どうせならダサく生きようぜ!『ブルーアワーにぶっ飛ばす』レビュー



なりたかった大人になっているだろうか。知らないうちに鎧をまとって生きるあなたに届けたい作品。じんわり込みあげる温もりを抱きしめたくなるだろう。

“ブルーアワー”それは1日の始まりと終わりに訪れる、空が青色に染まる一瞬のこと。見上げた空に教わるかのごとく、大人とは、年齢的な境界はあっても、切り替わりの実感がないもの。まるでそっと混ざり合う空の色のように。

田舎から上京し、CMディレクターの仕事に明け暮れる砂田(夏帆)は、優しい夫にも見守られ、順風満帆。かと思いきや、口を開けば毒を吐き、まるで世間をいかくするように生きている。しかし、そんな砂田にも気の置けない友がいる。底抜けに明るく、天真爛漫な清浦(シム・ウンギョン)だ。

清浦から「映画を撮りたいからビデオカメラを貸して」と頼まれた砂田。車に乗り込んだ2人は、ノリと勢いだけで砂田の実家がある茨城へと向かうことに。2人の無謀な旅がはじまる――。

新進気悦の若手映像作家を生み出すプロジェクト「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM」にて、2016年に審査員特別賞を受賞したことにより製作された本作は、CM界の第一線で活躍する、箱田優子による初監督作品。監督自身が砂田のベースとなっており、言わば箱田監督の心の叫びのようなものが面白いほどに炸裂しまくっている。

田舎へのコンプレックスがある砂田を演じた夏帆は、「今までで一番やりたい役に巡り合えた」と言い切るほど強い思いで役に挑んでおり、演技派として確固たる地位を築いた彼女にとって、新たな代表作となるだろう。また、常にテンションが高いが、時に刺さる言葉を投げかける清浦役には、日本での意欲的な活動が注目されているシム・ウンギョン。

寄り道しつつ、大雨に降られながら茨城に到着。実家にいる両親と兄はこれまた一癖も二癖もあるキャラクター揃いであり、砂田でさえも手をこまねく。ただ、入院中の祖母と心を通わせている瞬間だけ、鋼の砂田が素に戻っているように映り、胸がつまる。

慌ただしい日々をやり過ごすために、勢いだけでどうにかやってきた部分と、大人になるってこういうことだと言い聞かせて違和感をねじ伏せる。何か大事なものを忘れていることさえも忘れ、誰かの言葉で我に返る、虚しさ。どこか諦めに似た感情を背負いながら。

夏休みの終わりを惜しむような、なんとも愛おしい砂田と清浦の存在。清浦みたいな友が欲しいと願ったが、ごく身近にいたことを思い知る。そして、あなたの周りにもきっといるはずだ。目まぐるしく大人になった大人たちに贈る、ハートフルな92分。

文 南野こずえ

『ブルーアワーにぶっ飛ばす』
©2019「ブルーアワーにぶっ飛ばす」製作委員会
10月11日(金)よりテアトル新宿、ユーロスペースほか全国ロードショー!

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