福島で撮影された園子温監督最新作『ひそひそ星』×東京フィルメックス


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アジアを中心とした独創的な作品を世界から集め、未知なる作品や驚くべき才能との出会いをもたらす国際映画祭『東京フィルメックス』。オープニング作品として、先日『第40回トロント国際映画祭』でNETPAC賞を獲得したばかりの『ひそひそ星』が上映され、園子温監督、神楽坂恵が登場してトークショーが行われました。(2015年11月21日 第16回東京フィルメックス TOHOシネマズ日劇)

Q:本作は25年前の1990年に書いた脚本と絵コンテと伺っていますが、制作の経緯について教えてください。
園子温監督:その頃、自主映画のプロダクションを作りながら制作をしようと考えていたのですが、やはり当時の自分たちでは予算的な都合が付かなくて途中で断念したんです。その代わりに『部屋 THE ROOM (1993年)』っていう、ベルリン国際映画祭に出していただいた映画を作ることになったんですね。
-ベルリン国際映画祭・フォーラム部門の創設者ウルリッヒ・グレゴールさんが、園監督の『部屋 THE ROOM』『自転車吐息 (1990年)』を評価して世界に紹介してくださいました。

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Q:神楽坂さんは、今回プロデューサーとしての側面と、もちろん主演として現場でどんな感じだったか、みなさまにご紹介いただけますか??
神楽坂恵:ちょっとお金のこととかをやったりしましたけど、プロデューサーってほどそんなには…。アンドロイドの鈴木洋子(役)として監督とやっていく時は、プロデューサーやプロダクションのこととは関係なく、いつも通り厳しくあまり優しくなく、ちゃんと追い込みをしていただきました。
-いつも追い込んでいる状態ですが (笑)。25年前の企画を25年後に改めて作ろうと読み返された時に、園監督ご自身はどのように思われて、そしてプロデューサー・女優とどのようにお話になったのか教えてください。
園監督:奥さんであり、プロデューサーであり、僕の作品の常連女優でもあるので、そこからすると、僕の25年前の脚本を凄く尊重してくれました。ちょっと変な感じなんですが、今どういう風に違うことを考えているかというよりは、その20代の彼 (自分) に対して、「君はそう思っているんだ!なるほど。じゃ僕は、君が純粋に映画を作ろうとする本能的衝動に対してリスペクトするよ!」っていう立場で、忠実に映画を作るっていう思いでした。
神楽坂:だからこんなにも素敵な映画が出来て!私もずっと大切に、引っ越す度に持って行って、ずっとみていた脚本なので。
-何度くらい引越しをされているのですか??
神楽坂:結構するんですよ!
園監督:絵コンテが凄い量なんだよね。
神楽坂:それをいつもみていて、いつか撮りたいって思っていた作品が、このタイミングで撮れることになって、私が出させていただくっていうのは凄いなと、嬉しい気持ちで本当に幸せだなと思います。
園監督:毎回コンテ書きをしているので、こんな分厚いのが何冊もコピーしてあるんですよ。それをダンボールに詰めて、25年間引っ越す度に運んで来たので (笑)。
-25年前の絵コンテにほぼ忠実に撮られているのですか??福島の部分は??
園監督:確かにロケーションは変えざるえないのですが、宇宙船の中はセットなのでコンテ通りに建てました。外は地球に失敗・過ちを繰り返した人類のとある場所ということで、当時はゴミだけの「夢の島 (東京都江東区南東部、東京湾上の14号埋立て地の通称。都内のゴミ・残土を大量に埋立て造成したため、悪臭やハエ・ネズミの発生などで社会問題となったことがある)」をロケハンしたりして、風景を撮影できる場所を探していたんです。でも今回はやっぱり福島で。そこにマッチさせようという気は毛頭なかったんですけど、そうせざるえないし、何故こんなことになったんだろうと思いつつも福島を舞台にしました。そこで『希望の国 (2012年)』を撮った時に、取材でお会いした仮設住宅に住んでいる方や、原発や津波によって非常に被害を受けて人生が変わってしまった人たちに、あえてこの映画に出演してもらったんです。明らかに「あれ??」って思う方は、当時、僕が取材させてもらった方たちが出ているんです。

