『ツバル』(1999年/92分)『ゲート・トゥ・ヘヴン』(2003年/90分)など佳作を撮り続ける鬼才ファイト・ヘルマー監督の最新作が、ドイツから届いた。幼稚園で問題ばかり起こしている“ギャング団”がキッズ・パワーで村を救う、サイコーにパワフルで底抜けにハッピーなスペクタクル・ミュージカルだ。
その名も『世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方』という。ちょっと長いタイトルなので、ここでは『世界イチ』と呼ばせてもらうことにする。

まずは、ギャング団の面々を紹介しよう。
リーケ(ノラ・ボーネル)は、クレーンが大好きな女の子。おばあちゃんは、片足ケンケンでエベレスト登頂に成功した世界でたった一人の登山家だ。
消防士になりたいベン(マティス・ミオ・ワオゼ)のおじいちゃんは、皆をアッと言わせる料理を考える天才。
発明家のおじいちゃんに似たアイデアマンのマックス(ジャスティン・ウィルケ)は、清掃車の専門家でもある。
レネ(シャーロット・ルービッヒ)は汽車が大好き。おばあちゃんはパイロットで、ピサの塔を斜塔にした張本人だ。
スーゼ(ヘンリエッテ・クラトチウィル)は自転車が大好き。いつか、何でも楽器にしてしまうおじいちゃんみたいな立派な音楽家になりたい。
パン屋の子ポール(ピーター・ディヤン・ブダク)は、世界で初めてUボートを造ったグスタフさんの影響で、船長になる日を夢見ている。
リーケたち仲良し6人組は“ハナグマ・ギャング”を結成。お遊戯をサボって幼稚園を抜け出し、ボラースドルフの村中でイタズラを繰り広げている。
ギャング団が住むボラースドルフは、ドイツのど真ん中に位置することもあってか、平凡を愛する気質の人々が暮らしている。そんな村の特性に目を付けたのが、マーケット・リサーチが専門の消費者調査会社【銀色団】。銀色団に「世界の中心だ」と言われ、ボラースドルフの大人たちは大喜び。だが、発売前の妙ちきりんなモニター品を食べさせられる子供たちは、我慢も限界、爆発寸前だ。
そんな折、大好きなおじいちゃん、おばあちゃんが老人ホームに入れられてしまう。とっても個性の強いおじいちゃん、おばあちゃん達が活動的だと、せっかく平均的な村の特性が乱れるらしい。大変、みんなを助けなきゃ!リーケは、ギャング団の中でもいちばん頭がよくて頼れるリーダーにお願いする。「助けて、クアッチ!」

ギャング団のクアッチ、実は、アカハナグマなのだ。だが、そんじょそこらのハナグマではリーダーは務まらない。クアッチは、人語を解し、文字を読み、機械操作もお手の物というスーパー・アニマル、“世界イチのハナグマ”なのだ。「困ったらクアッチに相談する」は、ハナグマ・ギャングでは合言葉のようなもの。
余談ではあるが、“クアッチ(Quatsch)”はドイツ語で、“ごみ”“できそこない”といった意味。つまり、子供たちの「クアッチ!」はハナグマ・ギャング団のリーダーを呼ぶ言葉だが、大人達が“Quatsch!”と言えば「ばかばかしい!」「ナンセンス!」的な感嘆詞になるのである。子どもと大人とで意味が全く異なる“クアッチ”という言葉は、『世界イチ』を象徴する単語と言える。ちなみに、『世界イチ』の原題は、『Quatsch und die Nasenbärbande(クアッチとハナグマ・ギャング団)』だ。

