初期衝動を、取り戻せ!『VHSテープを巻き戻せ!』鑑賞記


初期衝動を、取り戻せ! ――『VHSテープを巻き戻せ!』鑑賞記――

2014年8月30日、シネマスコーレ(名古屋市 中村区)では、話題のドキュメンタリー『VHSテープを巻き戻せ!』が公開初日を迎えた。

『VHSテープを巻き戻せ!』(監督・脚本・原案:ジョシュ・ジョンソン/2013年・アメリカ/91分)
解説:ホームビデオの登場によって、わたしたちと映画との関係はどう変わったのか。関係者へのインタビューとフッテージにより丹念に描く。消えゆくメディア「VHS」がなぜいまも多くの映画ファンを魅了するのか。ビデオが築いた功績を辿り、新たな視点で再燃するVHSブームをひも解く。全ての映画好きに捧ぐ、愛すべき映画狂による映画愛溢れるドキュメンタリー。

シネマスコーレでの『VHSテープを巻き戻せ!』は、8/30~9/1と言う期間限定での上映であるが、全ての上映後にはトークイベントが付いた。それもそのはず、ここ名古屋には『VHSテープを巻き戻せ!』と言う作品を語る上で、打って付けの人物がいるのだ。

「この間、“アメカル映画祭 主宰”を拝命いただきました(笑)。普段は、名古屋駅前のピカデリーとミッドランドスクエアシネマの支配人をしております、森と申します。今日はどうぞお付き合いください」
「坪井です。僕はシネマスコーレのスタッフですが、白石晃士監督から“VHS狂人”と言う素晴らしい名前を付けていただきました(場内笑)」(画像:坪井)amekaru2

8月30日の上映初日のトークショーは、“アメカル映画祭 主宰”森 裕介さんと“VHS狂人”坪井篤史さんが『“チーム・アメカル”によるVHSお楽しみ講座』を繰り広げた。

坪井「『アメカル映画祭』に一度でも来た事がある方は『VHSテープを巻き戻せ!』を観て感じると思うんですが、似たようなことを世界中でやってることが判明しましたね(笑)。『アメカル映画祭』って言うのを軽く説明しますと…後世に語り継がれるようなことをやりたくて、「誰も知らない映画を、知りたくない人に向かって、皆で知ったらどうなるんだろう…結局、知らない方が良かった」ってことをやろうと思ったんですよ」

『アメカル映画祭』の“アメカル”とは、“Amazing Cult”の略である。名古屋地区で不定期に開催される、文字通り“驚愕の未知なるスキマ映画の宴”であり、カルトと言うだけあって熱狂的な信者が多数存在する。毎回、普通であれば成立しないはずのジャンルがセレクトされ、森さん、坪井さん秘蔵のコレクションの中から厳選されたゴミ……陽の目を見なかった映画をコメンタリー上映する、お祭り企画である。

坪井「一番ショックだったのは、作品に出てくるコレクター達の部屋なんですが…」
森「そうそう。意外にまともだよね」
坪井「テレビでよく見た“ビデオをいっぱい持ってるダメな人”の部屋がが出てくると思ったんですけど…物凄い綺麗なんですよね。僕らの部屋は、色んな事件を起こしちゃったような人たちの部屋みたいなのに(場内笑)」
森「もっと凄い本数所蔵してるのかと思ったりしたんだけど…“アメカル部屋”より少ないじゃん、と思って」
坪井「つまり、みんな意外に常人で、こっちは意外に狂人だったってことが分かったんですよね(場内爆笑)」

ここで言及された“僕らの部屋”“アメカル部屋”とは、森さんと坪井さんで借りたアパートの一室のことだ。AmazingでCultな作品のコレクション部屋にして、『アメカル映画祭』を産み出すフッテージ群が眠る資料室で、3~4000本のVHSテープが床から天井まで積まれている。(画像:森)amekaru1

坪井「VHSの魅力って、何なんでしょうね?」
森「やっぱりジャケットかなって思うんですよね。並べた時に、DVDって薄っぺらいじゃないですか。VHSは、コレクション魂を擽る物がありますよ」
坪井「重厚感っていいですよね。持った時に、どんな薄っぺらい映画でも“ドスン”と来る…それが許せない時もありますけど、こんなゴミに対してこんな重さがあるのかと(場内笑)」
森「存在感がありますよね。棚が無くても、動かないですもんね」
坪井「そう、支え合うんです。DVDは“もやしっ子”なんで支え合わないんですけど、VHSのケースは肥えてるので支え合いが出来るんですよね(笑)。森さんは“レンタル世代”では無いんですか?」
森「いや、レンタルしてましたよ。ただ僕らの時代のレンタルって千数百円だったし…週末、親にビデオ屋連れてってもらって、凄い吟味して…小学校の高学年くらいかな。でも、レンタルよりも、テレビのロードショー番組を録画して“所有できる”って言う感覚が凄く強かったような気がする」
坪井「僕が子供の頃、近所に初めてレンタルビデオのチェーン店が出来たんです。料金は350円くらいだったと思いますから、森さんの時代に比べると随分下がってますね。その当時何をやってたかって言うと…土曜日学校が半分で終わると、友達の誘いをみんな断ってレンタル屋に行くんです。で、観たいビデオが借りられてると返ってくるまで待つんです(場内爆笑)」
森「そこで待つってこと?だって、その日に返ってこない時もある訳でしょ?」
坪井「あるあるあるある…凄いですよ、6時間7時間の世界じゃないですよ、本当に(笑)。待ってる間に、パッケージ読んじゃったんですよ、全部。で、並べ替えの作業をし出しちゃったんです。だって、『13日の金曜日』の2と3の間に『新13日の金曜日』とか有ったらダメでしょ(場内笑)?それを見てたバイトの人が、「何してんだ!」と怒るのかと思ったら、「これ、どこにあるか分かる?」って僕に聞くようになったんです(場内爆笑)。色んな映画があることを知って、「いつか観たいな」と思ったんです」
森「それ、幾つの頃だっけ(笑)?」
坪井「小学校4年生ですね(場内笑)。ヒッチコック、年代順に並べましたよ…「これ、『マーニー』間違ってるんじゃない」とか言って(場内爆笑)。僕にとって、VHSって“映画図書館”なんですよ」

“ビデオ収集”と“映画館鑑賞”――相反するとも思われるふたつの嗜好が並び立つことを、即ち『VHSテープを巻き戻せ!』と言う作品を映画館で上映される意義が明確に感じられた一瞬だった。
今後、全国での公開が待たれる『VHSテープを巻き戻せ!』――消えゆくVHS収集と言うニッチ趣味に焦点を当てると見せて、歌いあげられる高らかな“映画愛”を、どうか御観逃しなく。

また、ビリーバー待望の『アメカル映画祭』は、次回9月22日(月)に開催される。会場は『ライブハウス&居酒屋 TOKUZO 得三』(名古屋市 千種区)で、19:30開演だ。
常人が一生を費やしても巡り会えない稀覯作を、狂人と称される者のみが持ち得る智識を、目の当たりに出来る千載一遇の機会、どうか御観逃しなく。

取材 高橋アツシ

『VHSテープを巻き戻せ!』公式サイト:http://uplink.co.jp/vhs/sp/
シネマスコーレ公式サイト:http://www.cinemaskhole.co.jp/cinema/html/home.htm
TOKUZO公式サイト:http://www.tokuzo.com/

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