ハートに愛を、心にスタンガンを!『愛∞コンタクト』鑑賞記


早川ナオミという名前を聞いてピンと来る人は、相当な映画ファン、一廉の日本映画通であろう。
『旧支配者のキャロル』(監督:高橋洋/2011年/47分)という短編映画があった。【コラボ・モンスターズ!!】で作られた3本の中では最も長い尺の作品で、映画学校に通う生徒たち(松本若菜、津田寛治ら)が卒業制作にフィルム撮影で映画を撮影するという物語である。タイトルの意味について本編での言及はなかったものの、フィルム、現像所、撮影スタジオ、年功序列や師弟制度などの人間関係……その他諸々の、永きに亘って映画界を覆う、旧くからの事物、因習、人々などのことを総じて“旧支配者”と呼称すべきと感じられた。若き生徒役の出演者たちは、旧くから映画界に蔓延り業界を支えてきた怨念めいた狂信的価値観に当てられ、次第に正気から逸脱していく。青春映画のように思われた設定は、人間がエゴを剥き出しにして屠り合う、“深淵ホラー”の様相を呈する。
そんな闇が厚く立ち込める劇中、ベテラン女優であり映画学校講師として、早川ナオミは登場する。そう、彼女もまた“旧支配者”の一柱なのだ。そして、渾身の演技で“映画狂(教?)・ナオミ”先生に命を吹き込んだのは、“地獄のしょこたん”こと御存じ中原翔子であった。

ある日、シネマスコーレ(名古屋市 中村区)の公開リストに“企画・プロデュース:早川ナオミ”の語句を見付け、面食らった。調べてみたところ、やはり早川ナオミとは、中原翔子その人であった。
早川ナオミが企画・プロデュースした映画は、『愛∞コンタクト』といった。
作品について調べてみると、原作に惚れ込んだ女優・中原翔子が自ら初となるプロデュース業を買って出たのだという。この時点で彼女の並々ならぬ思い入れを感じずにはいられない。しかも、わざわざ過去作の印象的な役を名義にする辺り、只ならぬ力の入れっぷりが否応なく伝わってくる。
それもこれも、映画の原作を知って合点が行った。5,000人もの女性と向き合い続けてきた“ヨヨチュウ”こと代々木忠監督が著した『つながる セックスが愛に変わるために』が原作なのだ。
代々木監督のエッセイは、ナオミ先生のプロデュースにより、二人の新進女性監督たち(渡辺あい:84年生まれ、深井朝子:88年生まれ)のメガホンで、異色のオムニバス・ムービーに仕上がった。

『愛∞コンタクト』ストーリー:
【感電】
20歳を過ぎても過保護な母・聖子(中原翔子)の言うがままの女子大生・泉(長谷川るみ)は、電気と感情との関係性を研究する森本(ジェントル)が出演するラジオを聴き、心惹かれる。泉が研究所を訪ねたところ、森本は彼女の身体から強い電流が出ていることに気付くのだが――。(原作『つながる』【門限九時半のお嬢様】より)
【おはよう、マコちゃん】
執着心が強すぎる29歳のOL・マコ(広澤草)は、夜な夜な挑戦していた年下の彼氏・ユウタ(真山明大)のスマホのロック解除に成功する。ユウタの風俗通いを知ってしまい打ちひしがれるマコだったが、そんなに良いものなのかと、風俗嬢・アヤ(亜紗美)の手ほどきを受けるのだが――。(原作『つながる』【愛は“今”という瞬間に宿る】より)
【LOVE REVOLUTIONS】
世間体やプライドの高さからチェロ奏者との破局を隠し続ける女優・愛子(加藤夏希)は、熱愛報道で彼女の写真を目にした映画監督・喜多見(浜田学)から主演映画のオファーを受ける。マネージャー・八幡宮(諏訪太朗)の説得で、しぶしぶ出演を承諾した愛子だったが――。(原作『つながる』【すべては自分の影との戦い】より)

2017年2月12日(日)レイトショーで上映される『愛∞コンタクト』を観に、大勢の映画ファンがシネマスコーレへ足を運んだ。
舞台挨拶に登壇したのは、今作品に関しては配給・宣伝をも務める中原翔子こと早川ナオミプロデューサーと、地元・名古屋市出身の広澤草(【おはよう、マコちゃん】主演)という“愛の伝道師たち”である。

