インディーズは燃えているか?-シネマスコーレ30年史-


インディーズは燃えているか?
--シネマスコーレ30年史出版情報--

2013年4月18日、名古屋のカフェ『ロジウラのマタハリ春光乍洩』では、とあるパーティが開かれた。「前にトークショーやった時は、『李は本当にシックスセンスの持ち主なのか?』ってテーマでしたよね」

名古屋市中村区椿町に在るミニシアター『シネマスコーレ』スタッフ坪井篤史さんが、もう一人の登壇者に話を振る。「よく“見て”たからね…『支配人、スクリーンの裏に女の人がいます!』って」

シネマスコーレ元スタッフ李相美(リ・ソンミ)さんも、笑顔で返す。

この夜、日頃シネマスコーレに集う映画ファンを集めて開催されたのは、『シネマスコーレ30周年記念誌出版記念パーティー』である。『30周年記念パーティー』ではない。シネマスコーレの歴史を伝える本の出版を祝う宴だ。そう。シネマスコーレは、30周年の節目に記念誌を出版した。

題して、『燃えよ!インディーズ』。

坪井・李両氏によるトークショーは、自然と若松監督の話題になる。昨年急逝された映画監督 若松孝二さんは、シネマスコーレの創始者である。
シネマスコーレは、世界で類を見ない“映画監督が創った映画館”なのだ。

「『連赤(実録・連合赤軍 あさま山荘への道程)』を「朝の7時から上映しろ!」って言われた時は、どうしようかと思いましたよ。なんで7時なんですかって訊いたら、「団塊の世代の人間は、朝この映画を観てから会社に行くんだよ!」って」「え?…観終わったら、10時だよね?」「「いいんだよ!年代的に、みんな重役だろ!?」って言われて」 (注:『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』は190分)
「なるほど~(笑)」

実はこれ、『燃えよ!インディーズ』の“スタッフ座談会”で、もっともっと面白い話が読める。84頁の本は、シネマスコーレ30年の記録だけでなく、若松孝二監督が遺した映画館に対して熱い思いを持つ人々が綺羅星のごとくページを飾る。寄稿者を挙げると…
前田弘二氏(映画監督) 白石晃士氏(映画監督) 宇野祥平氏(俳優) 今泉力哉氏(映画監督) 平波亘氏(映画監督) 加藤行宏氏(映画監督) 内藤瑛亮氏(映画監督) 奥野瑛太氏(俳優) 入江悠氏(映画監督) 城定秀夫氏(映画監督)
その他、俳優 佐野史郎氏のトークショーや、松江哲明監督・直井卓俊SPOTTED PRODUCTIONS代表・評論家 寺脇研氏による座談会など、とても紹介しきれないほどの内容である。

「過去の記録を全く残さない映画館だと思いました(笑)…データベースを掻き集めることから始まり、本当に大変だったんですけど、完成してよかったです」全ての編集に携わった山口雅さんは、笑顔を見せた。

「切っ掛けは映画のパンフレットを創ってみたくてデザインを勉強し始めました。映画に関するデザインをやって、楽しかったし、嬉しかったです」デザイナー omo(オモ)さんも、実に晴れやかだ。

「一番嬉しかったのは、朝日新聞が「これからのミニシアターの行く末を見定める雑誌である」と書いてくれたことです」編集長 古川俊治さんが紅潮しているのは、酔いのせいばかりではあるまい。

「みんなの協力があって出来上がった本です。本当に、みなさん有難うございました」編集協力 後藤理圭さんの言葉に、拍手が起こった。

「印刷しながら楽しく読ませて頂きました。ここにいる皆さんの繋がりって、本当にいいなと思います」印刷・製本を行った株式会社 日総研印刷の深津さんは、破顔一笑頭を垂れた。

『燃えよ!インディーズ』出版に係った人達に予告なく挨拶をさせる無茶ブリは、シネマスコーレの名物支配人・木全純治さん一流の労いなのだと思う。そんな木全支配人と共に登壇した井上淳一さんは、“映画人・若松孝二”の遺伝子を継ぐ脚本家である。
「シネマスコーレから若松監督に付いて行ってから29年目にして、なんと若松監督最後の映画の直後に自分の作品が上映されると言うことになりました」

井上淳一さんの監督作品『戦争と一人の女』は、4月27日からロードショーが開始される“昭和官能文芸浪漫”にして“戦闘シーンのない戦争映画”と言う衝撃作。もちろん名古屋ではシネマスコーレで上映され、4月28日には井上監督と主演・永瀬正敏氏の舞台挨拶が予定されている。
『戦争と一人の女』http://www.dogsugar.co.jp/sensou.html

「これからも、井上ともどもスコーレを宜しくお願いします」
木全支配人は、笑顔で一礼した。

『燃えよ!インディーズ シネマスコーレ30年史』
は、通販も受け付けている。
http://ameblo.jp/rengousekigun/entry-11513736641.html

『燃えよ!インディーズ』とのタイトルを聞くと、お土地柄どうしても特定球団の応援歌を思い出さずにはいられない。
パーティが開かれた夜、奇しくもその球団の守護神が前人未到の350セーブを挙げた。ヒーローインタヴューで「次の目標は?」と問われた彼は、「351セーブです」と答えたそうだ。

軽やかに31年目を刻む映画館の姿勢に図らずもオーバーラップした、そんな夜であった。

取材・文:高橋アツシ

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