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夢の蓮華は、難解な花弁を解く --『彌勒 MIROKU』鑑賞記--

『彌勒 MIROKU』を観た。
監督の林海象が少年期より愛読していた稲垣足穂の原作『弥勒』を映像化したいと言う情熱が結実し、京都造形芸術大学・映画学科の学生達の手によって創られたと言う経緯を持つ異色作である。
公式HPのイントロダクションで“謎の映画”と称されるこの作品は、大きく2部構成に分かれる。「第一部 真鍮の砲弾」では映画学科の女優たちが夢みる少年役を演じ、「第二部 墓畔の館」では永瀬正敏が主人公・江美留(えみる)の青年期を演じ、井浦新、佐野史郎などが脇を固める。

2014年3月8日、名古屋のミニシアター・シネマスコーレは早朝より行列が出来た。列の一番先頭は6時から並んだと言うが、それもそのはず。この日は『彌勒 MIROKU』舞台挨拶に林海象監督・永瀬正敏さん・水本佳奈子さん・片岡大樹さん(配給担当:ミロク革命軍)と座席数に似つかわしくないほどのビッグネームが登壇したのだから、早々に立ち見となったのも頷ける話である。

--この映画を創るきっかけを教えてください。miroku3

上映後の壇上、司会の大浦奈都子さん(シネマスコーレ・スタッフ)が質問すると、林海象監督はゆっくりとマイクを構えた。

林「『弥勒』って言うのは稲垣足穂が書きました1946年の作品です…戦争が終わった直後に出版されたもので、書いてるのはもっと前だったと思います。僕はまず十代の時に稲垣足穂が好きで読みまして、また二十代の時に読みました。僕は十六歳で映画をやろうと思って十九の時に東京に行きまして、御飯も食べられないと…そう言った状態でまたこの『弥勒』を読んだ時に、非常に希望を感じたんですね。いつか自分が映画監督になった時には映画化したいなと思ってまして。十三年くらい前に原作権を娘さん…都さんと言う方から頂きまして、それから脚本にしたんですけど中々映画化できませんでした。で、水本(佳奈子さん)も在籍してます京都造形芸術大学映画学科と言うのを2007年に立ち上げまして、そこで“北白川派”と言う学生と一緒に劇場公開するというプロジェクトがありまして…その中のこれが第4弾になります。一緒に学生が居る今なら『弥勒』が創れるかもしれないと思いまして、2年前に映画化いたしました」

--この作品は、非常に哲学的と言いますか…解りやすい物語ではないこの作品を学生の方達と創って、どうでしたか?

林「僕自身は凄く解りやすい物語だと思ってるんですね。少年が夢を見て、結果こうなったと言う話だと思ってるので。まあ細部に関しては色々書かれていましたので、学生達も非常に調べました。書かれてる部分だけは解読しようと言う事で、全部のパーツに関してはキーワードは学生達が調べ、辞書を作りましたね。難しいことは書かれていても全体を通して見れば全く難しくないと思ってるんですが、書かれていることについては僕も含め学生も非常に勉強になりました」miroku2

--永瀬さんは、この原作を読まれてどう思われましたか?

永瀬「僕は最初…10年くらい前ですか、海象さんから脚本を読ませていただいて…今回またもう一回読んだんですけど…さっぱり解りませんでした(笑)それで「全然わかんねえな…」と思って、原作を買って読んで…また、全然解らなくなって。初めて海象さんに「助けてください!ヒント下さい!」って…その時に、今仰ったようなことを言われたんですよね。演者の癖で深く読もう読もうとしちゃうんで、文語体を使ってるのでそこばっかりに捉われちゃうと難しい話になってっちゃう、と。でも、真ん中のストーリーラインを聞いたらそこはとってもシンプルだったんで、僕は「それで演らせていただきます」ってことで。最初は全くわかんなかったです(笑)」

林「洗濯機の渦を見ているようなものなんですね。ある一点の“洗濯物”を見ちゃうと、渦に取り込まれるんですよ…“言葉”に。いつもずっと洗濯機の渦を客観的に見ていないと…一つに捉われると、必ず渦の中に取り込まれるので。そんな感じがしましたね、脚本書いてる時も。難しいと言うことに捉われてはいけない…そう思って書いたシナリオです」

--監督と永瀬さんは理解されていると言うことですが、水本さんは如何でしたか?

水本「正直に言うと…理解したのは、この映画を2回か3回観たくらいの時で…。撮ってる時は本当に芝居したての時期で出た映画なので、芝居することだけに集中してたと言うか…凄く必死だったので…自分なりに解る段階で言葉を噛み砕いて喋るように心掛けてましたね」

永瀬「あの時、まだ1回生だったもんね」

水本「はい、1回生です。で、出来たものを観て、『彌勒』ってこう言うことだったんだなって言うのを…3回目くらいに理解しました、はい(笑)」

永瀬「あんまり最初(撮影に)入ってる時は、「理解するな」って言う感じで、逆に…」

林「少年たちが喋ってますから、現在でもそうですけど、ませて喋る子って居ますよね?解ってなくて喋ってる子って。言葉だけは正確に喋ってくれと、そこだけは言いましたけど、意味は解んなくていいと。“大体こんな感じで”くらいで、意味に捉われないように、と。文語体の文章が、彼女たちの肉体を通して口語体に変わったんですよね。実は色々テストしたんです。無声映画も試してみたんですよ。でも、文語体の文章は全く読めないんです。で、水本たち…女性ですよね…そこに置き換えた時、非常に…言葉として、台詞になったんですよ。水本たちの…学生達の持っている無垢なところが、この難解さを解かしたと思ってます」

