刊
監督:内藤瑛亮   (C)2014「パズル」製作委員会
2014年3月8日より、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田、109シネマズ名古屋にて公開
公式サイト :http://www.puzzle-movie.jp

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