“見える”と“見る”は、違うんだからね『Every Day』鑑賞記


_1120153『Every Day』ストーリー:
月曜日……三井晴之(永野宗典)は、一緒に暮らす恋人・辻村咲(山本真由美)に起こされる。以前と変わらぬ日常が始まることに驚きを隠せない三井は、咲に「怖い夢を見た」と話す。三井の夢の中で、咲は交通事故に遭い、病院で昏睡状態だと言う。
身なりを整え、二人で朝食を取り、咲がこさえた弁当を持って、出勤する……いつもの1週間が始まろうとする刹那、三井のスマホに残った留守電が、残酷な現実を指し示す。咲が意識不明の重体であることは、夢なんかでは無いと。
混乱する三井に、咲は告げる。「時間を、もらったのね。1週間」
ありふれた日常は終わり、特別な1週間が始まる――。

2016年10月1日(土)から1週間、シネマスコーレ(名古屋市 中村区)で『Every Day』(2016年/95分)の上映が始まった。
初日の2日間は手塚悟監督による舞台挨拶があるということで、秋雨前線が呼び込んだ厚い雲が垂れ込める生憎の空模様を押して、大勢の映画ファンが列を作った。

――制作の経緯を教えてください。
手塚悟監督 今から8年前、Mixiに冨士原(直也)さんっていう方が『Every Day』っていうシナリオを上げていたんです。
――haruka nakamuraさんの楽曲からインスピレーションを受けて、作られたとか?
手塚監督 はい。今回音楽監督を務めた【haruka nakamura】というアーティストがいるんですが、その方が『every day』という歌を発表していまして、それにインスパイアを受けて冨士原さんが文章をお書きになったのが最初です。それを僕が読んで、映画化したいと打診して、いざ映画を撮って、音楽監督をharuka nakamuraさんに頼んだって流れですね。

_1120167――冨士原さんの原作には、どんな魅力があったんですか?
手塚監督 僕は『Every Day』が初めての長編なんですけど、今まで撮ってきた短編は“不在”をテーマにしたものが多いんです。僕の一人っ子っていう育ちもあるんですけど、誰かが居なくなることに対しての潜在的な恐怖みたいなものがありまして。冨士原さんの原作に触れた時に、凄く自分の中でピンと来るものが当時あったんじゃないかと思います。
――原作との変更点は、ありますか?
手塚監督 原作の三井くんは、もうちょっと男らしい、やり手のサラリーマンで……津嶋ちゃん(牛水里美)との関係も、違ってました。映画化に当たって、共感を得られるよう少しずつ変わってます……ちょっとずつ三井くんを虐めるかたちで(笑)。

――キャスティングについて教えてください。
手塚監督 三井って言うキャラクターを書いてる段階から、誰が演るのか、どういう風にキャスティングするかっていうのは課題でした。咲ちゃん役の山本真由美さんは、割りと初めから決まったというか……試しに演ってもらってた時期があって。その当時、彼女は永野(宗典)さんと舞台で競演することがあって、そこで観て、ピンと来たんです。
――演出の面では如何でしたか?
手塚監督 『Every Day』は、割りと舞台っぽいって言われます。間を大味な芝居の付け方をしているのは、好き嫌いがきっとあると思うんですけど、永野さんのキャラクターだから活きるって演出にシフトしたところがあります。人の弱みみたいなところが、一つこの作品の肝になるかなと思って演出しました。
――あと、“吉田さん”が気になりました(笑)。
手塚監督 吉田さんを演じた谷川(昭一朗)さんって、実は結構CMとかドラマにちょこちょこ出られてる役者さんで、柄本明さんの劇団【東京乾電池】の所属されています。

――この作品では、写真が効果的に使われています。フォトブックは、どういったところから思い付かれたんですか?
手塚監督 実は僕、撮り終わった後に病気をしまして、長期入院した時期があったんです。そこに写真を撮ってくれてるスタッフから差し入れがありまして、それが山本さんばかり集めたような写真で……嫌がらせかな、「早く完成させろ!」ってことなのかな、と(場内笑)……ベッドの上で何もやることがなかったので、それをずっとめくるような日々がずっとあったんです。少ししてから編集を再開する時、以前はもっと曜日でバツバツ切ってたのが今のような形になったので、これはひょっとしたら怪我の功名なのかなと思ってます(笑)。今はデジタルで何でも出来ちゃいますが、僕なんかの世代はフィルムで“カタチとして残す”というのがあるんですよね。デジタルで撮るんですけど、アナログへの敬意を込めて……写真にはそんな意図もあります。

――制作期間8年は、かなり長いと思います。どうしてここまで時間が掛かったんですか?
_1120172手塚監督 8年前はシナリオの段階で、原作のダメ男が更にダメ男になる、これをどう邂逅するのか……これでもう2~3年過ぎちゃったんです。そうした時に、ちょうど東日本大震災が起こりまして……この災害が作品に対してどうって訳じゃないんですけど、麻痺してしまう時間が、そこから2~3年生まれて。で、ちょっとずつやっていって、2013年が撮影のメインだったんですが、明けて2014年、僕が病気して……更に1年そこで延びたんです。
――撮影期間はどれくらいだったんですか?
手塚監督 2週間くらいですかね。忙しい方ばかりでしたので、春に撮って、夏に撮って、ちょっと最後また冬に撮って、みたいなことをやっていたりしました。
――編集も大変だったんじゃないですか?
手塚監督 身体的な負担の方が大変でしたけど(笑)……ザックリとは2週間でパッと上がったんですが、今の形にしっかり組み上げるまでにはちょっと時間が掛かりました。

――実際作品にしてみて、「これが日常だな、一番“Every Day”だな」って思ったのはどこですか?
手塚監督 ピンポイントじゃないんですけど、人が食べるシーンですかね……他人から言われて気付いたんですけど。良い時も悪い時も食わなきゃいけないってのがあるので、そこはもしかしたら意識的に取り入れてるかも知れないですね。
――監督の中で、自分を投影した役はありますか?
手塚監督 どうでしょう?三井っぽいところもあるでしょうけど、限定すると「気持ち悪い!」ってなると嫌なので(笑)……多分、全体にちょっとずつって感じじゃないかと思います。

――次回作は、どうなんですか?
手塚監督 ぼちぼち企画の方は始まってるんですけど、ゆっくりになると思います(笑)。長編は『Every Day』が初めてだったので……「失敗したな」と思うところは次に活かして(笑)、更に上を向けるように頑張りたいと思っています。

ありふれた日常が、掛け替えのない大切な時間に変わる、愛しい愛しい1週間――『Every Day』を、是非とも劇場で感じてほしい。
シネマスコーレでは、10月7日(金)まで連日18:20から上映されている。手塚監督は10月2日(日)も舞台挨拶に立つので、熱い想いを直に触れてほしい。
今後、日田シネマテーク・リベルテ(大分県 日田市)、第七藝術劇場(大阪市 淀川区)と全国でも公開が決定されているので、“Every Day”を体験してほしい。

取材 高橋アツシ

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