元気と勇気の“10月革命”『ハイヒール革命!』鑑賞記


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息を呑んだ。
それは、2016年10月1日ミッドランドスクエアシネマ(名古屋市 中村区)に足を運んだ観客全員が同じ気持ちだったろう。
観終わったばかりの『ハイヒール革命!』、スクリーンの中であんなにも魅力的だった真境名(まじきな)ナツキは、実物もこんなに魅力的なのだ。

『ハイヒール革命!』東海地区での公開初日であるこの日、古波津陽監督と、“ヒューマン”・真境名ナツキが舞台挨拶に立った。

MC. 真境名さん、素敵なワンピースですね。
真境名ナツキ 皆に、「カーテン?緞帳(どんちょう)?」って言われちゃいました。
MC. 控え室でも、髪の毛をくるくる器用に巻いてらっしゃいましたね?
ナツキ そうですね、人の話も聞かず……怒られますね、いつか(笑)。

MC. 『ハイヒール革命!』は、1年半掛けて撮られたとか……割りと長いですよね?
古波津陽監督 そうですね。最初のシーンの撮影から、ナツキちゃんのコンディションもいっぱい変わりながら……
ナツキ ……太ったり、痩せたり、ねぇ(笑)……大変でしたね。
古波津監督 映画にすると、「繋がらない!」って……
ナツキ ちょっと整形も疑われるんじゃないかレベルの、激変で(笑)。
古波津監督 その“さらけ出し感”が、良い映画なんじゃないですかね。
ナツキ (笑)。ポジティブ・シンキング、大事ですね(笑)!

_1120094MC. ナツキさんは、明るくて、周りを引き込むタイプですね?
ナツキ そうですか?昨日、東京で深夜にラジオがあって、そのまま一睡もせず来たので、ちょっとナチュラル・ハイみたいな感じです(笑)。一瞬、「おかしい人なんじゃないか?」と思われてるかも知れないんですけど……寝てないだけですので(笑)。
古波津監督 でも、初めてお会いした時に、ナツキちゃんのサービス精神とか、明るい部分もあれば真面目な部分もあって、色んな側面のある方だなっていうのが僕の第一印象なんですよ。結構その第一印象を大事にしながら、この映画のコンセプト、全体の流れを考えた時に、ナツキちゃん自身の中から出てくる要素を丁寧に取り上げていくと、この映画になるって思ったんです。
ナツキ その時は多分、抽斗(ひきだし)の鍵があったんでしょうね。今は失くしちゃったみたいです……開け方が分からない感じになってます(笑)。

MC. 『ハイヒール革命!』ってタイトルが、とても印象的です。
ナツキ 最初にこの映画を作る切っ掛けになったのは、映画のプロデューサーと私のパートナーが知り合いだったんです。私も含め3人でご飯を食べに行って、1回目の時に既に「映画作ろう!」って言ってくださって……「こんな冗談を言う愉快な方がいらっしゃるんだな」と思って話半分で聞いてたら、2回目にお会いした時に、具体的な話が出てきて(笑)!でも、「タイトルも考えてるんだよ!」って出てきたタイトルが、「ん?」って感じで(苦笑)……
古波津監督 僕も「それは無い!」と思って(笑)……もう、必死になって阻止しまして、脚本家と一緒に長い時間を掛けて一生懸命タイトルを考えました。“ハイヒール”は、インタビューの中でキーワードとして出てきてたんで、象徴的な話だし上手く使えないかな、と。

_1120104MC. 古波津監督は、名古屋に特別な縁がある訳ではなかったんですよね?
古波津監督 はい、生まれは東京です。ルーツは沖縄ですけど。
ナツキ 凄い共通点ですね……私もなんです。真境名って名前は、沖縄なんですよ。
古波津監督 だから、沖縄の人が見ると、「二人とも沖縄じゃん」って思うんでしょうけど……二人とも、東京生まれです(笑)。
MC. けれど、監督は名古屋と非常に馴染みが深いんですよね。『築城せよ!』(2009年/120分)は瀬戸市や猿投町(豊田市)を舞台に、『WAYA! 宇宙一のおせっかい大作戦』(2011年/101分)は円頓寺商店街(名古屋市 西区)を舞台に、撮影されています。名古屋って、そんなに魅力がありますか?
古波津監督 あります。映画を作る側の視点から言うと、都会も、山も、海もあって、商業地もあって、農地もあって、漁村もあって……名古屋っていう括りではないですけど、愛知県の中には凄く色々な材料があるんですね。歴史もあって古い物もいっぱい残ってて……お城もあります。活用できてない素材、ネタがいっぱいあると思います。僕は“名古屋3部作”を撮りたいので、最低あと1本は(愛知県で)撮りたいと思ってます。
ナツキ 私も、名古屋は第2の故郷なんです。映画でも言いましたけど、名古屋で手術してるから(笑)。

