自、来たる也『極道大戦争』レビュー


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――自、来たる也―― 『極道大戦争』レビュー

闇の中、長ドスが鈍く光る。一人、二人と白刃に新たな血糊を染みこます古風な侠客も、多勢に無勢は如何ともし難く、反撃の凶弾を胸に受ける。二発、三発、四発……しかし、鉛弾も漢の脚を留めることは出来ない。“伝説のヤクザ”と呼ばれるには、それ相応の理由があるのだ――。

『神さまの言うとおり』(2014年/117分)で奇天烈な世界を構築したかと思えば、『風に立つライオン』(2015年/139分)では重厚なヒューマニズムを表現し新境地を拓く。監督デビューから四半世紀を経て尚お輝きを増す鬼才・三池崇史監督の最新作『極道大戦争』は、血で血を洗う凄惨な抗争シーンで幕を開ける。本格的な“仁侠映画”を期待せずにはいられない名場面であるが、そんな観客の想いとは遠くかけ離れた場所へ作品は暴走していく。

『極道大戦争』Story:
敏感肌の半端ヤクザ、影山亜喜良は、 最強伝説を持つヤクザの親分、神浦玄洋に憧れヤクザになった。 ある日、毘沙門通りにやって来た謎の刺客たち。 その圧倒的な強さに神浦と影山はなすすべもなく倒れる。 最期の力を振り絞り、神浦は影山の首元に噛み付いて叫ぶ。
「わが血を受け継いで、ヤクザ・ヴァンパイアの道を行け!!」
超人的能力を身につけた影山の敵討ち。商店街を襲う恐るべき血の連鎖。 影山最後の決戦を迎えようとした時、大地が揺れ、奴がやって来る――。 そして、神浦の力を受け継いだ影山の完全覚醒の時が迫っていた……!!

……このStoryを読んで瞬時に理解することが出来るのは、余程の読解力と人並み外れた洞察力とを併せ持つ御仁に違いない。そんな超人ならざる者がこの文章を読んだなら、頭に浮かんだ疑問を解くため読み返し、謎が謎のまま残る結果となり臍を噛むことであろう。断言するが、その疑問は『極道大戦争』を観終わったとしても残り続ける。
三池監督、益々絶好調なのだ。

半端者のヤクザ・影山を演じる市原隼人は、文句なしの輝きを放つ。ただの擦れっ枯らしのチンピラが“血の継承”を受けてヤクザとして覚醒していく様子を、美事な“肉体言語”で表現する。
カタギからも尊敬される組長・神浦役のリリー・フランキーは『神さまの言うとおり』に続く三池組となるが、順序からするとこの作品が初参加と言う。その存在感は流石と言うより他ない。特に、声がいい。
高島礼子も、『極道大戦争』が三池組初参加である。高島が演じる神浦組若頭は、膳場壮介と言う。その辺の説明は、一切無い――それが、『極道大戦争』と言う作品なのだ。
でんでん、渋川清彦、青柳 翔、優希美青、渡辺 哲……老いも若きも男も女も、ヤクザ・カタギの垣根を越えて、百花繚乱の活躍を見せる。役どころを含め、坂口茉琴を御見逃しなく。

対するは、『ザ・レイド』(監督:ギャレス・エヴァンス/2011年/101分)『ザ・レイド GOKUDO』(監督:ギャレス・エヴァンス/2014年/146分)でインドネシアの格闘技・シラットを炸裂させ全世界を震え上がらせたヤヤン・ルヒアン演じる“狂犬”、どうしてもヴァン・ヘルシングを思い起こさせるテイ龍進演じる“伴天連”ら、謎の殺し屋集団の面々だ。
そこに“最強のテロリスト”が現れたことにより、映画のボルテージはマックスとなる。“着ぐるみ界のレジェンド”を彷彿とさせる体色で“ゆるキャラ界のニューカマー”を思い起こさせるトリッキーな行動を見せる“最恐の刺客”は、凄まじいアクションで大立ち回りを見せる……いやさ、魅せる。なんたって“内臓”はアノ人なので、キレッキレだ。

幸薄いホステス・杏子を演じる成海璃子が決戦の合図をするシーンは、『極道大戦争』を代表する名場面である。この短いカットの唐突さ、馬鹿馬鹿しさを笑い飛ばせる人向けの『極道大戦争』と言えるのであるが、この“試金石”は物語の最終盤なのでそれが解ったところで如何とも仕難い。

物語の舞台、昭和の残滓匂い立つ“毘沙門仲通商店街”にも注目してほしい。このオープンセットが組まれたのは日活撮影所の取り壊しが決まったステージの外だそうで、三池崇史監督がテレビドラマの助監督として「一番いろんな事を学んだ場所」だと言う。
思えば、『極道大戦争』の脚本を担当したのは、助監督として三池組を支えた山口義高氏である。山口氏は、近年では『アルカナ』(2013年/89分)『猫侍』(2014年/100分)と、監督(共に、脚本も担当)としての活躍も目覚ましい。
おお……こんなところにも、“血の継承”が!

文 高橋アツシ

『極道大戦争』 【PG12】
6月20日(土)より、TOHOシネマズ新宿、TOHOシネマズ名古屋ベイシティほか全国公開
配給:日活 (C)2015「極道大戦争」製作委員会
公式サイト http://www.gokudo-movie.com/

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