アニメーションの福音書--シアターカフェ訪問記その2--

「短編アニメーションでは“ひと作家、ひと技術”みたいなことをよく言われます。大学とか教えてもらえる場所はあるんですが、教えてもらっても、結局は自分に適した技とか工夫をしていかないとなかなか良い作品にならないので」

名古屋市中区大須にある、「Theater Cafe」。
ディレクタースタッフの林緑子さんは、映画も観られる喫茶店シアターカフェで、主にアニメーション作品を担当している。美術系の短大を出られて漫画家をやっていた林さん、今回そんな彼女とアニメーションとの出会いを聞くことができた。

「元々短編のアニメーションを観るのが好きだったんですけど、19歳くらいの時に(名古屋)シネマテークさんでヤン=シュワンクマイエルの長編作品『アリス』を観て面白いなと思いまして。テレビで観られるセル画…今はコンピューター制作ですけど…そう言う手描きのアニメと違うアニメーションを知って、そこからはっきり意識して興味を持って観だしたんです。観るのは好きでも、一枚の絵を描くことは出来てもアニメーションを創るのは凄く時間も手間も掛かる作業なので…ワークショップを幾つか受けて自分には性格的に合ってないとわかって…。観る専門だったんですが色々人との出会いとか切っ掛けがあって、小っちゃな上映会を始めて一生懸命コツコツ創っている人たちの作品を紹介していたんです。紹介していると作家さんとも知り合えますし、自分でも積極的に作品を探すんですがそれ以外に友達が教えてくれたりするから、沢山の作品が…自分が割りとボーッとしてても観られる…みたいな(笑)」

なるほど、以前シアターカフェ代表の江尻真奈美さんにお話を伺った時、林さんは『アニメーション・テープス』を主催したった一人で上映会を行っていたと聞いたことがある。

「そうです。『ANIMATIONTAPES』を始めたのは、2000年の11月からでした」

5月24日(金)~5月30日(木)、シアターカフェではアニメーションの特集上映が組まれている。
題して、『みどりの日2 ムサビ特集 黒坂圭太監督★原田浩監督★新谷尚之監督』。昨年5月に行い好評だった林緑子特選アニメーション『みどりの日』特集の第2弾だ。

A(『緑子/MIDORI-KO』(2010年/55分)黒坂圭太監督)、B(『納涼アニメ電球烏賊祭』(1993年/5分)『灰土警部の事件簿 人喰山』(2009年/28分)新谷尚之監督・『二度と目覚めぬ子守唄』(1985年/27分)原田浩監督)の2プログラムからなる合計4本のアニメーション作品は、ファンならずとも垂涎のラインナップである。せっかくなので、林さんに各作品のコメンタリーを頂いた。

『緑子/MIDORI-KO』(Aプロ)
友人と結婚した旦那さんが黒坂さんのゼミ生だった縁で黒坂監督の短編は幾つか借りて観てまして、『緑子』が完成して試写会で観た時には是非名古屋で上映したいと思いました。名古屋初上映は叶いませんでしたが、今回ようやく自らの手で上映できる運びとなったんです。テーマが環境とか食とか色んなこと…生きるために殺していくこととか…が絡まってるんですが、グロテスクだけどユーモアたっぷりです。それから、大変細かく描き込まれた一枚絵が、私は凄く好きなんですよね。黒坂さんの、暗黒面と朗らかな子供のような素朴な面とが上手く込められている感じがして、大好きな作品です。(画像:右上)

『納涼アニメ電球烏賊祭』(Bプロ)
『灰土警部』はアニメーションと謳いつつも実は“紙芝居”のような手法なんですが、同じ新谷監督でも『烏賊祭』の方は普通のアニメーションで、とても幻想的で和風な作品です。スルメと電球から話が広がる…みたいな(笑)はっきりとしたストーリーがある訳じゃないので好き嫌いは分かれると思いますが、私は大好きで何回もお借りして上映させてもらってます。

『灰土警部の事件簿 人喰山』(Bプロ)
これもグロテスクな作品なんですけど(笑)、江戸川乱歩とか横溝正史とか好きな人は特に気に入ってもらえると思います。…それより、もうちょっとエログロかも知れないけど…(笑)民俗学的な…民話みたいな要素もあるし、何より新谷(にいや)さんの作品も独特の笑いがあるんですよ。(画像:右下)

『二度と目覚めぬ子守唄』(Cプロ)
これもやっぱりグロテスクと言うか(笑)…いじめとか社会的にあんまり皆んな見たくないような部分、隠したくなる部分が凄くメインテーマになってます。主人公は、高度経済成長期の陰で苦しんでいるマイノリティ…しかも、子供なんです。マジョリティはどんどん社会を発展させて、どんどん空気を汚して、どんどんお金を使って…だけど、それとは全く関係なく陰で苦しんでいる人たちがいる…そんなマイノリティの心の叫びを描いた作品だと思います。

監督は御三方とも武蔵野美術大学で教鞭を執られているそうだ。
『みどりの日2 ムサビ特集』の“ムサビ”は、ここに由来する。

林さんとお話をしていて、“アニメーション”と“アニメ”とを明確に使い分けておられる気がしたので、その点も伺った。

「人によって意見が分かれるのですが…商業作品で、その中でもセル画ルックな線画で描かれていて、ちゃんとストーリーとキャラがはっきりあるものを“アニメ”と私は呼んでいます。海外だと綴りが違う“anime”って単語として認知されていて、“anime”って言うと日本の商業アニメーションを指すくらいなんです。“アニメーション”はもっと広い…手描きでももっと絵画的だったり、人形や粘土のコマ撮りとか、砂絵とか…とにかく全部を含んだ表現として私は使ってます」

楽しいお話の尽きない林さんは、まさに“アニメーションの伝道師”と言った風情である。
そんな“アニメーション・エヴァンゲリスト”林さんに、今後の布教活動の予定を聞いてみた。

「6月1・2日なんですけど、東京藝術大学大学院・映像研究科アニメーション専攻の卒業生、野中晶史さん…名古屋出身の監督なんですが、初の単独上映会『NOANOA ~野中晶史のアニメーション~』を行います。それから、同じく東京藝術大学大学院アニメーション専攻の今年3月に発表された修了作品を全部借りて、7月の後半に上映することになっています」

10年以上ひとりで機材を抱え全国を飛び回っていた“アニメーションの伝道師”は、「Theater Cafe」と言う“布教拠点”を得て益々意気盛んである。
名古屋の映画産業に於ける“第三極”シアターカフェに、今後も目を離せそうにない。

取材・文:高橋アツシ

Theater Cafe公式HP http://www.theatercafe.jp/

『みどりの日2 ムサビ特集』特設ページ
http://www.theatercafe.jp/schedule/screening/icalrepeat.detail/2013/05/24/528/-/2.html