呪いと予言 そして、現在 『チョコリエッタ』鑑賞記


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呪いと予言 そして、現在 ――『チョコリエッタ』鑑賞記――

2015年3月21日、名古屋シネマテーク(名古屋市 千種区)のロビーには、発泡スチロール製の巨大な鯨の頭部が展示されていた。訝しむ気持ちは、この日公開初日を迎えた『チョコリエッタ』(2014年/159分)を鑑賞して、霧散した。劇中で登場する、“『カサノバ』(1976年/148分)の鯨”だったのだ。

『チョコリエッタ』は、東海三県ゆかりの映画である。主演の森川葵さんは、愛知県出身。原作は、名古屋市出身の大島真寿美『チョコリエッタ』。大島氏の出身校である愛知県立 昭和高校(名古屋市 瑞穂区)でのロケを含む、愛知・三重・岐阜の各地で撮影された。“『カサノバ』の鯨”のシーンも、引山バスターミナル(名古屋市 名東区)で撮られたそうだ。
「ロビーに置いてある鯨の頭は全国初公開で、破棄しないでこの日の為に取っておいたものです(笑)。持って帰ってしまうので、今日しか見られません」初日舞台挨拶で登壇した風間志織監督がこんなことを言うので、記者も慌てて上映後のロビーでシャッターを切った。

『チョコリエッタ』Story:
時は、2021年。
宮永知世子(森川 葵)は、父(村上 淳)と霧湖ちゃん(須藤温子)と暮らす高校二年生。十一年前、母・香世子(市川実和子)に掛けられた“呪い”もあって、進路調査が問題となり担任・岡見(宮川一郎太)に呼び出しを受ける。
正岡正宗(菅田将暉)は、知世子が所属する映研OBの20才。現役の部員(岡山天音・三浦透子)に言わせると“中々の変人”で、いつもハンディカムで何かを撮っているが作品を完成させたことは一度もない。彼もまた、爺様(中村敦夫)から“呪い”を掛けられている。
二人はフェデリコ・フェリーニ『道』(1954年/104分)のジェルソミーナとザンパノのように、放射線に塗れた“うんこみたいな世界”を疾走する――。
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風間 「原作で、フェリーニの『道』がとっても重要なモチーフで出てきます。映画化するに当たり引用したかったんですが……フェリーニの『道』は、映像も音楽も映像作品への使用には絶対に許可が下りないと言うことで、再現映像と言うか新たに『道』を作ろうと言うことになりました(笑)。ですが、ジュリエッタ・マシーナ演じるジェルソミーナの役の子が全然決まらなかったんです。東京で外国人のモデル事務所を片っ端から当たって虱潰しに探したんですけど、全然いないんです。ひょっとして日本人の方が良いんじゃないかと言っていたところ、プロデューサー(伊藤直克氏)が「多分、名古屋に居るよ!」言い出して(笑)……そうしたら、本当に居たんです!当時、美大の学生さんで、道化師に惚れて込んで自ら大道芸の道化師をやっていて……もう、まさに“ジェルソミーナ”で!」

咲衣(さきえ)みちけ 「見た物、体験した物が絵になると言う信条がありまして、大道芸人の方の傍にいて自分も出来ないなりにやらせてもらっていたんです。ある日お話を頂いたんですが、私もフェリーニの『道』は大好きだったので、行ってみたんです」

風間 「深夜だったよね(笑)」
咲衣 「説明会だと思ってたら、オーディションだったと言う(笑)」
風間 「もう、即決でした(笑)!」

風間監督が即決したのも良く解る。咲衣さんの“ジェルソミーナ”はとにかく嵌まっていて、監督は“再現映像”などと卑下していたがフェリーニ監督『道』のオマージュ場面は素晴らしかった。特にジェルソミーナが知世子の心象に直接語りかけるシーンは出色で、“『道』を再現する”ことは本当に英断であったのだと驚嘆した。

“センパイ”と言うフレーズが“ザンパノ”と不思議な発音の同調を見せるように、ジェルソミーナと“チョコリエッタ”が60年の時間を越えて不図シンクロする。そう――舞台は近未来なのだが、これは“現在(いま)”を生きる進行形の物語である。
そして、知世子と香世子の台詞を焼き付けたフッテージが、時を越えてシンクロする。そう――映画は、永遠なのだ。

取材 高橋アツシ

『チョコリエッタ』公式サイト
名古屋シネマテーク公式サイト

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