『MOOSIC LAB KICK OFF PARTY!』をレポート!



正義の人、出撃!!ヤマト、発進!!『MOOSIC LAB KICK OFF PARTY!』観覧記。
『MOOSIC LAB』と言う企画が好きです。
“MOOSIC”とは『MOVIE』と『MUSIC』とを掛け合わせた造語だそうで、「ムージック・ラボ」と発音します。『映画×音楽の実験室』のタイトル通り、映像作家と音楽家とが手を組み、短編映画を創り出す企画で、多くの参加ミュージシャンが音楽を担当するに留まらず本編に出演することも大きな特徴と言えます。

ちなみに、『MOOSIC LAB 2012』で生み出された作品の一部をご紹介すると…
『アイドル・イズ・デッド』=加藤行宏(監督・脚本)×BiS(音楽・主演)
『お兄ちゃんに近づくな、ブスども!』=内藤瑛亮(監督・脚本)×チッツ(主題歌)
『きたなくて、めんどうくさい、あなたに』=吉田浩太(監督・脚本)×松本章&小宮一葉(音楽・出演)
『恋はパレードのように』=天野千尋(監督)×森下くるみ(脚本)×平賀さち枝(音楽・出演)
『労働者階級の悪役』=平波亘(監督・脚本)×松野泉・見汐麻衣(音楽・主演)

…如何です?どんなコラボレーションになってるのか想像するだけでワクワクしませんか?観逃してしまった方もいらっしゃるかも知れませんが、落胆するのは早いです。これだけ面白い短編映画、遠からず特集上映が組まれることになるでしょうから。

ムージック・ラボ最大の特徴は、創り出される作品が凄く面白いってことなのです!!!

全国のインディーズ映画ファンが待ち焦がれるMOOSIC LAB、次回2013年の情報もチラホラ解禁となりつつある年の瀬…その前夜祭が名古屋でも行われると聞き及び、取るモノも取り敢えず会場の映画館に向かったのは2012年12月14日のことでした。題して、『MOOSIC LAB KICK OFF PARTY!』!!シネマスコーレとSPOTTED PRODUCTIONSが世に問う企画上映“SPOTTED 758(ナゴヤ)”のトリを飾るプログラムでした。ちなみにこの“SPOTTED 758”、もうVOL.9を数える名古屋の名物企画なんです。

“MOOSIC LAB 2013 前夜祭”と銘打たれた今回は、短編作品の上映と舞台挨拶から成るプログラムです。短編映画4本の上映後、谷口恒平監督と山戸結希監督そして仕掛人の直井卓俊プロデューサーで舞台挨拶…の予定だったんですが、平波亘監督の急遽参加と言う嬉しすぎるサプライズが!上映作品の監督全員が登壇しプロデューサーがMCを務めると言う、何とも豪華な舞台挨拶となりました! (画像:向かって左より、平波亘監督、谷口恒平監督、山戸結希監督 シネマスコーレ)

MOOSIC LAB 2013への参戦が決まっている谷口・山戸の両監督にとって今回の前夜祭は“顔見世興行”、気合い入りまくりのご様子。また、初参加の新人監督2名をキックオフイベントに持ってくるあたり、直井プロデューサーの御二人への期待が相当な物だと窺い知れます。観客としても期待しないのは無理ってもので、平日にも係わらず定員51名のミニシアターのシートはほぼ満席です。

映画の内容は、どれも期待に違わぬ素晴らしさ!僭越ながら、上映順に軽い解説をしたためます。

『正義の人』(谷口恒平監督作品)京都のご当地ヒーロー“コトレンジャー”を追った、フェイク・ドキュメンタリー作品。 このジャンルの大家・白石晃士監督が一目置く(!!)のも納得の会心作!

『倉庫内作業員の恋 劇場版』(平波亘監督作品)平内太『倉庫内作業員の恋−So Good Night−』のミュージック・ビデオを手掛けた平波監督自らによる、劇場版ロングバージョン。この作品のみ自主制作でない商業作で、絶妙なキャスティングがステキすぎ!

『あの娘が海辺で踊ってる』(山戸結希監督作品)山戸監督曰く、“世界初の発明”である、“処女による処女性をテーマにした処女作”。 抗い続けるモノと包容し続けるモノの対比が、不穏な画面に叩き付けられます!

