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2015年度アカデミー賞フランス代表に『黒いオルフェ』(1959年)以来、56年ぶりにフランス語以外の言語作品が選出された。
トルコ出身のデニズ・ガムゼ・エルギュヴェン監督によるトルコ語作品『裸足の季節』だ。
監督は本作が長編デビューにも関わらず、各国の映画祭で主演女優賞、観客賞など数々の賞を獲得し絶賛の嵐を巻き起こした。

舞台はイスタンブールから1000キロ離れた小さな田舎町。
そこに住む美しい5人姉妹、長女ソナイ(イライダ・アクドアン)、次女セルマ(トゥーバ・スングルオウル)、三女エジェ(エリット・イシジャン)、四女ヌル(ドア・ドゥウシル)と、末っ子ラーレ(ギュネシ・シェンソイ)ーーは10年前に両親を亡くし、祖母(ニハル・コルダシュ)と叔父のエロル(アイベルク・ペキジャン)と共に暮らしている。
若く、怖いもの知らずの姉妹は厳格な祖母と叔父をしばしば呆れさせ、怒りを買うことも多い。

ラーレの大好きなディレッキ先生がイスタンブールの学校へ異動になった日、姉妹は帰り道の海岸で男の子達と騎馬戦に興じる。
他愛もない無邪気な楽しみーー、だが、帰宅すると姉妹は祖母から激しい折檻を受ける。「男の首に下半身をこすりつけるなんて、ふしだらよ!」
海岸での光景を目撃した隣人が、祖母に告げていたのだった。
それ以来、姉妹は外出を禁じられ、家に閉じ込められてしまう。
さらに祖母たちは次々と縁談を進め、長女から順に結婚させられていく。四女ヌルの結婚式の日、ラーレは温めてきた計画の実行を決断する。家を飛び出し、イスタンブールへ行くという無謀なものだったーー。

原題『Mustang』(野生の馬)が示す通り、姉妹たちは躍動し、手なずけられず強い生命力に溢れている。
彼女たちの風になびく長い髪、弾ける若い肢体はまさに野生の馬そのものだ。
その自由な輝きに対し、祖母や叔父が彼女らに強いるあり方があまりにも封建的で、そのギャップに戸惑わずにいられない。
処女であることを何より大切にする祖母たちは、姉妹が「傷物」になっていないかと病院で処女検査まで受けさせる。数十年世代が違うだけで、ここまで激しい落差があるものなのか。古さと新しさの間で揺れる現代トルコの姿なのだろうか?

化粧品や可愛い洋服、アクセサリーは「不埒なもの」だと取り上げられ、地味な服装を着せられた上に、村の女たちが教える、料理や裁縫といった花嫁修行に明け暮れる日々。
しかし、彼女たちは簡単には屈服しない。
サッカーが大好きなラーレはスーパーリーグの試合を見たいとエロルに直訴するも、あっさり却下される。だが、監視をかいくぐり5人で家を抜け出しサッカー観戦に熱狂した。
長女のソナイは恋人と密会しては、ちゃっかりと愛を育んだりと、自由を求め反抗し続ける姉妹たち。

だが、抑圧は容赦なくもたらされ、姉妹は決められた相手と次々と結婚させられていく。あれほど反抗し続けた彼女たちが、結婚という印籠を突きつけられた途端に力を失うやるせなさ。
負けん気の強いラーレは姉に言う。「結婚したくないなら逃げて」
姉は答える。「どこに逃げるの?イスタンブールは1000キロ先よ」
自我をもちながらも、その場所から飛び立つ術も勇気も、彼女たちはもたないのだ。

だが、末っ子ラーレの存在が最後にして、唯一の希望だ。
デニズ監督はこう述べるーー「5人の少女を、5つの頭を持つ怪物だととらえていました。
物語から一人ずつ脱落していくたびに、頭を失くしていくのですが、最後に残った者が成功するというイメージを持っていました」
倒れ行く姉たちを目の当たりに、自ら運命を切り開く決断したラーレは、おとぎ話の最後の勇者のようだ。

まるで本当の姉妹のように調和し、美しく輝く5人は、全員オーディションやスカウトで監督自らが発掘した新人で、三女エジェ役のエリット・イシジャン以外はみな演技未経験、これからが楽しみな女優たちだ。
「ガールズ・ムービー」なんて生ぬるいもんじゃない。そんな風に期待するとヤケドする。
どくどくと鼓動する、激しいエネルギーと生命力に満ちた圧倒的な作品、彼女たちの戦いを是非、スクリーンで見届けて。

文:小林サク

『裸足の季節』
監督:デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン、音楽:ウォーレン・エリス
出演:ギュネシ・シェンソイ、ドア・ドゥウシル、トゥーバ・スングルオウル、エリット・イシジャン、イライダ・アクドアン、ニハル・コルダシュ、アイベルク・ペキジャン
原題:MUSTANG/2015年/フランス=トルコ=ドイツ/94分 提供:ビターズ・エンド、サードストリート 配給:ビターズ・エンド
© 2015 CG CINEMA – VISTAMAR Filmproduktion – UHLANDFILM- Bam Film – KINOLOGY
www.bitters.co.jp/hadashi