ヘルマー監督は『世界イチ』を撮るにあたり、チャールズ・チャップリン、ジャック・タチ、そして1920~30年代の『ちびっこギャング』シリーズ(製作:ハル・ローチ)へオマージュを捧げているそうだが、爆笑に次ぐ爆笑というスラップ・スティック的展開は『ザ・モンキーズ』シリーズ(1966~68年)を思い起こすファンも多いと思う。
そして、更に連想されるのは、『きっと、うまくいく』(監督:ラージクマール・ヒラニ/2009年/170分)『タイガー 伝説のスパイ』(監督:カビール・カーン/2012年/133分)『PK』(監督:ラージクマール・ヒラニ/2014年/153分)など近年のヒット作で日本にも根付いた感のあるインド映画だ。劇中にたびたび挿入され『世界イチ』を盛り上げるミュージック・シーンは、ミュージカルやオペレッタというよりも、ボリウッド映画の歌劇シーンに近い雰囲気を持つ。
また、BGMとしても頻繁に使用されるオープニング・テーマのメロディラインは、しばらく脳内再生を止めてくれなくなるので注意が必要だ。

とびきりハッピーな『世界イチ』を語る上で、子どもたちの存在を忘れる訳にはいかない。4歳児のギャング団は、全員オーディションで選ばれた映画初出演の子どもたち。しかも、子役俳優は一人もいないという。スクリーンを所狭しと駆け巡り、無邪気に笑い、元気に歌い、大暴れするギャングたちに、知らず知らず観客も笑顔にさせられてしまう。
ハリウッドでも日本でも、いつしか子役に“オトナ顔負け”を求めるようになった。ベテラン俳優に引けを取らない演技力、儚さの上に爪先立ちするような危ういまでの可憐さ、瞬時に視線を集めてしまう表現力……作り手は、血眼となって逸材を探し続けた。だが、受け手である観客までもが芸達者な少年少女たちに慣れてしまった時、“リアルな子ども”は銀幕から消えてしまった。
そんな今だからこそ、ハナグマ・ギャングたちの天真爛漫な演技(?)が響くのだ。“コドモらしい”子どもが映る銀幕を、意外なほど新鮮な目で観ている自分に気付くのだ。かつてスクリーンは、私たちの隣にいる子供たちと同じ表情の少年少女で溢れていたはずなのに。

そして、『帰ってきたヒトラー』(監督:デビッド・ベンド/2015年/116分)のファビアン・ブッシュが、『戦場のアリア』(監督:クリスチャン・カリオン/2005年/117分/)『アイガー北壁』(監督:フィリップ・シュテルツェル/2008年/127分)『ソハの地下水道』(監督:アニエスカ・ホランド/2011年/145分/R15+)のベンノ・フュルマンが、『サウルの息子』(監督:ネメシュ・ラースロー/2015年/107分)のクリスチャン・ハーディングが、『カルロス』(監督:オリビエ・アサイヤス/2010年/326分)のアレクサンダー・ジェーアが、『ヒトラー暗殺、13分の誤算』(監督:オリバー・ヒルシュビーゲル/2015年114分/)のウド・シェンクが、子ども達の脇を確りと固めている。

ハナグマ・ギャングの“活躍”により、掃除機は爆発し、車両は横転し、汽車は脱線し、蒸気船は沈没する。そして、ギャング団の“ひみつきち”(兼、クアッチの……もとい、お家)も損壊する。子どもたちの窮地を救うのは、大好きなおじいちゃん、おばあちゃん達だ。
そして、われらがリーダー・クアッチのアッと驚く作戦が、ギャング団だけでなくオトナ達にも最高のハッピーを届ける。『ピタゴラスイッチ』どころか『本陣殺人事件』(監督:高林陽一/1975年/106分)ばりの“仕掛け”を、どうぞお楽しみに!

さて、『世界イチ』を観終わった後……オトナのあなたは、どんな感想を持つのだろう。
「くだらなくて、面白かった」「ばかばかしくて、サイコー!」なんて感想では、“Quatsch!”と言われちゃいますぞ。
ファイト・ヘルマー監督が『世界イチ』に仕掛けた“世界でいちばんのハッピーのつくり方”に辿り着く自信がないのなら、子どもたちと一緒に観てみると良い。その後の食事は、サイコーのディナーになることをお約束する。

文:高橋アツシ

『世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方­』
2/11­(土 祝)より109シネマズ二子玉川、109シネマズ名古屋(日本語吹替版)­、名演小劇場(日本語字幕版)、ほか全国­順次­公開­
配給:エデン­+­ポニーキャニオン­
http://www.sekaideich­iban.com/
©­Veit Helmer Film-prod­uktion

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