MC. 作品誕生の切っ掛けを教えていただけますか?
早川ナオミプロデューサー(中原翔子) 私は元々、代々木忠監督の著作物のファンだったんです。そもそもは、出資者の方から「プロデュースをしてみないか?」というお話をいただいたんですね。一介の女優に何を言ってるんだろうと訳を聞いてみると、「あなたは正直な人だから、あなたがプロデュースをした物が観てみたい。その代わり、好きなものを撮って良いから」と言われたんです。私が好きなものって何だろうと高橋洋監督に相談してみたら、「いつも代々木忠って言ってるんだから、やってみたら?」って言われました。悩んだんですが、代々木さんを知らない方に届けるなら、頑張り続けられるんじゃないかと思ったんです。若い女の子の監督で3本オムニバスをやってみたい……そこだけは、何故かピンと来たんですよ。深井朝子監督は、書く台詞が私はとても胸を打たれたんです。【桃まつり なみだ】の『MAGMA』(2013年/31分)で一緒だった渡辺あい監督は、一見凄く大人しいんですが、突然エネルギーが爆発するような表現をするんです。この子たちが代々木忠を撮ったらどうなるんだろう?と思ったんです。深井朝子は台詞の人、渡辺あいはどちらかというと画の人なので、この二人がタッグを組むのも面白いんじゃないかと、【LOVE REVOLUTIONS】では監督・脚本と分担してもらいました。
MC. 順序はどのように決めたんですか?
中原翔子 『つながる』という原作で一番軸の強い物を真ん中に持ってくるのが、良いと思ったんです。【おはよう、マコちゃん】が一番分かりやすくストレートに出てると思ったので、真ん中にしました。後の2本は、どっちかなんですけど……インパクトの強い【感電】を最初にカウンターとして当てて(笑)、3本目は二人の女性監督が“つながる”1本である【LOVE REVOLUTIONS】と、そういう観せ方にしました。そもそも、この順番が撮った順なんですよね。

MC. 広澤さん、【おはよう、マコちゃん】は出てみて如何でしたか?
広澤草 “マコ”には、モデルがいたんですよね(笑)。
中原 実はそのモデルになった人、幕間の【interlude ~つながる~】に出てるんです(笑)。
広澤 短い尺の中で一つのキャラクターの中に色々なバリエーションがある役が出来て、何てありがたい作品が財産として残ったんだろうと凄く感じました。
中原 深井朝子監督の狙いとしては、前半は“新喜劇”だったそうです(笑)。
広澤 新喜劇と言われて思い出したんですが……“彼(真山明大)の匂いを嗅ぐ”シーンがあるんですけど、あんな嗅ぎ方ってありますか(笑)?
中原 とげぬき地蔵みたいなポーズですもんね(笑)。あれ、モデルになった子が実際にやってたそうです(笑)。
MC. 亜紗美(アヤ役)さんとの競演は如何でした?
広澤 私の一方的にかも知れないんですが、凄く相性が良かったです。初共演なんですけど、何も言わなくても芝居の中で自然にコンタクトが取れて、安心して身を預けられました。ブランコのシーンは、本番だけ本気で来て……腹筋で必死に堪えました(笑)。
中原 しかも、中々OKも掛からずで(笑)。

MC. キャスティングについて教えてください
中原 1本目と3本目に関しては、渡辺あい監督のイメージする女優さんにオファーをしました。【おはよう、マコちゃん】はストレートな分、キャスティングが非常に難しくて、オーディションさせていただきました。広澤さんはお芝居が非常にお上手なので、お上手すぎて悩んだんです。上手いと役に馴染みすぎてしまうんですけど、ちょっと浮かないと憶えてもらえなかったりするじゃないですか。広澤さんの上手さを活かしつつ、どう主役として成立させるかは、演出にも係わる部分なので。
広澤 オーディションの時から凄く演りたいと思う役だったので、決まった時は嬉しかったです。私よりも若い監督さんでしたけど、丸投げみたいな感じで凄く操ってもらいました。
MC. 先程の話じゃないですが、3作品の真ん中は重要ですもんね
広澤 いやぁ……私、流れとか、そういう素敵な目線は意外と全く分かってないので(笑)。「1番、2番、3番、どれが良いですか?」って言われた時、ただただ単純に安全牌を狙うタイプなんで、2番はホッと出来ます(笑)。