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トルコ発!美しく、力に満ちた反逆の物語『裸足の季節』レビューhttp://eigairo.com/wp-content/uploads/2016/06/main-600x278.jpghttp://eigairo.com/wp-content/uploads/2016/06/main-200x150.jpgシネマカラーズ映画のえとせとら2015年度アカデミー賞フランス代表に『黒いオルフェ』(1959年)以来、56年ぶりにフランス語以外の言語作品が選出された。 トルコ出身のデニズ・ガムゼ・エルギュヴェン監督によるトルコ語作品『裸足の季節』だ。 監督は本作が長編デビューにも関わらず、各国の映画祭で主演女優賞、観客賞など数々の賞を獲得し絶賛の嵐を巻き起こした。舞台はイスタンブールから1000キロ離れた小さな田舎町。 そこに住む美しい5人姉妹、長女ソナイ(イライダ・アクドアン)、次女セルマ(トゥーバ・スングルオウル)、三女エジェ(エリット・イシジャン)、四女ヌル(ドア・ドゥウシル)と、末っ子ラーレ(ギュネシ・シェンソイ)ーーは10年前に両親を亡くし、祖母(ニハル・コルダシュ)と叔父のエロル(アイベルク・ペキジャン)と共に暮らしている。 若く、怖いもの知らずの姉妹は厳格な祖母と叔父をしばしば呆れさせ、怒りを買うことも多い。ラーレの大好きなディレッキ先生がイスタンブールの学校へ異動になった日、姉妹は帰り道の海岸で男の子達と騎馬戦に興じる。 他愛もない無邪気な楽しみーー、だが、帰宅すると姉妹は祖母から激しい折檻を受ける。「男の首に下半身をこすりつけるなんて、ふしだらよ!」 海岸での光景を目撃した隣人が、祖母に告げていたのだった。 それ以来、姉妹は外出を禁じられ、家に閉じ込められてしまう。 さらに祖母たちは次々と縁談を進め、長女から順に結婚させられていく。四女ヌルの結婚式の日、ラーレは温めてきた計画の実行を決断する。家を飛び出し、イスタンブールへ行くという無謀なものだったーー。原題『Mustang』(野生の馬)が示す通り、姉妹たちは躍動し、手なずけられず強い生命力に溢れている。 彼女たちの風になびく長い髪、弾ける若い肢体はまさに野生の馬そのものだ。 その自由な輝きに対し、祖母や叔父が彼女らに強いるあり方があまりにも封建的で、そのギャップに戸惑わずにいられない。 処女であることを何より大切にする祖母たちは、姉妹が「傷物」になっていないかと病院で処女検査まで受けさせる。数十年世代が違うだけで、ここまで激しい落差があるものなのか。古さと新しさの間で揺れる現代トルコの姿なのだろうか?化粧品や可愛い洋服、アクセサリーは「不埒なもの」だと取り上げられ、地味な服装を着せられた上に、村の女たちが教える、料理や裁縫といった花嫁修行に明け暮れる日々。 しかし、彼女たちは簡単には屈服しない。 サッカーが大好きなラーレはスーパーリーグの試合を見たいとエロルに直訴するも、あっさり却下される。だが、監視をかいくぐり5人で家を抜け出しサッカー観戦に熱狂した。 長女のソナイは恋人と密会しては、ちゃっかりと愛を育んだりと、自由を求め反抗し続ける姉妹たち。だが、抑圧は容赦なくもたらされ、姉妹は決められた相手と次々と結婚させられていく。あれほど反抗し続けた彼女たちが、結婚という印籠を突きつけられた途端に力を失うやるせなさ。 負けん気の強いラーレは姉に言う。「結婚したくないなら逃げて」 姉は答える。「どこに逃げるの?イスタンブールは1000キロ先よ」 自我をもちながらも、その場所から飛び立つ術も勇気も、彼女たちはもたないのだ。だが、末っ子ラーレの存在が最後にして、唯一の希望だ。 デニズ監督はこう述べるーー「5人の少女を、5つの頭を持つ怪物だととらえていました。 物語から一人ずつ脱落していくたびに、頭を失くしていくのですが、最後に残った者が成功するというイメージを持っていました」 倒れ行く姉たちを目の当たりに、自ら運命を切り開く決断したラーレは、おとぎ話の最後の勇者のようだ。まるで本当の姉妹のように調和し、美しく輝く5人は、全員オーディションやスカウトで監督自らが発掘した新人で、三女エジェ役のエリット・イシジャン以外はみな演技未経験、これからが楽しみな女優たちだ。 「ガールズ・ムービー」なんて生ぬるいもんじゃない。そんな風に期待するとヤケドする。 どくどくと鼓動する、激しいエネルギーと生命力に満ちた圧倒的な作品、彼女たちの戦いを是非、スクリーンで見届けて。 文:小林サク 『裸足の季節』 監督:デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン、音楽:ウォーレン・エリス 出演:ギュネシ・シェンソイ、ドア・ドゥウシル、トゥーバ・スングルオウル、エリット・イシジャン、イライダ・アクドアン、ニハル・コルダシュ、アイベルク・ペキジャン 原題:MUSTANG/2015年/フランス=トルコ=ドイツ/94分 提供:ビターズ・エンド、サードストリート 配給:ビターズ・エンド © 2015 CG CINEMA – VISTAMAR Filmproduktion – UHLANDFILM- Bam Film – KINOLOGY www.bitters.co.jp/hadashiシネマから、はじめよう。