『HER RES 〜出会いをめぐる三分間の試問3本立て〜』(山戸結希監督作品)レギュレーション違反(笑)をしてまで創り上げた、ラブストーリー組作品。相反するはずの実験性と娯楽性が斬り結びつつもハーモニーを奏でる、驚愕のエンターテインメント!

作品上映と舞台挨拶とのインターミッション、観客はどの顔も満足そうな笑みで溢れていました。この後シアターを覆い尽くすことになる不穏な空気のことなど、誰も予想してはいなかったのです。

名古屋のシネマスコーレに詳しい映画ファンなら、そんな話を聞いて察しを付けるかも知れません。
と言うのも、こちらの劇場には木全支配人と言うコワい存在がいらっしゃいまして…歯に衣着せなさすぎる“講評”は数多のインディーズ監督に深いトラウマを負わせ、『公開処刑』だの『スズメバチの一刺し』だのと呼ばれているからです。しかし今回のお話は、舞台挨拶の最後に行われた木全支配人の講評のことではないのでした。

直井プロデューサーの軽妙な司会により、つつがなく進行する舞台挨拶。自作について一通り語り終えた監督3名は、お互いの作品への感想を言い合うことになりました。

(『正義の人』に対して)
平波:「これからもずっとフェイク・ドキュメンタリーに拘って撮るつもりで?」
谷口:「いやぁ…“ムージック”でもフェイク・ドキュメンタリーで撮る予定なんですが、違う手法にも挑戦したいです」
…この辺りまでは、平和な雰囲気だったはずです。檀上は平穏な空気のまま、マイクは山戸監督の手に移りました。
山戸:「既存のジャンルに乗っかかるなら、全く新しい物が無ければ撮る意味って無いと思うんです」
…ん? ……何か今、スゴいこと言いませんでした?『正義の人』、面白かったですケド…?
何かのキッカケで特殊なスイッチが入ってしまう人って、いますよね。…山戸監督、あなたってもしや…

(『倉庫内作業員の恋 劇場版』に対して)
山戸:「私がお客さんとしてこの映像を観る時、『あ、あんな人が出てる!』って感じで自分のデータベースを満足させる以外の快楽は無いです」
…“スイッチが入ってしまう人”なんデスね!!?
谷口:「確かに、“インディーズ人脈を楽しむ”って言うのは… …お客さんの中でそうやって楽しんだ方もいらっしゃると思うんですけど…そろそろ、何と言うか…限界を感じてます」
…谷口監督、あなたもか!!!?

(『あの娘が海辺で踊ってる』に対して)
谷口:「自分が恥ずかしくなると言うか…自分は稚拙ながらも“丁寧に観せよう観せよう”って撮り方が身に就いちゃってるんだなぁ、と…。 そう言うの一切関係なく、ガーッと気持ちいい方向に進んでいくじゃないですか」
ああ、そうか…お二人とも、舌鋒が鋭いのではなく、貪欲なのか…。他作品に噛みつきたい訳じゃなく、面白さをストイックに求道する姿勢が表現として口をついてるってことなんですね。
谷口:「ただ…女性監督だからってのはあると思うんですよ。男が同じ手法で童貞映画を撮ったら、観てられない物になると思いますし…。例えば、クレジットを男性監督にしてしまうだけで、違った物に観えてしまうんじゃないかと……済みません…こんなこと言うのは、どうかと思うんですけど…」
山戸:「いえ。全く同じ作品を違う人間が撮るってことは事実上ありえないんで、大丈夫です」
…いや…やっぱり、単に口が悪いだけなのか…?(笑)

ともかく、キュートなナリして破壊力抜群の“ヤマト拡散波動砲”に鍛えられた一同は、本来なら大惨事な筈の木全支配人の講評を大したダメージ無く潜り抜けたのであります。 プログラムのラストには平波監督へのちょっとしたサプライズもあり、そのまま劇場内での打ち上げ(!!)に突入した名古屋の夜は、皆が笑顔のまま更けていくのでありました。

最後に、谷口監督の話を紹介します。
「世の中には、映画を撮らなくてもいい人間と、撮らなきゃ生きていけない人間がいるんじゃないかと…僕は、撮らなくても生きていける人間なんです。でも、だからこそ、しっかり作品と向き合っていきたいと思ってます」

恐るべきニューカマーの出現と、迎え撃つベテランの剛腕…これだから、目が離せなくなっちゃうんですよね…。2013年も、俄然“MOOSIC LAB”に注目です!!!

取材・文:高橋アツシ

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