浅草を舞台に劇団ひとりが描く寅さんイズム『青天の霹靂』×第8回したまちコメディ映画祭in台東


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笑いと、たぶん一粒の涙の物語

東京随一の下町である浅草・上野の魅力を、コメディ映画を通じて存分に味わうことが出来る『第8回したまちコメディ映画祭in台東』。実在の浅草演芸場がモデルとなり、浅草の魅力がふんだんに詰め込まれた『青天の霹靂』の監督、劇団ひとりを迎えてトークショーが行われました。(2015年9月20日 第8回したまちコメディ映画祭in台東 浅草公会堂)
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いとうせいこう:劇団ひとり監督、こう呼ぶと何人いるのかわからないですけども (笑)。
劇団ひとり:ややこしい名前で (笑)。
いとうせいこう:大きなスクリーンで改めてやると、お客さんの反応が気になりますよね??とてもいい感じの反応でありました。
劇団ひとり:一年前に公開したので、またでっかいスクリーンでやっていただくのは嬉しいですよね!
いとうせいこう:ここでですね、台東区フィルムコミッションから、劇団ひとり監督にちょっとしたプレゼントがございます。
劇団ひとり:これはなんですか??
いとうせいこう:佃煮詰合せです (笑)。美味しいやつですから!
劇団ひとり:嬉しいです!ありがとうございます。でもこういうのあれじゃないですか??楽屋で手渡した方がいいんじゃないですか??
いとうせいこう:いやいやいや、折角フィルムコミッションから、監督へあれだから。
劇団ひとり:僕、登壇して佃煮もらったの初めてです (笑)。
いとうせいこう:よく締まった、味のいい作品だから?
劇団ひとり:そういうことで。ありがとうございます。
いとうせいこう:それでは、佃煮を持ったままトークを続けていただいて。
劇団ひとり:「要冷蔵」って書いてあるんですけど!ちょっと冷やしてもらっていいですか??
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いとうせいこう:台東区もやっていますけど、フィルムコミッションもいっぱい参加しているし、色々なところで細かく撮っているでしょ??
劇団ひとり:そうですね。浅草が舞台なので、当然浅草で撮りたかったんですよ!でも、いいなって思う劇場はスケジュールが全部埋まっていて。劇場探しは手広く色々なところでやったんですけど、最後にみつかったのが、長野 (県) の上田市にある上田映劇っていう場所だったんです。とにかく雰囲気がよくて。決め手として考えていたのは、風間杜夫さんが舞台を覗く小窓があることだったんですけど、それは現場になかったんですよ。で、そこの支配人に、「仮にですけど、壁に穴とか開けちゃっても大丈夫ですかね??」って聞いたら、「まぁ、別にいいすよ」って(笑)。普通の鉄筋の壁を
いとうせいこう:くり抜いちゃって??
劇団ひとり:そう!ここまで協力してくれるのだったら、撮影が順調にいくだろうなって。そこでお願いしました。
いとうせいこう:じゃ、何でもいうとなっちゃうってこと??
劇団ひとり:なっちゃうもんですね (笑)。
いとうせいこう:最初の町をがっーてくる画とか、少し上目のとこで止まったりして、結構なカメラ使っているでしょ??カメラマンも相当な画作りじゃないですか??あの演出は凄く大変だと思う。
劇団ひとり:あれは時間かかりましたね。地元の方にエキストラをお願いしたんですけど、平日だったので全然 (人が) 足りなかったんですよ。なので、右から左にいっている間に、カメラの後ろをわっーと移動してもらって、なるべく多くみえるように工夫してやりましたね。
いとうせいこう:色々なセットで撮っているのに、ひとつにみえなきゃいけないじゃない??相当力入っていると思いますよ!
劇団ひとり:あれは美術さんが素晴らしかったですよね。凄かったですよ!ここまでやってくれるのかってことに感動しましたね。楽屋も映らないところまで徹底して作っているんですよ!僕、あまりにも不思議に思っちゃって、「カット割りに入ってないですから、ここ映らないですよね??」って美術さんに聞いたんですよ。そしたら、「ここを細かく設定することによって、役者さんがこの世界に入れるから僕らはいいんです」って。本棚に当時のやつを並べてくれたり、本当に細かくやってくれてましたね。
いとうせいこう:しかもその人物が読むだろうものはこれだ!っていう風にやってるんですね。
劇団ひとり:テレビと比べちゃうと、お金の掛け方が半端ないですからね。
いとうせいこう:とはいえ、映画だって相当切り詰めてやらなきゃ撮れない時代なのに、この作品は異様に予算掛かっていると思う。
劇団ひとり:予算はぶっちゃけた話でいうと二億。二億って凄い!と思ったんですけど、一番ポピュラーな予算らしいんですよ。で、びっくりしたのが、制作費二億なので、興行収入はどれくらいいけばいいんだろうって聞いたら、十億っていうんですよ!二億しか使ってないのに、なんで十億も??って思って話を聞いたら十億の内、半分は映画館じゃないですか??