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Q:曜日が繰り返される様子が『桂子ですけど (1997年)』を思い出しました。そういった自主制作の時のものも、この作品に盛り込まれているのでしょうか??
園監督:『桂子ですけど』は『ひそひそ星』のリファレンスなんですね。当時、実現することが出来なかったのが悔しくて。でもどこか日常というものを捉えたかった。日常は宇宙的でもあり、永遠の繰り返しで、でもそれが気の遠くなるくらい永遠にあるというその状況を描きたかったんです。当時は本当にカツカツだったので、もしかしたら『ひそひそ星』を撮れないまま死ぬかもしれないと思ってたので (笑)。その時の自分が撮れる中で撮っておきたいなと思ったのが『桂子ですけど』です。高円寺でひとり暮らしをしている女性が今日も生きているのと、宇宙船の中で生きているのは、予算の問題でしかなくて、ほぼ変わらない同じことなんです。基本的には『ひそひそ星』です。

Q:福島のがらんとした場所で、足音だけが響き渡る音にこだわりを感じたのですが、その辺りを教えてください。
園監督:音に関しては、当時もっとも影響を受けた映画が幾つかあるんですけど。例えば僕、1990年のベルリン国際映画祭でロシアのアレクサンドル・ソクーロフと知り合って、その音使いを聞いてめっちゃショックを受けて「あ、やべぇ!」と思ったんです。でも日本人はまだ気付いていないなって思って、そこから音は映画の半分位、重要なんだと意識をするようになりました。今、音に対する敏感さって世界的にちょっと向きつつあるけれど、当時のソクーロフやデヴィッド・リンチの『イレイザーヘッド (1977年)』は、みんな音使いが繊細で、僕も音に対してもっと頑張った方がいいなって感じました。『ひそひそ星』はとても音に意味があって、まだやりたいと思っている、そんな感じです。

Q:今の音の話で、強調させるためにアフレコで撮っているんだなと感じました。
園監督:全部アフターレコーディングをしてます。同録でも撮っていますが、最初からアフレコ映画にしたかったんです。
-映像が一瞬だけカラーになるシーンがありましたが、その意図を教えてください。
園監督:最初は全部モノクロームでやるつもりだったのですが、今回福島で撮ったことがもの凄く重要で、カラーになった瞬間の場所は、かつて街があったところなんですよ。街だったところが年月を経て、草むらになっちゃったんですよね。そこに青空があって、海があって、緑がある。それを何かこう引き画の時に、白黒でやるんじゃなくてカラーにしたかったんです。感覚的なんですが、今瞬間的に、とにかくあの風景は一瞬カラーにすべきだったいうのがありましたね。

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Q:最後の「人間だけが住んでいる星」がとても素敵に描かれていたなと思いました。あえて、影絵だけで表現された意図を教えてください。
園監督:言葉にすると非常に陳腐になりますが、人生はもの凄い一瞬の走馬灯のようで、人それぞれの死が各々あって、そういったものを影絵で表現したかったんですね。日本の葬式って、仏壇の前でくるくる回る灯篭みたいなやつで影が出来るんですよ。小さい頃、人が死ぬと必ずあれがあって、日本家屋の障子に映るまるでその人の走馬灯というか、人生の折々をみせているように僕にはみえていました。影絵で表すことで、人間の儚さを描きたかったんです。また25年前はそこだけだったのが、今回福島をロケーションに持ってきたことで、そこを出なければならなかった人々、あるいはそこをみんな出た後に昼間ずっと立っていると、まるで商店街も全部人がいないのだけど、何か賑やかさを彷彿させるものがあるし、今撮ったことでその二重の意味が出来た気がしています。

