婚活・婚カツ・コンカツ…∞『美人が婚活してみたら』レビュー



随分前に初めて「婚活」という言葉を聞いた時「なんだそりゃ!」と思った。「~活って付くのは就活だけだぞ!」と。時が経ち、いまや「婚活」は市民権を得てすっかり社会に定着した。「婚活しちゃおっかな~」、「もう婚活しないとやばい」などとライトな文脈で語られることもあり、婚活関連の華やかなイベントは多種開催されまくる。その実、婚活のうまくいかなさでメンタルをやられる人も大勢いると聞く。なにしろ「婚活」=「結婚活動」なんだもの、一生のパートナーをみんな必死で探してるんだもの。楽しいわけがない。

そんな婚活に乗り出すことを決めたのは本作のヒロイン、タカコ(黒川芽以)だ。Webデザイナーとして活躍するタカコは、誰もが認める美人だが男運がなく、なんと三人連続で交際後に既婚者であることが発覚し破局するパターンが続いている。最後の彼と別れてから一年以上、32歳になったタカコは、早朝の公園で思わず呟く。「ああ…死にたい」

親友ケイコ(臼田あさ美)に励まされ、婚活を決意したタカコは、早速婚活サイトに登録する。美人のタカコにはあっという間に大量のメールが届き、小躍りするタカコ。しかし中身を見ると、メールしてきたのはおじさんばかり…。気を取り直して何人かの個性的な(!)おじさんとデートをしてみてもしっくりいかず、うんざりしてきたタカコに、ある日「園木さんとマッチングしました!」というメールが届く。

園木(中村倫也)と待ち合わせの日、目の前に現れたのは私服がとんでもなく…ダサい青年だった。ひるんだタカコだが、園木の人柄の良さに好印象を抱き、楽しい時間を過ごす。
婚活に前向きな気持ちを取り戻したタカコは、ケイコから勧められた「シングルズバー」にもトライしてみる。その日は男性・医師限定の会で、しかも男性に呼ばれる方式に居心地の悪さを感じていたタカコに、歯科医の矢田部(田中圭)が声をかける。
女性の扱いに慣れ、余裕を感じさせる矢田部にタカコは、園木には感じなかったときめきを抱くのだが…。

優しくていい夫になりそうだが刺激のない男(園木)VSときめきはあるけど、結婚願望のない男(矢田部)の、だからといって二者択一じゃないのが、この映画のすごいところだ。どちらを選んでも正解だし、どちらを選んでも後悔はあるだろう。婚活的には明らかに園木だし、だからこそタカコは大いに迷うのだが。

タカコが言い放つ「美人だからって幸せになれるとは限らないじゃん!」という叫びも、そう。美人は男性を惹き付け、モテるけれど、必ずみんなが幸せになれるわけじゃない。三人連続で不倫相手としか見られていなかったタカコはそれを痛感していた。美人=幸せとは限らない。一方、タカコの親友ケイコは結婚しているけれど、彼女の信条は「忍耐」。実は夫とは口論が絶えず、同居する義母との関係も、うまくいっていない。深い考えなしに結婚だけを目標にするタカコに、ケイコのイライラは溜まっていく。結婚=幸せ、お気楽じゃない。

結局何を選んだって正解であり、不正解なのだ。「結婚」のための「結婚」をしたっていい。条件で相手を選んでもいい、結婚してくれない男に恋をし続けてもいい、結婚して夫と喧嘩しながら暮らしたっていい。ーーただ、その婚活は誰のためのもの?大事なのは、それ。それに気づいたタカコは、きっとたぶん、少し変わる。

かっこわるく、ひたむきに婚活に奮闘するヒロイン、タカコを演じるのは、数多くの映画や舞台で活躍する女優、黒川芽以。美しい彼女が着こなすファッションの数々も必見だ。親友のケイコを演じるのは、女優の臼田あさ美。彼女なしには作品が成立しないぐらい、女友達の優しさ、厳しさ、意地悪さを見事に体現している。タカコを惑わす二人の男性、優しくて高スペックだがオクテな園木に今をときめくカメレオン俳優、中村倫也。結婚願望ゼロのイケメン歯科医に田中圭。(現実にこんな二人と出会えるなら、みんないくらだって婚活するだろう)

原作は、とあるアラ子が友人タカコの婚活を描いた無料マンガアプリVコミで連載中の人気コミックで、お笑いコンビ「シソンヌ」のじろうが脚本を担当した。監督は、松岡茉優主演の『勝手にふるえてろ』で、恋愛ベタ人間の心を撃ち抜いた大九明子が本作では婚活に迷う人々の心を撃ち抜く。

色々考えちゃうけれど、自分の幸せは、自分でしか決められないのだ。タカコが歩き出す未来に幸あらんことを願いながら、自らの幸せにも想いを馳せずにいられない。

文 小林サク

『美人が婚活してみたら』
©2018吉本興業
3月23日(土)全国公開 新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか

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