愛がなにか、は私が決める『愛がなんだ』レビュー



片想いなんて、全然楽しくない。
好きな人がいるだけ良いとか、失恋は糧になるとか言うけれど、片想いより両想いの方がいいに決まってる。自分を好きになってくれない相手を愛し続けるなんて、拷問のようだ。それでも、どうしても忘れられないとしたらどうするだろう?

テルコ(岸井ゆきの)の世界の中心は、マモちゃん(成田凌)だ。彼から着信があるとソッコー電話を取り、ご飯に誘われたら、食後でも空腹のふりをして駆け付ける。平日デートに誘われれば会社はぶっちぎっていそいそと出掛け、もうクビ寸前だ。24時間いつでも、テルコの時間はマモちゃんのためのもの。けれど、テルコは、マモちゃんの彼女じゃない。

突然帰れと言われたり、急に不機嫌になったり、連絡が何ヵ月も取れなくなったり…しまいにはマモちゃんが惚れた年上の女性、すみれさん(江口のりこ)を紹介されてしまう。
親友の葉子(深川麻衣)には、マモちゃんとの関係を絶つよう何度も忠告されるが、テルコは聞く耳をもたない。それどころか、すみれさんに夢中なマモちゃんのために協力しようとするのだ…。

心身を捧げてマモちゃんをひたすら愛しまくるテルコに苛立ちが募る。バカだなあ、好かれてないのに。バカだなあ、尽くしてもマモちゃんはあなたのことなんて、どうでもいいのに。バカだなあ、そこまでする価値のある男じゃないのに。バカだなあ…でも、ああそうだ、これはいつかの自分じゃないか。

誰もが覚えのある苦くて、痛くて、少しも甘くない片想いの記憶が疼く。ーーダメなところも全部好きなのに、何故うまくいかないの?ーーあの人がダメなら、私にすればいいじゃないーーいつでも電話してーー。
運命の出会いも、幸せな偶然の一致も、共に過ごすかけがえのない時間も「相手が同じように感じなければ」それはただの一方通行でしかないという、残酷な事実。何度、その現実にハッとして夢から醒めただろう。テルコはとっくに夢から醒めているけれど、それでもマモちゃんの側にいたい彼女が選んだ道とはーー。

マモちゃんに無私の片想いをするテルコ。すみれさんに素っ気なく扱われるマモちゃん。親友を利用するマモちゃんに怒り心頭の葉子は一方、自分を愛する青年、中原(若葉竜也)の心を傷つけている。そんな葉子の全てに従う中原…。好きではない誰かを無意識に期待させ、傷つけることも、そんな相手に従いすべて赦すこともどちらも誰も、責められない。愛し続けるか、気持ちに蓋をして他の誰かを愛するか、どちらが正しいかも、誰にも決められない。ただ、ラストシーンのテルコの表情は、彼女が下した決断が彼女にとって一番なのだと、そんな気がした。

片想いにすべてをかける真っ直ぐなテルコを演じたのは注目の若手女優、岸井ゆきの。ドラマ、映画、舞台と様々なジャンルで活躍し2018年の連続テレビ小説「まんぷく」(NHK)では、主人公の姪を演じて話題になった。テルコが恋するマモちゃんには俳優の成田凌。『ビブリア古書堂の事件手帖』『スマホを落としただけなのに』(ともに2018)など話題作に出演する若手俳優の筆頭株だ。2019年も『さよならくちびる』が待機している。

テルコの親友、葉子には乃木坂46出身の深川麻衣。美しく友達思いだが、どこか影のある葉子を魅力的に演じきった。葉子をひたむきに愛する写真家の青年、中原を『南瓜とマヨネーズ』(2017)『素敵なダイナマイトスキャンダル』、『曇天に笑う』、『パンク侍、斬られて候』(すべて2018)など多数の作品で活躍する実力派俳優、若葉竜也が演じる。マモちゃんが恋するすみれ役の江口のりこはさすが貫禄の演技だ。ガサツで男っぽいが憎めない、いい奴。こんな女がライバルだったら完敗だ。人気小説家角田光代の同名小説を『退屈な日々にさようならを』(2017)、『パンとバスと2度目のハツコイ』(2018)の今泉力哉監督が映像化した本作は、正解のない愛の形を描いた美しく切ない恋愛映画である。
ぜひ劇場で、あなたなりの愛の形を見つけてほしい。

文 小林サク

『愛がなんだ』
製作:映画「愛がなんだ」製作委員会  配給:エレファントハウス
(c)2019映画「愛がなんだ」製作委員会
2019年4月19日テアトル新宿ほか全国ロードショー

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