ままならぬ毎日に、ひとかけらのロマンスを『ロマンス』レビュー


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『ふがいない僕は空を見た』『四十九日のレシピ』のタナダユキ監督、7年ぶりのオリジナル作品『ロマンス』が人気観光地、箱根を舞台に主演に大島優子を迎え今夏公開される。

北條鉢子(大島優子)は、新宿~箱根間を結ぶ特急ロマンスカーのアテンダントとして働く26歳。
しっかり者で仕事の成績は常に上位、頼りない後輩(野嵜好美)の失敗もフォローするデキる女の子だが、一方で、彼氏(窪田正孝)にお金をせびられるとつい渡してしまう弱い面も。

その日も順調に業務をこなす鉢子だが、中年男(大倉孝二)がワゴンからお菓子を万引きするのを目撃、その場で男を取り押さえる。
しかし、お金は払うつもりだったとうそぶく男はあっさり解放されてしまい、苛立つ鉢子。
しかも男は、鉢子が破り捨てた手紙をごみ箱から拾い上げ勝手に読んでしまった!
手紙はもう何年も会っていない母親、頼子(西牟田恵)から来たものー男は鉢子にこう告げる「もしかしたらこの手紙の主、死のうとしてないかな」
自称・映画プロデューサーのその男、桜庭に促され、鉢子は急遽家族の思い出の地、箱根で母親を捜すことになる。女の子とおっさん、奇妙な二人の一日だけのショートトリップの始まりだったー。

鉢子が7歳の時両親は離婚し鉢子は母親に引き取られたが、離婚後男の出入りが激しくなった母親とはろくな思い出はなく、男ともめた時だけ優しくなる母を小さな鉢子は冷ややかに見つめていた。
グレることもなく成長し、自立した鉢子には母の思わせぶりな手紙は迷惑なだけだったが、桜庭の不吉な予言が鉢子を母親捜しに駆り立てる。

調子が良くて口がうまい桜庭と、現実的でシビアな鉢子のやりとりは噛み合わず、二人のジェネレーションギャップがさらにお互いのわかりあえなさを増幅させていて、それが絶妙に面白い。
若い鉢子のほうが桜庭よりも精神的にずっと大人で、桜庭のずるさやしょうもなさを見抜いてしまうのは、鉢子が大人のずるさに振り回されてきたからもしれない。

しかし、母親を捜して小田原城、箱根登山鉄道、大涌谷、たまご茶屋、芦ノ湖、仙石原、箱根関所ーと幸せだった家族旅行の思い出の場所を巡っていくうち、鉢子は少しずつ母親に対する気持ちが変化していくのを感じるー。
「胡散臭いおっさん」でしかなかった桜庭にも辛い過去があり、彼にも抱える想いがあることが明らかになる。

みんながみんな、うまくいかない現実を生きているのだ。
いきなり理想の恋人は現れないし、突然大金持ちになることもない。ましてや自己中な母親を別人に変えられるわけでもない。
人生を受け入れていたつもりだったけれど、桜庭との旅で鉢子はもう一度自分のありのまま、母親のことすらも、諦めではなく、肯定できる気持ちになってゆくー。自分は自分のままで生きていくのだ。

大島優子が等身大の26歳を伸びやかに演じ、胡散臭いが憎めない桜庭を大倉孝二がさすがの演技力で息づかせる。
友情とも愛情とも呼べない二人の関係は、束の間でも他人と人生が交差する瞬間のいとおしさを染み渡らせる。
人生をそっくり変えることは出来ないけれど、繰り返す日常に溢れる小さな 「ロマンス」に気づけた時、人はまた人生を歩む小さな力を与えられるのだ。
一期一会が胸に染みるショートトリップ・ムービー、観た後は、ほんの少し自分を肯定したくなる!

文 小林サク

『ロマンス』
©2015東映ビデオ
公式サイト http://movie-romance.com/
2015年8月29日(土)全国ロードショー

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