ピースの祭典、十二人 --『サッドティー』鑑賞記--


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ピースの祭典、十二人  --『サッドティー』鑑賞記--

「暇だから二股とか、最低でしょ」
映像作家・柏木(岡部成司)は言う。夕子(永井ちひろ)というパートナーがいながら、緑(國武綾)の部屋に入り浸っていると言うのに。

「ほかに気になる人がいる時点でなんかつきあってちゃだめかな、って思っちゃったんだよね」
早稲田(武田知久)は、付き合っている園子(星野かよ)の記念日にこう告げる。一目惚れしたのは、プレゼントを買いに行った古着屋の店員・棚子(青柳文子)だ。

「今から競歩で行けば、明日の17時には海岸に着くから」
そう言って、朝日(阿部隼也)は風を切る。
遠くから見ているだけの10年来の想い人・夏(内田慈)は、結婚目前なのだが。

プロから直接指導を受けられることで評判の専門学校「ENBUゼミナール」の劇場映画製作企画「ENBUシネマプロジェクト」。今泉力哉監督最新作『サッドティー』は、このプロジェクトのワークショップから生まれた映画である。ゲスト俳優の内田慈さんと男性2人以外は、出演者全員ワークショップに応募した生徒だと言う。(左より、阿部隼也、岡部成司、今泉力哉監督)

「どんなワークショップだったんですか?」
名古屋シネマテーク・スタッフの永吉直之氏は、こんな質問をした。2014年2月12日、名古屋シネマテークは平日だと言うのに席が埋まった。この日の『サッドティー』は、上映後に舞台挨拶が執り行われたのだ。

岡部成司 「監督がちょっと設定を書いた台本を用意して、そこからのエチュード……即興のアドリブ芝居をやったりとか。実際、そこのエチュードで出た台詞や設定とかを本編で使っている場面もあったりします」
今泉力哉監督 「本当は脚本とか早く出来てれば、それの練習とかも出来るんですけど……まぁ、ホンが遅くて(笑)パーツパーツをやってた、みたいな……」
岡部 「撮影前日の未明の時間とかにパソコンに脚本が送られて来たりとかしまして……大変参りました(笑)」
阿部隼也 「左に同じです」
永吉 「練習中の今泉監督と、実際に撮影の演出をしてる今泉監督は、違うんですか?」
岡部 「うーん……いや、そんなに大きく変わらないと思います」
阿部 「そんなに(違いは)無いです」
岡部 「今も、現場と変わらない感じです。凄く優しく演出してくれる方ですので」
阿部 「左に同じです」
今泉 「「左に同じ」言いたいだけでしょ!(笑)」

前作『こっぴどい猫』(2012年)ですっかり“ダメ恋愛の伝道師”的な立ち位置を定着させた感のある今泉監督。最新作『サッドティー』も恋愛劇で、観る者を笑わせながらも深く共感させる“ダメ恋愛群像エンターテイメント”作である。登場人物が纏う空気はまるで実在の人物そのもので、アドリブを思わせる丁々発止は観ていて堪らなく愛おしい。観客からアドリブ芝居についての質問が出たのだが、意外な答えが返ってきた。

今泉 「脚本が終わった後カットを掛けずに演らせる事はあっても、基本的にアドリブの台詞はそんなに無いです。アドリブに思えるくらい自然に見えてたら有難いなって感じです。朝日(阿部隼也)が牛乳を飲むシーンも、「一気飲みして」とかの指示はしてました」
岡部 「でも、あんなに飲めとは言ってないですよね?(笑)」
今泉 「そうそう。実際に使ってる部分の後も芝居は続けていて、実は更に2~3杯一気して牛乳パックが空いて、岡部さん(柏木)がアドリブで「まだあったよね?」って永井さん(夕子)に言って、永井さんが台所に向かって…あれ、俺ん家で撮影してるんですけど…本当に、もう一本あったんです。牛乳もって永井さんが戻ってきたとき、もうね、……もうスタッフも全員笑いを堪えてて、カメラも揺れてると言う(笑)」
阿部 「で、その日の夜が、もう腹が……」
今泉 「腹、下してたよね(笑)」
阿部 「もう、ヤバかったです(笑)」
今泉 「後、朝日と夕子(永井ちひろ)の“名前のやりとり”は、あれ完全に煮詰まって脚本書いてた喫茶店で実際に行われていた二人の男女の会話を完コピしたものです(笑)俺今まで一回も完コピとかした事ないんですけど、「これ、ちょっと面白いな」と……丸々パクりました(笑)」