いとうせいこう:そうだね。上映してくれる映画館だね。
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劇団ひとり:残りの三億は全部広告です。今の映画って、制作費より広告の方が掛かるんですって。
いとうせいこう:それは切ない話だね。
劇団ひとり:ちょっと本末転倒感あるじゃないすか??
いとうせいこう:あるある。だってスタッフ達がそこまでやっているのに。広告費ってテレビ??
劇団ひとり:テレビスポットや劇場予告だったり、ポスターやチラシだったりでそれくらいかかっちゃうらしいですよ。
いとうせいこう:十億で八億でって引いていったらギャラはないよね。ギャラは二億に入っている??
劇団ひとり:僕のギャラですか??僕のギャラは、びっくりするくらい安かったです。ギャラのために働いた訳じゃないですけど、その労力考えると、時給五百円もないくらいじゃないですか??改めて監督業でご飯を食べている人は凄いなって思いました。凄く時間が掛かるから。
いとうせいこう:キリキリしながら、役者のスケジュールがバッティングしているから違うシーン撮らなきゃいけないとか、後一時間で撮りきらなきゃいけないとか、そういうのはあったんですか??
劇団ひとり:もう全然ありました。大泉 (洋) さんが北海道に行く番組やっているから、朝までに出さなきゃいけないって。結局カットしちゃったんですけど。亀がね、主人公の晴夫が飼っている亀が、部屋の中で逃げちゃって探すシーンがあったんですけど、本当に動かないんですよね、亀。どうにかして動かないかなって、床とかドンドンやって、結局朝の5時くらいまで掛かって。
いとうせいこう:亀を動かすのに??
劇団ひとり:亀を動かすのに。で、動かないから別日に。
いとうせいこう:亀中心で??別日に組んで??
劇団ひとり:亀だけ!別日に抑えて同じセット組んで。結局、全部カットしちゃったんですけど。そういうのもありましたね。
いとうせいこう:もったいない!もちろんセット組むのにも、凄くお金が掛かりますからね。一からまた建て込んでライティングしてね。でも頭の中にシーンがもう出来ているということでしょ??(絵) コンテも描いて??
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劇団ひとり
:描きました!現場でみたことはあるけど、当然書いたことないじゃないですか??どうやって描いたらいいからわからないので、本屋さんに売ってた『誰でも出来る絵コンテ集』っていうのを買ってきて色々と勉強して。でもやり方が本当によくわからなかったから、家にあったフィギュアを並べて、写真を撮って、iPadの中に入れて、コンテ通りに並べて、セリフ読みながらクリックしていくと、なんとなく想像できるじゃないですか??それが一番作業的にはかどったやり方でしたね。
いとうせいこう:編集したい時は簡単に変えられるし、いいやり方を思い付きましたね。
劇団ひとり:絵コンテも全部iPadで描きましたし、あれは便利で楽ですね。
いとうせいこう:劇団ひとり手法が!
劇団ひとり:鉛筆だと、どうしても消したりなんだりあるから。iPadはコピペで簡単に出来るから、あれは凄いですよね。
いとうせいこう:人物の位置関係はもちろんのこと、ここから撮るとか、カット割りは基本全部やったってこと??
劇団ひとり:そうですね。自分で組み立ててカメラマンに相談して。撮影的には結構スムーズにいったんじゃないでしょうか。
いとうせいこう:だって、スタッフに話がしやすいでしょ??
劇団ひとり:最初っから大体決まっているので、現場で迷うことはなかったですね。
いとうせいこう:凄い良く出来ている映画が公開されて、次っていう話は結構来てたりするのですか??
劇団ひとり:僕、今小説書いているんですけど、これの出来次第じゃないですかね??
いとうせいこう:なるほど。それを更に映画にするっていうこと??
劇団ひとり:ちょっとね、興行収入的には本当にギリギリだったんですよ。先ほど興行収入のボーダーライン、十億っていったじゃないですか??ぴったり十億だったんです。これで、もう少しいければ、手放しでも次のやつは来たんですけど、次の小説次第じゃないですかね??なんせ公開と同時に、アナ雪フィーバーが来やがって!!
