柳ケ瀬が お化け屋敷の 怖い理由(ワケ) 『夕暮れの帰り道』上映会 潜入記


柳ケ瀬が お化け屋敷の 怖い理由(ワケ ――『夕暮れの帰り道』上映会 潜入記――

岐阜県岐阜市の商店街、柳ケ瀬。中部地方有数の繁華街である柳ケ瀬のキャラクターは?と問われれば、非公認キャラクター“やなな”と答える人が多いだろう。やななは2013年に惜しまれつつ引退したが、柳ケ瀬にはもう一人名物キャラクターが居るのをご存じだろうか。
彼の名前は、“やなお”君。2012年、旧豊臣座(岐阜市 柳ケ瀬通り1丁目)で開催されるや否や、東海地方は言うに及ばず日本全国から熱い視線を向けられている柳ケ瀬の新名所“お化け屋敷”の語り部であり、入場者の分身となる存在である。
今や全国に波及した“商店街型お化け屋敷”だが、先駆けとなった柳ケ瀬お化け屋敷は、やはり一味違う。諸事情により2年ぶりの開幕となる今年のお化け屋敷を首を長くして待っていたファンが多いのも当然で、なにせ柳ケ瀬お化け屋敷は本懐である“怖さ”に尋常でない拘りを持っているのだ。入場者の絶叫が更なる恐怖を呼び、阿鼻叫喚の地獄絵図と化した会場は、今年もリタイヤする者が後を絶たないそうだ。

「ビジネスじゃなくて非営利なので、収益を上げたら寄付するか繰り越すと言う形を取っているんです。とは言え、プラマイゼロまでは持って行きたいんですよね。『まちおこしをやりました、結果マイナスでした』では、「あいつら馬鹿だよね」って言われてしまうだけです。だから、マンネリには本当に気を付けてるんですよ。今年の【恐怖の細道】でお化け屋敷も3回目ですが、皆さんに更に楽しんでいただきたくて、映像作品とのコラボレーションを企画したんです」

柳ケ瀬お化け屋敷【恐怖の細道】を主催する製作委員会『やながもん』の宣伝担当・稲垣康雄氏は、「本業をやりながらなんで、本当に大変です」と言いながら、瞳の奥は常に笑顔だった。

柳ケ瀬お化け屋敷【恐怖の細道】コラボムービー『夕暮れの帰り道』(2015年/12分)は、『破線のマリス』(2000年/108分)・『象の背中』(2007年/124分)の井坂 聡監督が手掛けたリージョナルホラー映画である。
2015年8月16日、CINEX(岐阜市 日ノ出町)で『夕暮れの帰り道』上映会が開催され、大勢のお化け屋敷ファン・映画ファンを集めた。舞台挨拶では、登壇者それぞれの口から貴重な作品解説を聞くことが出来た。

_1090040

――この映画を撮ることになった経緯は?(司会進行:もりとみ舞(『夕暮れの帰り道』出演))
井坂 聡(監督・脚本・編集)
「去年11月の【柳ケ瀬ホラーナイト】の時、『やながもん』代表の吉村さんと知り合いまして、酔った勢いで「来年のお化け屋敷で色々やりたいから、その時はよろしく」と言われて「はい」と言ったのがそもそもの始まりです。今年の3月、吉村さんがイメージを持ってきてくれたんです……飲み屋で、パソコンを広げて……飲む前ですよ、ビールが目の前にあったら「うん」って言わざるを得ないじゃないですか(笑)。絶対に岐阜で撮らせていただきたくて、2泊3日で頑張ってロケをさせていただきました。僕は東京から来て、岐阜の風景を切り取ってる訳ですので、地元の方は「ここがこう言う風になるんだ」って発見があるんじゃないかと思います。地元の好い所や可能性に気付いて、元気付く映像が一杯あると思ってます」
さのてつろう(撮影)
「皆さんの「柳ケ瀬を盛り上げよう」って言う熱い思いに心打たれました。僕が撮ったと言うよりも、皆さんの気持ちが乗り移って撮れたような映像が一杯あります。とにかく、ひたすら走りました(笑)。子供の頃から不思議なことや場所が好きで、歴史のある土地ですし、撮りたいなと思う場所は随所にありますね。なので、第2弾・第3弾があれば、もっともっと撮りたいと思います」
牛抱せん夏(主演)
「済みません、私は出てないんです。私の“双子の妹”が出てまして……彼女、生前の名前を憶えてないと言うことなので、私の名前が仮でエンドロールに流れてますけど、実際には妹が出ています。……済みません、ちょっと静まり返ってしまいましたけど(場内笑)」
――少し補足をさせていただきますと……牛抱せん夏さんには双子の妹がいらっしゃいまして、その妹さんは人間じゃないんですよね?
牛抱「そう、口裂け女なんですよ。私、妖怪と双子なんです。柳ケ瀬お化け屋敷イメージキャラクターは、本物がやってるんです(笑)。普段は鶯谷トンネルにいるんですけど、今日もお化け屋敷の前で暴れてましたね……今もいるんじゃないですか(笑)?」