登場人物の雰囲気が余りにも実在の人物然としていることも相俟って、まるで演者の私生活を盗み見してるような錯覚に陥りそうになる『サッドティー』(と言うより、今泉監督作品)の真骨頂である会話劇に御注目あれ。余りの自然さについつい聴き流してしまいがちだが、実は全編通して名台詞のオンパレードなので、120分の上映時間は気を抜かずに居ていただきたい。そして、トリプルファイヤーの音楽に御傾耳を。とても効果的に格好良く使われるトリプルファイヤーの楽曲は作品世界に見事にシンクロしていて、その中の一曲は登場人物の会話にすら影響を及ぼす。

今泉 「タイトルは…10個くらいはあったよね?」
阿部 「相当ありましたよね、タイトル」
今泉 「みんなにちょっとずつ前台本とか渡すんですけど、渡したタイトルが毎回違ってた、みたいな。助監督が“日々スケ”って言う撮影のスケジュールを出すんですが、そこのタイトルが俺への当て付けか毎日違うタイトルなんですよ(笑)最初は、『失敗』ってタイトルだったんですけど……何でしたかね……」
岡部 「“寂茶(さびちゃ)”」
今泉 「そうそう。『寂茶』って言うタイトルをずっと考えてて。それで、『寂茶 -SAD TEA-』みたいな。でも、「『寂茶』…お客さん、入んなくねぇ?」ってことになって(笑)で、『サッドティー』になったんですが、決まった後も『となりのサッドティー』にしたくなって……タイトルってほかの作品とカブると嫌なんでネットで検索するんですけど、“となりの”って『となりのトトロ』と『ホーホケキョ となりの山田くん』しか出てこなくて「巨匠と並べるー!!」みたいなテンションで付けようかと思ったんですけど……まぁ、『サッドティー』に納まりました(苦笑)」

『サッドティー』には、“となりの”ダメ恋愛が溢れている。観客はスクリーンの中に隣人を見付け、いつしか自分自身をも見出す。ダメな人を笑い飛ばしているうちに、ダメな自身を愛している自分に気付く。ダメ恋愛の群像劇は、実は大いなる人間讃歌なのだ。

阿部さんが、夕子役の永井ちひろさんから託された手紙を読んだ。素敵な文章だったので、一部引用させていただく。

「オリンピックで世界レベルのストイックさと美しさに世界中がピースフルな中、私達は半径1mの関係性の中で好きとか嫌いとか、別れるとか付き合うとか、甘えとか幸せとか、そんな事に生きるか死ぬかくらいの勢いで必死に本気で悩んでいます。でも、それが私達の世界で、全てです」

五つの輪で平和になるのも良いが、十二人のダメさ加減でPEACEを満たすのもまた良い。となりで寂茶を啜る人が、平和な空気に溶けていく午後……『サッドティー』、お観逃し無きよう。
近々では、新宿K’s cinemaにて1日限定アンコール上映が2/21(金)21時15分から行われるとか。上映後には今泉監督の舞台挨拶もあるそうだ。

そして、劇場鑑賞する際は周りの座席にも気を付けた方がいい。大きな身を縮めた今泉力哉監督が、普通に座っているかも知れない……あなたの、となりに。

取材:高橋アツシ

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