MC. 濱田龍臣さんが、過去の真境名さんを演じています。何かアドバイスをされたんですか?
ナツキ そんなおこがましいことは全然してないですけど……お会いして対談した時に、「(ナツキさんは)どういうタイプの人ですか?」みたいなザックリした質問をされたんで、「私は、感情が顔に出やすいタイプだよ」って言っただけで、凄く掴んでいたんですね。やっぱり天才子役だなって思いました。
MC. “顔に出やすいタイプ”といえば……この映画のクランクアップは今年の凄く寒い時期だったそうですが、そこで面白いことがあったとか?
ナツキ 2月に秋葉原をこんな格好で歩くんですけど、監督に「5月の爽やかな感じで歩いて」って言われたんです。……寒い中、何回も電気街の通りを往復させられて(笑)……
古波津監督 そんなの可愛いもんで、ナツキちゃんは機嫌が悪いと、登場した時にもう“どすーん”って物凄い表情で入ってきますからね(笑)。
ナツキ 「これ、何回やるの?それで、何秒使うの?」みたいな顔しますもんね(笑)。
古波津監督 もう、分かりやすいですよ(笑)。

MC. 『ハイヒール革命!』は、LGBTをテーマにしています。監督は初めて扱って、このテーマは如何でしたか?
古波津監督 そんなにLGBTを強く意識してるってこともなくて……一番意識してるのは、ナツキちゃんの個性の根源みたいなことに興味があって。それだけのコンプレックスを持ってた人が、なんでこんなに伸び伸びと個性的に生きていられるんだろうな、っていう疑問が一番にあったんです。それは、他のどんな人も興味があるんじゃないかと思ったんですね。僕も含めて皆コンプレックスって持ってるけど、それを引っくり返して武器に出来たら、そんな素敵なことはないですよね。でも、それは凄く難しいし、自分自身のことなのに非常に扱いに困ってる……世の中に自分の個性を出しにくくて困ってる人って、凄く沢山いる。そういう物を全く意識しないまま、世の中に上手く自分を嵌めていこうって風潮の中で生きていかなきゃいけない人たちに対して、ナツキちゃんみたいなキャラクターを観てもらって、「あなたって、どんな人なの?何が好きなの?どうやったら伸び伸び生きられるの?」みたいなところからプレゼンテーション出来れば良いなと思って、こういう映画を作りはじめたんです。LGBTを世の中に紹介しようって目論見はあんまり無くって、たまたまナツキちゃんがそういうカテゴライズの一人だったってだけなんですよね。
ナツキ 「性同一性障害だから、ニューハーフだから、大変」って言いたがる人が多いと思うんです。でも、作品に出てた友達も言ってたんですけど、私も全然そんなことはなくて、人って生きてれば絶対悩みってあるから、私たちだけ大変ってスポットを当てちゃうのはおかしいと思うんですね。この映画が切っ掛けになって、少しずつ変わっていける、勇気を持っていただけたら良いなって思います。LGBTって言われる人たちだけじゃなく、普通の方にも観ていただけたら嬉しいですね。

_1120122_1120127ここで、登壇する二人にサプライズが。真境名ナツキはミッドランドスクエアシネマ小澤副支配人から、古波津陽監督には地元ファン代表の少女から、豪華な花束が手渡された。
そして、サプライズはもう一つあった。古波津監督に花束を渡した少女は、『ハイヒール革命!』のドラマパートに同級生役で出演した女優の高畠千夏だったのだ。彼女は名古屋在住の16才、高校1年生である。
『ハイヒール革命!』のオーディションに臨む際、高畠は履歴書の特記事項に、【築城経験あり】と記入したそうだ。彼女は小学3年生の時、古波津監督作品『築城せよ!』に参加しているのだ。

高畠千夏 『築城せよ!』にエキストラで参加したことが切っ掛けで女優を目指そうと思ったので、古波津監督は私にとって“Turning Person”です。

古波津陽監督は、こうして誰かのターニング・パーソンとなり、人々に元気を与え続けているのだろう。

高畠 『ハイヒール革命!』の撮影の時、真境名さんが遊びに来て差し入れをくださったんです。カントリーマアム、とっても美味しかったです(笑)!

『ハイヒール革命!』は、真境名ナツキは、誰かのターニング・ポイントとなり、観る者に勇気を与え続けるのだろう。

_1120139舞台挨拶が終わり、壇上を後にする二人の背中には拍手喝采が長い時間送り続けられ、劇場ロビーで二人に握手を求める観客の列は解消するまでに相当の時間を要した。
大きな拍手と笑顔の渦はいつまでも消えることなく、劇場に溢れていたのはまさしく“革命!”であった。

取材 高橋アツシ

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