英国喜劇の真骨頂! 『ミラクル・ニール!』レビュー


「ミラクル・ニール!」
「イギリスのコメディアンと言えば?」と問われたら、誰を挙げるだろうか。チャールズ・チャップリンは渡米してからの印象が強いので、三大喜劇王と称される他の2人バスター・キートン、ハロルド・ロイドと同じアメリカ人だと勘違いしている人も多いだろう。となると、大多数の人が挙げるのは、モンティ・パイソンの名ではなかろうか。
モンティ・パイソン――英国が誇る6人組コメディ・ユニット。同年代に活躍したビートルズと並び称され、“パイソンズ以前”“パイソンズ後”などと生けるターニング・ポイントとして表現される程の“文化の変革者”である。熱狂的なファンは『パイソン派(Pythonia)』と呼ばれるなど、その名声、影響力は計り知れない。
日本でも『巨泉×前武のゲバゲバ90分!』と言うテレビ番組があり、モンティ・パイソン同様『ラフ・イン』で有名なローワン&マーティンの影響を色濃く受けた笑いを提供していた。だが、ザ・ドリフターズに代表されるようなスラップスティックな笑いにシフトしていった為、日本で“パイソン派”は残念ながら少数派である。だが、その乾いた笑いをこよなく愛する“Pythonic”は確りと存在するのだ。
ノンセンス(英国に敬意を表して、敢えてこう表記する)な世界を表現していながら、風刺をピリリと効かせる――裏を返せば、エスプリを感じさせつつもやっていることはノンセンスに過ぎない、とも言える――そんな“Kinky”な笑いは、パイソンズの真骨頂である。

そんなモンティ・パイソンの血をダイレクトに受け継いだ作品が、間もなく公開される。4月2日より渋谷シネクイントにて先行上映が、4月9日より全国ロードショーが始まる、『ミラクル・ニール!』である。監督はテリー・ジョーンズ、言わずと知れたモンティ・パイソンのメンバーである。また、ジョン・クリーズ、テリー・ギリアム、エリック・アイドル、マイケル・ペイリンと、声の出演でパイソンズが揃い踏みしているのである。『ミラクル・ニール!』は、モンティ・パイソンの血を受け継ぐどころか、モンティ・パイソンの“新作”と言っていい作品なのだ。

『ミラクル・ニール!』Story:
宇宙探査機パイオニア10号には、まだ見ぬ地球外生命体へ友好を伝える金属板が積まれていた。だが、遥かなる旅の果てに探査機が遭遇したのは、とんでもない凶悪な生命体だった。
宇宙人たち(声:モンティ・パイソン)は、地球を滅ぼすべく行動を開始する前に、“神々の気まぐれ”よろしく一つのテストを課すことにする。ランダムで選ばれた人間に全知全能の力を与え、知性や行動を観察するのだ。
こうして、地球の未来は一人の男に委ねられた。愛犬デニス(声:ロビン・ウィリアムズ)と暮らす冴えない教師・ニール(サイモン・ペッグ)である。

大御所モンティ・パイソンとタッグを組むのは、『ショーン・オブ・ザ・デッド』(監督:エドガー・ライト/2004年)『宇宙人ポール』(監督:ニック・フロイト/2010年)で御馴染、新世代コメディの旗手サイモン・ペッグである。これは、面白くない訳がない。
そして……なんとなんと、2014年の死去で世界中を絶望のどん底に突き落としてくれた“アメリカ・コメディ界の太陽”ロビン・ウィリアムズが、ニールの愛犬・デニスの吹替を担当しているのだ。スクリーンの第一線で笑いを支え続ける新旧コメディアンの“魂の交歓”を、心に刻みたい。

所謂“スケッチ”(フランス語で“コント”)を得意とするパイソンズであるが、『ミラクル・ニール!』は劇映画として持ち前のノンセンスさは影を潜める。ただし、散りばめられた社会風刺や反権力、エスニック・ジョークはモンティ・パイソンそのもので、85分間観客は決して飽きることはない。
サイモン・ペッグが演じる冴えない男・ニールは文句なしのダメっぷりで、ロビン・ウィリアムズが声を当てるデニスとの掛け合いにより、画面にはアイロニー、ペーソス、そして小気味好いテンポが溢れる。これぞ“英国喜劇”の王道だ。そして、物語を彩る社会批判、宗教ネタ、アナーキーな笑い……そこに、テリー・ジョーンズ、ジョン・クリーズ、テリー・ギリアム、エリック・アイドル、マイケル・ペイリンの声が、過剰なほどのスパイスを利かせる――これはもう、純度100%の“モンティ・パイソン作品”である。

パイソンズをこよなく愛する“Pythonia”にとっては堪らない傑作『ミラクル・ニール!』だが、モンティ・パイソン作品への“入門編”としても相応しい。新たな“Pythonia”は、『ミラクル・ニール!』を入口にモンティ・パイソン作品の扉を潜ると良い。

誰もが知る喜劇の金字塔映画のパロディで、映画の幕は下りる。思わず「おおっ!」と唸ってしまうが……考えてみれば、意味ありげに見えて“ノンセンス”この上ないラストシーンだ。これぞ正しく、“モンティ・パイソンの真骨頂”である。

文 高橋アツシ

『ミラクル・ニール!』
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4.2(sat)渋谷シネクイントにて先行公開!4.9(sat)全国ミラクルロードショー!

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