木下惠介生誕100年記念映画―『はじまりのみち』


日本映画界が誇る監督、木下惠介と、その母・たまとの“絆”を描いた物語。監督は、『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』や『河童のクゥと夏休み』など、アニメーション作品で高い評価を受ける原恵一。今作が初めての実写映画監督作品である。

戦意高揚のための映画作りが要求された時代。『花咲く港』で華やかにデビューし、将来有望の若手監督だった正吉(木下惠介)は、国策映画『陸軍』を製作する。しかし、陸軍情報局から、出征する息子を見送る母親のラストシーンが「女々しい」と指弾され、次回作の企画が中止されてしまう。夢だった映画監督に失望し、正吉は故郷・浜松に戻る。浜松も空襲が激しくなるなか、病気で療養中の母・たまを兄・敏三と便利屋の3人で、60キロある疎開先へ向かうことになる。山奥の峠をひたすら歩き続け、疎開先に到着し、母・たまは正吉に、これからの生きる道を静かに語りかける。

作りたい映画が作れなかった時代。母が息子を想うシーンを「女々しい」と言われた時代。それでも正吉は、人間の根底にある優しさを信じていた。正吉の一つひとつの言葉と行動に母への愛情を感じさせる。そして母も、息子を愛する気持ちが素直に伝わってくる。「夢なんてこの国にはないよ」。失意にあった正吉が、ふたたび人々に“夢”を与える映画監督になるまで。母と息子の、静かで優しい物語を通して、人間が見失ってはならない本当の“絆”が描かれている。

寡黙で実直な正吉を演じる加瀬亮と、母・たまを演じる田中裕子が、時代に翻弄されながらも懸命に生きる親子を演じきっている。木下惠介監督作品のシーンも数多く映し出され、木下映画ファンには見逃せない一作である。

ライター 吉田遊介

【ストーリー】
木下惠介生誕100年記念映画。時代と格闘し、血の通う人間を描き続けた映画監督・木下惠介の、人生を変えた数日間の出来事――。木下惠介の弱く、美しい者たちに注ぐ暖かい眼差し。その源にある母・たまの姿に注目し、戦中、血気盛んな映画青年として軍部に睨まれ、松竹を一時離れるきっかけとなった『陸軍』の製作時のエピソードを回想形式で盛り込みながら、母子の情愛を横軸に、木下監督の挫折と再生を描く実話を元にした物語。

『はじまりのみち』
キャスト:加瀬亮 田中裕子 濱田岳 ユースケ・サンタマリア 監督・脚本:原恵一
企画、制作、配給:松竹  (C)2013「はじまりのみち」製作委員会
公式サイト:http://www.shochiku.co.jp/kinoshita/hajimarinomichi/
2013年6月1日(土)全国公開

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