リード、水槽、籠、そして……『かしこい狗は、吠えずに笑う』


まずは、予告編を御覧あれ。

美沙(mimpi*β)は、ブルドッグ。周囲から、蔑まれている。
イズミ(岡村いずみ)は、チワワ。周囲から、妬まれている。
ふたりの狗が築いた関係は、友情なのか、それとも…。

モノローグをナレーションに進行する物語は、実は“入れ子構造”の筋立てであることが端々で仄めかされる。そう勘付いた鑑賞者は、シーンの数々に違和感を覚え始めるかも知れない。
だが、もう遅い。
きっとあなたは、イズミの笑い声に心奪われている。
きっとあなたは、美沙の心象を自分と重ねている。
あなたはもう、後戻りできない。

脚本・監督を一人でこなす渡部亮平氏は、『かしこい狗は、吠えずに笑う』が初長編作なのだそうだ。
驚異のストーリー・テラー誕生である!!
しかも、まだ25歳(制作時:24歳)なのだとか…驚愕である!!!

自ら制作も手掛ける渡部監督の辣腕は、キャスティングにも発揮されている。
主演の二人は言わずもがなだが、脇を固める役者陣がまた見事。
特に、仁後亜由美氏の起用は本当に絶妙である。

ぴあフィルムフェスティバル「エンタテインメント賞(ホリプロ賞)」&「映画ファン賞(ぴあ映画生活賞)」受賞など、数々の映画祭での勲章も納得。年間ベストどころか“生涯の殿堂入り”クラスの作品なので、心しての鑑賞をお薦めする。
そして、度肝を抜かれるといい。笑って……泣いて……挙句の果てに……。

蛇足だが、スタッフロールで席を立ってはいけない。
エンディング曲を聴き逃しては、余りにも勿体ない。(歌い手のチェックをお忘れなく)
是非とも、最後まで映画に浸って欲しい。
物語の最深部へ、ようこそ。
深淵を覗く者は識るのだ、深淵から覗き返されている自分に。

淵の奥底から見えやしないだろうか…渡部監督の北叟笑みが。

かしこい狗は、吠えずに笑うのかも知れないが…
しあわせな鑑賞者は、席を立てずに嘆息を漏らすのみである。

ライター 高橋アツシ

【ストーリー】
ブルドッグのように不細工に生まれた熊田美沙は普通の生徒から蔑まれ、チワワのように可愛く生まれた清瀬イズミは普通の生徒から妬まれている。全く異なる二人だが、与えられた運命という同じ苦しみ、痛みの上に生きていた。痛みを判り合えた二人は交流を深め友情を築いていく、が――。
※本作品は後半の展開がネタバレしてしまうと面白さが半減する可能性があります。

『かしこい狗は吠えずに笑う』
キャスト:mimpi*β、岡村いずみ、もりこ、瀬古あゆみ、ほりかわひろき、中澤功、真田雅隆、筧十蔵、坂本なぎ、仁後亜由美、佐藤幾優、石田剛太(ヨーロッパ企画)脚本/監督:渡部亮平
公式サイト http://www.kashikoi111.web.fc2.com
オーディトリウム渋谷にて2013年6月22日(土)~6月28日(金)21:10 の回に上映!

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