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いとうせいこう:雪が来たか!!(笑)。こっち、霹靂だからね。
劇団ひとり:雪が降り積もっちゃって。僕も劇場で二回みましたから(笑)。やっぱり、あれが痛かったですからね。
いとうせいこう:あの時はみんな、なぎ倒されちゃったからね。
劇団ひとり:そうですよ!少しも寒くないわって、そりゃお前は寒くないだろ!こっちはキンキンに冷え切ってるって (笑)。
いとうせいこう:こっちに吹いて来ているんだから、お前はいいよってね (笑)。
劇団ひとり:ちょっとタイミングがね。映画って、そういうバクチみたいなところがあるからね。公開時期もプロデューサーがかなり考えたんですよ。GWにしようかって話をした時に、それこそアナ雪とかが来るから。
いとうせいこう:強敵がみんな来るからね。
劇団ひとり:この作品は、そこは絶対にずらした方がいいって、あえてずらしたんですよね。そこにまさかのアナ雪がまだ続いているっていう。
いとうせいこう:(笑)。そっか。吹雪が続いて厳しいね。
劇団ひとり:どうにかギリギリ。
いとうせいこう:それでセーフなんだから、他の作品に比べたら相当いいじゃん??赤食らったとこいっぱいあるはずだからね。じゃ、順番的にいえば物語が出来てから、映画を作りたくなる??
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劇団ひとり:最初のきっかけは、荒木町にマジックバーがあるんですよ。荒木町なのに、銀座八時って名前でややこしいんですけど (笑)。お客さんが僕を含めて三人くらいしかいないガランガランなところで、テーブルマジックをやった後に、ちっちゃいステージマジックがあるんですよ。色々やって最後に、紙をねじってバラにして、浮かして燃やしてっていうペーパーローズのマジックをやってて。それにえらい感動して、ちょっと映画にしたいなって思って、その日の夜に小説書き始めて、一年くらいで書き終わって、幻冬舎に持って行って、「これ映画にしたいからどこかないですか??」っていったら、東宝さんが乗ってきてくれてっていう感じでしたね。
いとうせいこう:やっぱりインスピレーションって、どこで出会うかわからないからね。
劇団ひとり:そうですね。ペーパーローズをみた時は、何の話もなかったんです。なんかやりたいなって思って。
いとうせいこう:イメージだけがあるんだ。いってみれば、ラストシーンで結実する訳で。
劇団ひとり:ちょっと話がそれちゃうかもしれないですけど、『新橋ミュージックホール』って番組が、昔あったの知ってます??
(ビート) たけしさんとユースケ・サンタマリアさん、トータス松本さんがやってた番組で、僕はまだコンビでやってたんですけど「今きている若手!」みたいな感じでネタをやってたんです。たけしさんって凄くシャイな人じゃないですか??なので、滅多に口なんか聞いてくれないんですよ。「おはようございます!」っていっても、「おー」みたいな(笑)。
いとうせいこう:目を合わさないんだよね。
劇団ひとり:そうなんですよ!それがその時、収録が終わってカメラ回ってない時に、ひと組ひと組にダメ出しをしてくれて。かなり珍しい!しかもかなり愛のあるダメ出しをしてくれて。で、僕のところに来た時、「あのね、なんかね、机の上で台本を書くんじゃなくてさ、吹けないんだよ?吹けないんだけどさ、縦笛を持ってきてね、これをどうにかネタにできないかなって。そこからネタを作ってもいいんじゃないか」って話をしてくださって。正直、よく分からなかったんです。どういうことなんだろうなって思ってたけど、いってみれてば枷なんですよね。ネタを作るテーマじゃないですけど、僕らも二十年くらいやっているので、ネタを作ろうってなった時に、自分のテリトリー内でやろうとすると大体似たような
いとうせいこう:手馴れたものになっちゃうから。
劇団ひとり:そうなんですよ!その時に、自分のフィールド外のところからテーマを持ってくる。
いとうせいこう:強制的にすることで、全く考えてなかったことが出てくる訳じゃないですか。
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劇団ひとり:出てくる!だからきっとそれを仰りたくて、今もネタ作りの時は必ず思い出すんですよね。ペーパーローズっていう一個のお題だと思って、なんか話作れないかなって。「天才」って呼ばれる人達って、みんな似たようなこといっているんですよね。あの!星新一さんも、当然ネタに詰まるわけじゃないですか。そうしたら、ちっちゃい紙に二・三十個キーワードを書いて、机の後ろに投げて、手探りで三つ拾って、それを無理やり話にするんですって!