MC. 初プロデュースが、オムニバス映画……大変だったんじゃないですか?
中原 なんて大変なことをしてしまったんだ……って、やりながら気付きました。私は女優が本業ですが現場が大好きなので、若い女性が頑張ってる現場を1本でも多く見たいって欲望があったんです。でも、結局これって3本作ったことと変わらないんですよね(苦笑)。
MC. 撮影期間は、どれくらいだったんですか?
中原 1本3日で、幕間映像が1日……全部で10日間です。
MC. でも、構想から考えたら、完成までかなり掛かっているのでは?
中原 (笑)……企画の立ち上げは、2013年の春です。春に代々木忠監督がやっている面接軍団のチャリティイベントに私は毎年行ってるんですが、そこで『つながる』映画化のお願いをしたら、「やってください!」って二つ返事を頂いたんですよね。やり方が分からないので色んな人に聞きながら1ヶ月で企画書を書いたのが、2013年4月。監督探し、プロット作りで半年掛かり、そこから1本目のホン(脚本)を詰めるのに3ヶ月……2013年の暮れに、【感電】を撮り終えました。広澤さんの【マコちゃん】が、2014年3月。加藤夏希さんに出てもらった【LOVE REVOLUTIONS】が、2014年7月。幕間の【interlude ~つながる~】は勢いも重視したかったので、同じ7月の中で……そこはノリとしては自主映画で、「車2台だけしか出せません……乗れる人だけ行きます」「どこに行こう……海に行こう!」みたいな(笑)。幕間映像も合わせて監督は3人ですのでスケジュール合わせや、一本化の間合いを探るのにポストプロダクションにも時間が掛かり……企画立ち上げから東京のファーストラン(封切)までだと、4年弱ですか。

MC. 次回作の展望は如何ですか?
中原 色んな方に、「中原、プロデュースを1本やったら、またやりたくなるよ」って言われたんです。でも、『愛∞コンタクト』に精一杯すぎて、次なんて考えが及ばないですね。今はまだ『愛∞コンタクト』を届け始めたばかりですし。私のやり方は本当に、身を滅ぼすというか……3年間で5kgくらい痩せまくりました。上映が始まって、お客様から直接元気を頂いて、やっと私3kg戻ったんです。
広澤 ただでさえ細いのに、そこから5kg痩せているのって、かなりの細さだったんですよ!「嘘でしょ!?」って思うほど痩せちゃったのを私は見ているので、次とか言いづらいんですが、本当に生命を掛けて作品を愛するプロデューサーという一面を知ってしまったので……もしもとなれば、私は亜紗美ちゃんとタッグを組んで、アシスタントプロデューサーとして支えていこうかと……
中原 え、そっち(笑)?「大殺戮映画を作る!」とか言われちゃうかと思ったんですが(場内笑)。
広澤 誘い文句も考えましたよ。「次は1本にしたら、楽勝なんじゃないですか?」って(笑)!

“早川ナオミ”プロデューサーの熱の注ぎ様、“マコちゃん”の力の入れ様から、『愛∞コンタクト』の“只ならなさ加減”を感じていただけたと思う。
そこまで女優・中原翔子の心を掴んだ代々木忠監督の原作『つながる』が、渡辺あい、深井朝子、そして幕間映像の淺雄望というナオミプロデューサーのお眼鏡に適った新進気鋭の女性監督によって如何なる映像となったのか――是非とも劇場で、“つながれない女たち”につながってほしい。
『愛∞コンタクト』は、2/15(水)の夜も上映される。その夜も登壇予定である中原翔子&広澤草の“愛の伝道師”のこと、忘れられないポスト・バレンタインデーにしてくれるに違いない。

取材・文:高橋アツシ

『愛∞コンタクト』(2015年/102分/PG12)
監督・脚本:渡辺あい(【感電】監督・脚本/【LOVE REVOLUTIONS】監督)、深井朝子(【おはよう、マコちゃん】監督・脚本/【LOVE REVOLUTIONS】脚本)
幕間映像【interlude ~つながる~】演出:淺雄望
製作:長田浩行、安藤桂子
原作:代々木忠『つながる セックスが愛に変わるために』(祥伝社 刊/新潮文庫 刊)
コンセプト監修: 大道絵里子(原作『つながる』編集協力)
企画・プロデュース:早川ナオミ
プロデューサー: 柴田愛之助

オフィシャルサイト:http://ai-contact.info/

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