二千年紀版『古都』、始動!『古都』レビュー


%e3%80%8e%e5%8f%a4%e9%83%bd%e3%80%8f%e3%83%a1%e3%82%a4%e3%83%b3「古い都の中でも次第になくなってゆくもの、それを書いておきたいのです」
文豪・川端康成は、自著『古都』について、こんな解説を遺している。
今も国内外を問わず高い人気を誇る大正・昭和の大作家と、現代の市井で慎ましく生きている私たちと、こんなにも近しい感覚なのかと驚愕してしまう。千年という単位で人々が集い、政ごとを執い、大自然を欽い、時代を繋いできた古き京(みやこ)を前にすれば、百年を生きることすら難い人類など十把一絡げなのかもしれない。

『古都』は、『雪国』や『伊豆の踊子』など川端の代表作と比べたなら知名度の点で少々見劣りするが、映画には愛された小説である。
『古都』を原作とした劇場公開映画は、3作ある。中村登監督・岩下志麻主演の『古都』(1963年/106分)、市川崑監督・山口百恵主演の『古都』(1980年/125分)、そして新たに加わるのが、YUKI SAITO(ゆうき さいとう)監督・松雪泰子主演の『古都』(117分)である。
最新作『古都』で特筆すべきは、1963年版、1980年版と違い、原作『古都』の物語から20数年後という後日談であることだ。

『古都』ストーリー:
%e3%80%8e%e5%8f%a4%e9%83%bd%e3%80%8f%e3%82%b5%e3%83%962京都中京の呉服問屋の一人娘・佐田千恵子(蒼れいな)は、自分と瓜二つの村娘・苗子(蒼あんな)と出会う。彼女は、訳あって事実も知らされぬまま生き別れた双子の妹であった。心を通わせたのも束の間、二人は別々の生活に戻ったのであった。
姉妹がほんの一時の邂逅を果たしてから、20数年が経った。千恵子(松雪泰子)は夫・竜助(伊原剛志)と共に、養父・佐田太吉郎(奥田瑛二)から譲られた由緒ある呉服屋の暖簾を、必死に守っていた。最近では京の町も様変わりし、西陣でも機を織る音すら聞こえなくなりつつある。
苗子(松雪泰/二役)は、夫・中田正(迫田孝也)と共に林業を営んでいる。京都北西部の北山地方は北山杉の名産地で、室町時代から磨き丸太として珍重されている。幼い頃から山仕事に親しんでいる苗子は、今も自ら丸太を磨いている。
千恵子の娘・舞(橋本愛)は、地元の大学に通う4年生。一流商社の最終面接も大詰めという順調な就活を送っているが、進路に悩んでいる自分を持て余しつつある。
苗子の娘・結衣(成海璃子)は画家を志し、パリに留学している。技術に関しては教師からも折り紙つきだが、最近は何を描いたら良いのかが分からなくなっている。
生き別れの姉妹、お互いの存在を知らない従姉妹……女たちの想いは時を、距離を越え、繋がり、撚り合い、折り重なっていく――。

回想として引用されるに過ぎないが、川端康成『古都』の世界も描かれ、短いながらも非常に印象的なシーンとなっている。隠しきれない悠久の時間を湛える現在の京都との対比が見事で、旧き京の雰囲気と相俟って無国籍映画ならぬ“無時空映画”の空気を持つ本作にあって、きっちりと時の楔を打ちつける。
これはまさしく川端自らが作品を評した“次第になくなってゆくもの”そのものであり、後日談であるはずの『古都』には原作者の魂が確りと込められている。
%e3%80%8e%e5%8f%a4%e9%83%bd%e3%80%8f%e3%82%b5%e3%83%965そして、もう一つの“都”、花の都パリという舞台設定が揮っている。異国情緒に溢れた場面対比は、単なる空間演出を凌駕し、観客はパリの場面に“未来”を感じずにはいられない。
過去、現在、未来が、作品の中で息衝いている――最新作『古都』は、川端康成の精神を真っ当に受け継いでいるのだ。本作が長編デビュー作となるSAITO監督、恐るべし!

秀逸な脚本に、主演の松雪泰子は熱演で応える。とても大学生の娘を持つ母とは思えない場面もあれば、娘ではなく孫ではないかと思えるほど枯れた佇まいも見せる。一人二役のはずの彼女が、4役も5役も演じている錯覚を覚える。まさに、旧くて新しい京都という街が持つ雰囲気を体現する、重層的な演技で観る者を酔わせる。
そんな松雪に、共演者も負けてはいない。伊原剛志、奥田瑛二は、男性として“古都”を体現する。幽玄でいて、身中深く真っ赤な熾き火が脈打つような色香を、じっくりとご堪能あれ。
%e8%8f%b4%e5%8d%83%e4%bc%90%e9%97%8a%e6%9e%a9そして、“娘たち”の存在忘れる訳にはいかない。橋本愛、成海璃子という若き演技派ふたりが、“古都の子供たち”を見事に体現する。我が道を模索する二人の懸命な姿に、同世代の観客は感情移入し、親世代は声援を送るに違いない。母たちを繋いだ京都ならではの思い出の品が、見も知らぬ従姉妹同士である娘たちをも繋ぐ物語は、観る者の胸を熱くする。

十把一絡げな存在に過ぎない人間であるが、そんな小さな人々が永い永い時間を掛け、営み、育み、受継ぐからこそ、旧びた街は“古都”と呼ばれるようになるのだ。京都しかり、パリしかり。
12月3より全国ロードショーが始まる映画『古都』は、京都(MOVIX京都・T・ジョイ京都・イオンシネマ京都桂川)では11月26日より先行上映される。新鋭YUKI SAITO監督が仕掛ける、過去、現在、未来を結ぶ大いなる“二都物語”を、是非とも劇場で。

文:高橋アツシ

『古都』
koto-movie.jp
11月26日(土)より、京都先行上映
12月3日(土)より、新宿ピカデリー、ミッドランドスクエアシネマ他にて全国公開
©公益財団法人川端康成記念會/古都プロジェクト
配給:DLE
文部科学省特別選定作品(青年向き、成人向き)
文部科学省選定(少年向き)

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