そう、“口裂け女”発祥の地は、ここ岐阜なのだ。(諸説あり)
『夕暮れの帰り道』は“やなお”君の行動を追体験するPOV型のホラームービーで、取りも直さず、柳ケ瀬お化け屋敷【恐怖の細道】の世界を真髄を味わうことに等しい。
【恐怖の細道】に入場した者ならば、お化け屋敷の世界観をじっくり反芻することが出来る。特に、恐怖に耐えられず途中退場してしまった入場者にとっては、非常に感慨深い映像体験となるに違いない。
そして、これから【恐怖の細道】に挑む者にとっては、恐怖を増幅する為の呼び水にも、普通では辿りつけない表現の機微を味わう為の羅針盤にもなる。『夕暮れの帰り道』を鑑賞した後に【恐怖の細道】を体験する者の手には、物語の最深部へのチケットが握られているのだ。
恐ろしく、寂しく、哀しく、そしてどこか心地好い異空間が、体験する者の心を掴んで離さない。【恐怖の細道】が『夕暮れの帰り道』が人々を惹きつけてやまない理由は、こんな所にあるのだと思う。

またこの日、井坂 聡監督の作品世界にもっと深く触れるため、2014年制作のショートムービー『同居人』(2014年/30分)が同時上映された。

_1090038

井坂 聡(監督・脚本・編集)
「『同居人』は、牛抱せん夏さんの原作です。ご自身の体験をご自分で演じていますので、是非、怖がって観ていただけたらと思います」
山口敏太郎(監修)
「何となく途中で空間が歪んでいるような、時間軸がずれているようなシーンがあるんですね。この次元と違う次元が交わってるような、端境を観ていくと「ここで物語の世界観が変わってるな」と気付くと思います。それは、お化け屋敷の場面転換にも通ずるところがあるので、どこで異世界と人が交わっていくかをポイントに観ていただければ面白くなるんではないかと思います」
牛抱せん夏(原作・主演)
「『同居人』は、私が自分で実際に住んでいるアパートで体験したお話になります。撮影時にも、結構色んな怪奇現象が起こったりした作品です。私の体験談がベースになってるんですけど、そこにオリジナルの登場人物やストーリーが加わっておりますので、是非楽しんでください。」

原作者の牛抱せん夏氏みずから主演していることもあり、こちらの作品の恐怖もまた格別である。独立した映像作品である分、戦慄度は『同居人』の方が上とも言える。上映機会があるならば、観逃さないで飛びついてほしい作品だ。

上映会も佳境に入り、『やながもん』代表の吉村輝昭氏が『夕暮れの帰り道』主題歌『さよなら』を生ギターとブルースハープで熱唱すると、同代表の口から更なるサプライズが発表された。8月30日を以て閉幕する予定だった柳ケ瀬お化け屋敷【恐怖の細道】は、土・日・祝日限定で9月23日まで会期を延長するとのこと。
柳ケ瀬の熱い夏は、まだまだ終わらない。

「井坂監督の目指した“リージョナルムービー”は、素晴らしい作品になりました。大きなスクリーンで観るのがこんなに素敵だとは思っていなかったので、今後もまたこう言う機会を検討しなければいけませんね」

柳ケ瀬のアーケード街を歩きながら、吉村代表はこんなことを話してくれた。
柳ケ瀬お化け屋敷【恐怖の細道】から、『やながもん』から、まだまだ目が離せない。

_1090049

 

左より:吉村輝昭・さのてつろう・井坂 聡・牛抱せん夏・山口敏太郎・もりとみ舞

柳ケ瀬お化け屋敷【恐怖の細道】公式HP
CINEX公式ホームページ

取材:高橋アツシ

記事が気に入ったらいいね !
最新情報をお届け!

最新情報をTwitter で