Q:物語の途中で出てくるミドリガメは、『ラブ&ピース (2015年)』で出てきたミドリガメでしょうか??
園監督:そうです!よく分かりましたね。あれはラブピーで主役をやったカメさんです。もう園組なので。今も引き続きスタッフが飼っています。
-色々な惑星に行く中、大抵人間が出てきますが、あのシーンで人間以外の存在として、カメが出てきたのは何故でしょうか??
園監督:何でだっけ…??当たり前だけどラブピーの前だから…ちょっと待って!あれは…。最近僕は、感覚的な人間だから、理詰めであまり言わない方がいいんじゃないかなって思っています。なので今日はいいません (笑)。いつもだったら言うんだけど、それは大体間違っているので (笑)。そうじゃないような気がすることがよくあるので!ラブピーを撮った後だから、カメに対する愛着で登場させたんじゃないかな。ちょっと、思い出せないです。
-神楽坂さんから、経緯に関して何かありますか??
神楽坂:絵コンテに描いてなかったけど、カメが出てくることに、スタッフさんもみんな納得していたので、それくらい自然な形で、出るべくして出ていました。

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Q:最後の「人間だけが住んでいる星」を飛び立った後に、アンドロイドの鈴木洋子さんが涙ぐんでいるようにみえたんですが。
園監督:僕的には涙ぐんでいました。タバコを吸ったり、人間を知りたいって気持ちがあったと思います。ダンボールの中にある些細な記憶を、何故人間たちは大事にしているんだろうと。アンドロイドには理解出来なかったことが、最終的には自分も記憶を纏うことによって、実に重要な意味を持つことを彼女も知って、アンドロイドらしからぬ涙が、自然ではないけれど、スーパーナチュラル的には出たと。僕は解釈しています。
神楽坂:最後は、元々とはちょっと違って、現場で考えて作ったので。
園監督:ラストシーンは、福島というテーマに変えたので。彼女もトロント国際映画祭で、福島に対する質問を受けた時にステージでちょっと涙ぐんでいて。
神楽坂:みなさんがこうして (映像に) 残していくことを、ありがたいことだと言ってくださったので、それを思い起こしていました。
園監督:ロケハンをしていても、福島は刻一刻と変わるんですよ。昨日ここにしようと考えていたところが、ブルドーザーが入ってなくなっちゃって。今の福島を記録しておこうという意識があるんだけど、どんどん変わっていっちゃうので、凄くそういう意味では、まさにかげろうのような街を撮った去年の世界観は、今の福島には存在しないので、幻の街を撮ったという気がしていますね。

Q:今大分福島を忘れてしまっている方も多いのですが、今後福島をテーマに作品を撮るような構想はありますか??
園監督:もちろんあります!二ヶ月くらい前に『Don’t Follow the Wind』っていう福島第一原子力発電所付近の帰還困難区域を舞台とした国際展があったんですけど、それに対するインスタレーションをやったし、来年の『ひそひそ星』の公開に合わせて、福島をテーマにした何かをやろうと思っているのと同時に、来年も出来れば福島の映画を撮りたいと思っています。ドキュメンタリーではなくて、映画ドラマを。

取材:佐藤ありす

【ストーリー】
ss01main 類は数度にわたる大災害と失敗を繰り返して衰退の一途にあった。現在、宇宙は機械によって支配され、人工知能を持つロボットが8割を占めるのに対し、人間は2割にまで減少している。アンドロイドの鈴木洋子は、相棒のコンピューターきかい6・7・マーMと共に宇宙船に乗り込み、星々を巡って人間の荷物を届ける宇宙宅配便の仕事をしていた。ある日、洋子は大きな音をたてると人間が死ぬ可能性のある「ひそひそ星」に住む女性に荷物を届けに行くが…。

監督・脚本:園子温
出演:神楽坂恵
配給:日活
©SION PRODUCTION
2016年5月、新宿シネマカリテにて公開決定!

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