永瀬「無垢でしたねぇ…。僕らは第二部だったので、第一部は先に撮られてて…一部で出てた女優さんたちが賄い料理を作っていたりとか、色んな部所に散らばって手伝ってるんですよ。佐野(史郎)さんとか(井浦)新くんとかと一緒に見てて、「ヤバいな…ちょっとちゃんとやらないと駄目だな」と思いましたね(笑)」

--今回この映画は、“新世紀映画”と言われていますが。

林「映画って120年前に発明されて、一挙にある完成形を迎えたと、1世紀目が。今映画が2世紀目に向かうので、新しい映画の形って言うのを探ろうとしている状態だと思うんですよ。映画学科で古い方程式を今から来る子に教えても、もう使えないものもあるんですよね。だから、新しいものを編み出そうと足掻いてるような状態だって言うことで、“新世紀映画”です。色んなことをやってみようと…で、5年10年経てば、何かが見えてくるかも知れないですよね」

--監督と永瀬さんのコンビは『濱マイク』から約20年ですが、この“新世紀映画”を一緒にやって、何か新しいものを感じましたか?

永瀬「これは監督ご自身もよく仰ってるから言ってもいいと思うんですけど…まあ、新しい所だらけですね…ビックリしましたね。こんなに現場でニコニコしてる人だったかな、と…“ポジティブ・オーラ”と言いますか…。20年前に僕らは若いチームだっこともあったんですが…こう…手が出たり、とか、足が出たり、とか…僕、目の前で助監督さんが殴られてるのを見てますからね(笑)全く、それがなくて…怒鳴り声が一切聞かれないと言う。カメラの長田(勇市)さんとかも、全て皆さんがニコニコしてて…ポジティブ・オーラが凄かったですね(笑)」

--林監督、それは一体どういう変化だったんでしょうか?

林「まあ、反省したんですよね(会場笑)プロが入って学生が手伝うと、何か助手みたいになっちゃうんですよね…「コード巻くばっかりが映画じゃないだろ」って思ったんです。いつも新しい人が下に入るのが映画じゃないだろ…映画って、そんなに偉いのかと、学生の姿を見てて思ったんですよね。で、学生達がメインの映画を創ってみようと…プロは、サポートで。怒鳴ってたのは緊張感を持たせるためにやってたんですけど、そうじゃなくて何か失敗してもいいと…(片岡)大樹とか、学生達ばっかりですからね。反省したのと、「これでいいのか、日本映画界?」と本当に思いまして…“プロ”って言う人たちの、古さ…。みんなでポジティブでいることの方が鍛錬が要ることで…それを一回やってみようかなと思いまして。よかったですよ、自分にとっても。そんな訳で、前みたいには今後やりたくないですね…またなるかも知れないですけれど」

永瀬「いやいやいや!お願いしますよ(笑)」

--こんな20年間の歴史があるお二人と仕事をされて、水本さんは如何でしたか?miroku5

永瀬「多分、何も感じてないと思います(笑)」

水本「そんなことないですよ!(笑)海象さんは、“先生”と言う認識から入ったので…『彌勒』(の公開)が始まってから、皆さんが海象さんの映画をたくさん観に来てるって言うのを見て、「ああ、凄い人なんだ」って改めて自覚しまして…。先生なので親しみは変わらないですけど、そう言う方が近くにいらっしゃって私は本当に幸せだなと思います。永瀬さんは、少しだけ一緒に競演する機会があって、その時に役者としての(キャリア)30年間、でしたっけ?」

永瀬「…生まれてねえだろ(笑)」

水本「(笑)その厚みをドンと直にビリビリ受けて、本当に“鳥肌が立つ”って言うのはこう言うことなんだなと肌に染みて感じて…。私もこう言う風に役者人生を積み重ねていけたらな、と最初に感じさせていただきました」

--片岡さんも水本さんと同じく学生と言う立場だった訳ですが、スタッフとして如何でしたか?miroku4

片岡「ちょうど去年の今頃、就職しようかどうしようか迷ってる時、音楽の入ってないバージョンの『彌勒』を観て、「あ!」と思いまして。「自分はこのままじゃ駄目だ…『彌勒』やろう!」と…映画が導いてくれたんですよね。その後、『濱マイク大回顧展』に行って『濱マイク』三部作を横浜でフィルムで観まして。映画の学校に入ったんですけど、僕の映画人生はちょうど去年の今頃始まった感じでした。そんなきっかけが、『彌勒』であったり『濱マイク』であったりで、とても幸せです」

林「映画創りは、共に同じ思い出を創る作業だと思うんですよね。興行も同じように…辛い時も良い時も、共に一人だけでなくお客さんも含め何かを創ってる作業だと思うんですよ。今ちょうどそれが一年経ちまして…一番辛い時期に来てるってことですね(笑)…まあ、5年くらいこれは興行をやろうと思っていますから(笑)…永瀬さんなんかは他の映画に出られるでしょうが、ジワジワと…最後は片岡が頑張ってやりますので(笑)」

4人の同級生(水本佳奈子、中里宏美、土居志央梨、大西礼芳)から影響を受け自分の道を見付けた少年・江美留(土村芳)の夢の行く末は、如何な軌跡を辿るのか?
釈迦牟尼仏入滅より五十六億七千万年後に衆生を救済すると言う“彌勒”とは、如何なる存在なのか?

『彌勒』は難解な映画ではない。むしろ、哲学的な解答の一つがここまで明確に劇中で示されている作品は、珍しい。 林監督が言うように、言葉の渦に溺れることなく映画の新世紀を俯瞰する一発の“Brass Bullet”と成ろう。きっとそれが、『彌勒』への近道となろう。

取材:高橋アツシ

『彌勒 MIROKU』公式HP:http://0369.jp/

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