前に『アンパンマン』のやなせたかしさんにインタビューをすることがあって、「やなせさん、ネタに詰まることがないんですか??」って聞いたら、「当然あるよ!何にも思い浮かばないよ!」って(笑)。「じゃ、どうするんですか??」って聞いていったら、なんか変なアンパンマンを描くんですって。「アンパンマンがあぐらをかいて座って、空から落っこってくる」みたいなのを一枚描いて、それをみて「なんでアンパンマンはこういう風になっているんだろう??」って考える。そこから無理やりお話を作るっていっていました。
いとうせいこう:素晴らしいね!
劇団ひとり:結局みんな、いっていること同じだなって思って。
いとうせいこう:同じ!遠心力を高める方法っていうのかな??偶然を入れちゃうってことね。
劇団ひとり:あんな素晴らしい人達でもそこまでしないと、ネタって自然発生で湧き出るものではないんだなって思いますね。
いとうせいこう:でも逆にいったら、自分も苦しいけど出来た時楽しい!ってことをやれってことだよね、ある意味。出来た時は、たまらない脳内麻薬がある訳じゃん??
劇団ひとり:そうですね。
いとうせいこう:今書いているのも、インスピレーションがあって書き始めているの??
劇団ひとり:それが今までは、最初に全部プロットを書いて、こういう展開になるだろうってあらすじを決めてから書き始めたんですよ。確かにちゃんと、まとまるんですよ!でもずっとそれでやってきたから、今回はやめようと思って、最初から何も考えないで書き始めたんですよね。そうしたら、全然進まないんです(笑)。そういうもんなんですね。
いとうせいこう:(笑)。多分そこに、動き出す登場人物が入ってくるんですよ。我慢してやっていると、全然関係なかったウェイターみたいなやつが急に喋りだしたりして、そいつが勝手に物語を拡販し始めるから、それを待ってれば大丈夫!
劇団ひとり:せいこうさんは、どうやっているんですか??
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いとうせいこう:俺も基本的にはプロット書かないから、ラストこんな感じなんじゃないかなって。わざとラストにいかないようにして、風呂敷を広げるだけ広げて書いてる。
劇団ひとり:いかないようにして書くっていうのは、どういうことなんですか??
いとうせいこう:ゴールにいこうとすると、話を削いでいっちゃうじゃん。後やっぱり、貧しい話になっていっちゃうんですよ。だからなるべく、明らかに後の伏線だろうなっていうのをわざと書いちゃう。そろそろ締切最終回だなって時になって、回収しないとなんないから。それ楽しいよ!昔は占い師にね、世界の二十年を占ってもらって、例えば南インド、走る電車、炎、太陽と風とか。占い師だとそういう言葉が出ちゃうんだよ。それを「第一章・南インド」って使っていくの。それ向いてると思う!もの凄く向いてる!
劇団ひとり:それでやってみたいですね。でも意外でした。せいこうさんってロジカルにものを作ってそうだから。
いとうせいこう:みえるじゃん??絶対そうじゃない!
劇団ひとり:物語ってなると、それだけじゃできない。
いとうせいこう:出来ないし、上手にやっちゃうから。それ嫌じゃん。
劇団ひとり:だからゴールに向かわないっていうのは、なるほどなって思いました。
いとうせいこう:ためてためてためてって、浦沢直樹さんも言ってたよ!なるべく次のことを考えないようにするけど、三つくらいの凄いのは初めからあるんだって。科学者達が膝詰め談判してて、でもその話はどこに出てくるかわからないけど、それがもう書いてあるんだって。それで違う話をどんどん書いていって、ずっと出てこねぇなって書いている内に「あっ!」って膝詰め談判しちゃうんだって。その時はたまらないらしいよ。
劇団ひとり:なるほどな。先に書いちゃうのは凄いですね。
いとうせいこう:それは劇団ひとり法に、ぜひ取り入れて下さい。
劇団ひとり:取り入れたいです。確かに無駄を削ぎ落としちゃうのって、芸人の悪い癖ですからね。コントはなるべく説明をなくして、そのシーンだけをみせればってなっちゃうんですよね。
いとうせいこう:わかりやすくしようってなっちゃんだよね。でも読者って、無駄なところを覚えているからね。結末を覚えている読者なんかいないよ!あんまり浮かばないんだよね。もっと変なところはいっぱい覚えているけどさ。そういうことです。
劇団ひとり:芸人は無駄が書けないっていわれたことがあります。普通の小説家だったら、例えば学校に行くシーンでも、行くまでの道のりで三ページ繋げるのに、芸人だと学校に行くっていう一行で終わらせちゃう。
いとうせいこう:オチが欲しいからね。そういう形で次回作にうんうんいっている劇団ひとり監督に、質問がある方!手を挙げて下さい。

Q:この作品をみた時に私は、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を思い出したんです。日本の心で書くとこうなるんだなって印象を持ちました。劇団ひとり監督が、影響を受けた作品があれば教えて下さい。
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劇団ひとり:そうですね。タイムスリップものは、やってみたい一個のジャンルですよね。それと男女の心入れ替わっちゃうシリーズとか (笑)。そういう王道は、とりあえずやってみたいっていうのが何個かある中で、タイムスリップは絶対いつかやるから、もうやっちゃおう!っていうのもあったんですけど。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』はどこかで影響は受けていると思うんですけど、もっと意識的に影響を受けているのは、完全に『男はつらいよ』ですね。僕はもう寅さんがとにかく好きで、今回のキャラクターの造形とかは、山田洋次さんのあの世界観にかなり影響されていますし、僕が演じた正太郎なんかは完全に寅さんイズムで作ってます。
いとうせいこう:土手歩いているからね!
劇団ひとり:かなり意識して『男はつらいよ』みたいなものにしたいな、タイムスリップだけじゃなくて人情話にしたいなって意識はずっとありました。
いとうせいこう:それは凄くよく伝わってくるし、新しいタイプの寅さんが生まれていると思いますよ。だから、佃煮もらったんじゃない??
劇団ひとり:(笑)。そういうことですかね??
いとうせいこう:これからも映画も小説も凄くいいものを作っていくと思っています。どうしてもコンスタントにやっていくことは必要なので。でも飽きたら飽きたでしばらくやらないのもいいんだけどね。僕は十五年スランプでものが一行も書けなくなったことがあったから。
劇団ひとり:十五年も空きましたか!その間はずっと??
いとうせいこう:書きたい!って。でも書こうとすると、こう力が抜けちゃうわけ。
劇団ひとり:そこなんですよね。結局世間の評価はともかく、自分の中で自分を越えられない感じがしちゃうんですよね。これ一生懸命書いても、前回のやつに勝てないなって思っちゃうんです。あれを無理やり書き進めるっているのが恐らく大事なんでしょうね。
いとうせいこう:自分の楽しみのためだけに、まずとにかくメモって書いて、それを人に納得させるには化粧させるかなっていう後の労働で、最初にやっているのは労働じゃないもんね。悦楽だもんね。
劇団ひとり:そうですね。そこをね、楽しい気持ちに持っていくのもなかなか難しいんですけど。
いとうせいこう:今度、カラオケでも行こうか??
劇団ひとり:(笑)

取材:佐藤ありす

【STORY】
seiten_11 自分は特別な存在だと思っていた晴夫(大泉洋)。四畳半のアパートでレトルトカレーを頬張りながら、TVで人気急上昇の後輩マジシャンを眺める日々。目を背け続けてきた現実に“普通の日常”を手に入れることすら難しい、と気付き始めていた。生まれてまもなく母に捨てられ、今では父とも絶縁状態。何をやっても上手くいかずに人生を諦めかけていた彼のもとに突然もたらされる父の訃報。自分の惨めさが溢れ出し、生きることの難しさを痛感する晴夫。そこに青空から一筋の雷が放たれる! そして晴夫は40年前の浅草にタイムスリップ。そこで、若き日の父(劇団ひとり)と母(柴咲コウ)に出会う。そして、ひょんなことから父とコンビを組み、一躍人気マジシャンになっていく。生まれて初めて味わう満たされた日々。全てが順調に思えた矢先、明らかになる母の妊娠。そして、ある決断を迫られることになる父。明らかになっていく家族の愛と想い。そして晴夫自身の出生の秘密。果たして彼と家族を待ち受ける思いもよらぬ真実と結末とは――

青天の霹靂
監督・脚本・原作:劇団ひとり
出演:大泉洋、柴咲コウ、劇団ひとり、笹野高史、風間杜夫
発売元:アミューズソフト 販売元:東宝
(C)2014「青天の霹靂」製作委員会

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